しかし,「予測」ということは近代科学の一つの柱でした。最近では複雑系理論の登場などで,自然科学の分野でも必ずしも世界は予測可能なものではないということが知られるようになってきましたが,経済学ではその意味がいっそう大きなものとなります。
それでは,経済学は何のための学問なのでしょう。もちろん,回顧的に事象を記述するということがその役割としてまず挙げられます。もちろん,どれだけ記述を重ねても,それはリアルとの溝は埋められないものなのですが,そのズレを埋めようという永遠の努力は,科学的活動の本質でもあります。
しかしそれ以上に,経済学には,不確実な将来に自分の身や財産を投げ出さなければならない人たちに,いくつかのアドバイスを与えるという役割があります。ここで忘れてはいけないのは,これはあくまで「アドバイス」に過ぎない,ということです。経済学が理論的に将来の予言が出来ないということは理論的に証明することができます。テレビなどで,「景気はいついつ回復する」とか言っているエコノミストの発言は,多くが彼ら自身の勘に依存しているのです。このことは,「金融商品の正確な価格を割り出すことができる」と豪語したノーベル経済学賞受賞者のマートンとショールズらのLTCMが失敗したことに端的に表されています。しかし,経済学者が提出する現状分析に基づいたアドバイスは,役に立つものもあります。