1999年度報告要旨
 

*報告要旨は、幹事(和田)が執筆し、各報告者が適宜加筆修正したものをそのまま掲載した。執筆・加筆修正の時期は1999年度内である。

 

第1回(通算第28回) 6月2日 報告者:和田 健夫(小樽商科大学教授)
 「ドイツ競争制限禁止法の第6次改正―競争法のヨーロッパ化―」

 報告者は、1998年5月に成立、1999年1月1日に施行されたドイツの競争制限禁止法第6次改正を紹介し、その意義について検討した。今回の改正の特徴は、従来の5回にわたる改正と異なり、EC競争法(独占禁止法)とのハーモナイゼーションが目的となった点にある。報告者は、まず、改正点を概観し、今回の改正が、欧州共同体におけるいわゆる「下からのハーモナイゼーション」がもはや無視できない段階に至っていることをドイツの立法者が認めたことを意味していることを明らかにした。そして、ドイツ法をEC法にハーモナイズすべきかどうかについて行われたドイツ国内の議論を紹介した。結局、ドイツの方法が優れていると考える制度は維持され、ドイツ法がEC法に近づいたのは、運用において両者に差がない場合、ドイツ法の適用範囲が狭められている場合、明確にEC競争法との衝突が起る場合であったこと、その意味では、現実にヨーロッパ化が起っている部分をEC法に合せたとの印象を免れないことが指摘された。しかし、最後に、報告者は、今回の競争制限禁止法の改正から、法のハーモナイズの一端を知ることができることを強調した。

 本報告は、商学討究(小樽商科大学)50巻4号に掲載される。

 

第2回(通算第29回) 6月25日 報告者:道野 真弘(小樽商科大学助教授)
 「ドイツ株式法における小規模会社の諸問題―1994年株式法の再考察―」

 ドイツ株式法は1994年の法改正によって、小規模株式会社のための法規定をあらたに導入した。本来株式会社は大会社向けの企業形態であるが、ドイツの株式会社が先進諸国にくらべ非常に少ないこともあり、他の形態をとる小規模会社の株式会社への参入を促進することがねらいであった。本報告は、この改正の内容を紹介し、改正がドイツ国内においては、多数の支持を受けたこと、ドイツにおける株式会社の数が増加傾向にあることの指摘を主とした。その反面、報告者は有限会社形態が小規模会社に適した形態であり、その意義を再認識すべきであるとの指摘もした。

 なお、当研究会での有意義な質疑応答を加味し、商事法学会第30回大会(1999年7月1日開催)において報告を行った。当研究会でのプレ報告が、有意義な学会報告につながったことを申し述べておきたい。

 

第3回(通算第30回) 7月9日 報告者:長塚 真琴(小樽商科大学助教授)
 「キャラクターの著作権保護」

 本報告は、1999年7月13日に札幌市でおこなわれた、著作権情報センター主催「市民のための著作権講座」における講演のための予備報告である。そのため、様々な実例をOHPで投影しながらおこなわれた。

 報告者は、キャラクターとは何かおよびその利用形態から説明を始め、次に、著作権法上の解釈問題を3つに整理して示し、それらについて関係主要判例と学説状況を報告した。そして、(1)判例・通説の基礎に立ち、抽象的なキャラクターの著作物性を認めるべきではないと考えること、(2)ただし、キャラクターに視覚的に特定できる表現が与えられている場合には、そこに美術の著作物性を認めてもよいと考えること、を私見として提示した。最後に、上記のように著作権による保護の及ぶ範囲を限定する理由とも関連させて、著作権法以外の知的財産法や民法によってもキャラクターは保護されうることについて、説明があった。

 討論においては、出席者諸氏より、多くの有益な指摘を得た。その内容は、著作権法がアイデアに独占権を認めないこととなった歴史的背景に関する質問、キャンディ・キャンディ事件判決における論理構成の問題点、キャラクターの視覚的表現に成立する著作権と漫画全体の著作権の関係(後者があるから前者が正当化できるのでは・保護期間や権利者の異同)、等である。

 本報告(を大幅に洗練した講演)の内容を文章化した講演録(非売品)は、2000年3月に著作権情報センターから刊行される予定である。

 

第4回(通算第31回) 7月31日 報告者:田邊 宏康(小樽商科大学助教授)
 「民法472条の意義に関する若干の考察―物品証券における抗弁制限を素材として―」

 報告者は、有価証券法をわが国の民商法体系に融合させるという問題意識から、貨物引換証などの「物品証券」を素材として、指図債権における抗弁制限を規定する民法472条の意義を考察し、ドイツにおいて有力な学者が提唱する「類型性」という概念が、同条の「証書の性質より当然生じる結果」という文言を通して、いわゆる「物品証券」の文言性に関する問題解決の糸口となりうる可能性を示唆した。

 

第5回(通算第32回) 8月6日 報告者:山田 哲也((財)日本国際問題研究所研究員)
 「国際機構論からみた独立国家共同体(CIS)と英連邦(コモンウェルス)」

  報告者は、まず、「国際機構」の概念をめぐる学説を概観し、国際機構の成立のためには、国際法人格の有無(根拠、効果)が問題となる一方で、条約に規定されている内容では必ずしも確定的な根拠とはならないことを示した。次に、学説の状況を踏まえて、CISと英連邦を、設立協定、活動、法的性格等から考察した。いずれの組織についても、伝統的な根拠に照らせば国際機構とは呼び得ないものの、これらを伝統的な国際機構論の分析手法に従って検討する余地があるのではないかということが指摘された。

 

第6回(通算第33回) 10月27日 報告者:飯田勝人(帝塚山大学法政策学部教授)
 「外国為替円決済制度について」

  本報告は、東京銀行協会が、1998年12月から発足させた新外為円決済制度の概要を紹介するものである。とくに、新制度により設けられたリスク削減対策として、二当事者間ネッティングの導入、ネット受取限度額の設定の義務化、仕向超過限度額の導入、担保差入れ義務、損失分担ルールの改正、流動性供給銀行の導入、グロス決済の導入について、詳しい説明がなされた。

 今回の制度改革によって、日本の外為取引にともなう円決済制度が、世界の水準に到達したことが指摘された。

 

第7回(通算第34回) 11月17日 報告者:田中 康博(小樽商科大学教授)
 「CISGにおける『代金確定要件』について」

 報告者は、ウィ−ン統一売買法(CISG)14条と55条の関係について論じた。申込みの概念について規定するCISG14条1項2文は、売買契約の締結の「申入れ」の要件の一つとして、取引価格が確定又は確定可能であることを要求しているのに対し、契約の実体に関する55条は、契約が有効に締結されてはいるが、代金又はその決定方法について明示・黙示の定めがない場合には、当事者が、契約締結時に当該取引と比較しうる状況のもとで売買された同種の物品の価格に暗黙の言及をしているものとして取り扱うことを規定している。矛盾する二つの条文の適用関係に関して報告者は、CISGの立法に関わった研究者による学説を紹介した後、価格確定の問題はCISGの枠内で解決されるべき問題であるとの前提に立ち、14条1項2文は申込みの有効要件を規定したものであるが、拘束意思が認められる場合には契約の成立をなるべく認めるべき(CISG8条参照)―但しCISGの空洞化を避けるために14条の黙示の排除(CISG6条)は限定的に解釈すべきである―とする私見を述べた。最後に、CISG14条1項2文の解釈が争われた三つの最高裁判決(ハンガリ−最高裁1992年9月25日判決・オ−ストリア最高裁1994年11月10日判決・フランス破毀院1995年1月4日判決)を取り挙げ、若干のコメントを行った。

 本報告は、京都学園法学1999年1号に掲載される。

 

第8回(通算第35回) 2000年1月12日 報告者:桑原 康行(小樽商科大学教授)
 「EC法違反と加盟国の責任―ブラッスリ・ファクターティム事件判決を中心として―」

 EC加盟国がEC法に違反し個人が損害を被った場合、当該加盟国は、その国の国家責任法にもとづき損害賠償の責任を負うことは1970年代から承認されてきたところである。本報告は、EC法上も加盟国に損害賠償責任があることを認めた最近のEC司法裁判所の判例を紹介し、問題点を検討した。最初に1991年のフランコヴィッチ事件判決が、EC法上の国家損害賠償責任を、有効性の原則、個人の権利保護及び加盟国の協力義務の三原則によって根拠づけ、責任の成立要件として、(a)違反した指令の目的が個人に権利を付与するものであること、(b)権利の内容が指令に基づいて特定されうること、(c)違反行為と損害の間に相当因果関係があること、の三つを挙げたこと、1996年のブラッスリ事件判決は、この法理をさらに展開させ、EC法上の加盟国の責任を、EC自身の責任とのアナロジーによって説明し、かかる観点から、責任成立要件に、違反の著しい重大性を付け加えたことが明らかにされた。最後に、報告者は、この法理は未だ形成途上にあり、今後の裁判例に注目すべきであることを指摘した。

 この研究は、国際商事法務27巻12号(1999)に掲載されている。

 

第9回(通算第36回) 2月23日 報告者:楢崎 みどり(小樽商科大学助教授)
 「WTO体制における『貿易と環境』の問題について」

 報告者は、環境への影響を根拠にした輸入禁止措置が、現行のWTO協定のもとでどこまで許容されるかという問題を取り扱った。最初に、WTO体制の概要が説明され、次に無差別・数量制限禁止等のGATT義務に対する一般的例外を認める規定で、この問題を論じる場合には必ず言及されるGATT20条(b)及び(g)について、過去の具体的紛争事例(ツナ・ケ−ス等)に基づき、検討がなされた。この検討から、報告者は、未だ流動的ではあるが、環境と自由貿易との調和が、WTO体制の課題の一つとなりつつあること、それを見極めるためには、詳細な事例分析も必要であることを指摘した。報告では、この他に、遺伝子組み換え食品の輸入制限の問題やSPS協定も取り上げられた。

 

第10回(通算第37回) 3月15日

報告者1:田中 康博(小樽商科大学教授)
 「判例研究:私道通行権に関する二つの最高裁判決―平成11年7月23日判決(判時1687号75頁・判タ1010号235頁)と平成12年1月27日判決―」

 報告者は、私道通行権に関する最近の二つの最高裁判決について先例、学説を参照しつつ評釈した。

 建築基準法43条のいわゆる接道要件を満たさない土地の囲繞地通行権を否定した平成11年7月23日判決については、結論は妥当であると思われるが、公法と私法を截然と分ける考え方には問題があり、建築基準法の趣旨や土地利用の目的・形態も考慮に入れて、通行権の有無を判断すべきであったとする。

 建築基準法42条2項による指定道路に接する土地所有者が、駐車場経営のために、当該道路上の障害物の排除を求めたことに対し、これを否定した平成12年1月27日判決に関しては、本件では土地所有者に日常不可欠の利益は認められず、駐車場の賃料という財産的利益のみが目的であるから、人格権に基づく妨害排除請求は認められないとして判旨を大方支持できるとした。

 本報告の一部は、商学討究(小樽商科大学)51巻1号に掲載される予定である。

※ウェブサイト管理者注:後者の判決は、http://www.courts.go.jp/(最近の最高裁判決)から入手可能

報告者2:田邊 宏康(小樽商科大学助教授)
 「有価証券発行の自由と制約に関する若干の考察」

 報告者は、まず、債権を表章する有価証券については、原則として、個別的な法律又は慣習法上の根拠がなくとも、指図債権及び無記名債権に関する民商法上の規定を根拠に自由発行しうるとの立場を明らかにした。その上で、さらに、(a)手形・小切手に類似する有価証券の発行、(b)会社による有価証券(とくに社債)の発行の問題を検討し、以下のような結論を示した。

 前者の問題に関しては、わが国がジュネーブ国際条約に加盟している以上、同条約が規定する手形・小切手の要式性が維持されるべきである。手形・小切手の基本的機能は支払・信用機能であるから、手形・小切手以外の支払・信用機能を果たしうる有価証券は、法的効力が否定されるべきである。

 後者の問題に関しては、会社がその社員権を有価証券に表章できるのは、株式会社が株券を発行する場合のみであり、その他の形態の会社には認められない。社債の場合も同様で、現行法上、株式会社以外は社債の発行が禁止される。会社が、指図債権及び無記名債権に関する民商法上の規定を根拠に、社債と類似の有価証券を大量に発行することは、立法者の予定しない状況と思われ、投資家の保護のためにも、この場合には、商法中の社債に関する規定に従わねばならず、株式会社以外の会社は、一度に大量に発行されうる金銭債権を表章する有価証券は一切発行できないと考えるべきである。

 本報告は、商学討究(小樽商科大学)51巻1号に掲載される予定である。

 

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