2017/08/31 研究室訪問日誌(7)
図書館から研究室訪問の記事が届いたよ。
今回は、企業法学科の橋本 伸先生の研究室に訪問したそうだよ。
まずは、先生の研究分野についてお尋ねしたよ。
Q:先生のご専門は民法の不当利得法とのことですが、民法と不当利得法について、簡単にご説明ください。
A:民法は、人の社会生活を営む上での基本法です。具体的には、人が生まれてから、死ぬまでの間のあらゆる段階で起こる(1)財産関係、(2)取引関係、(3)家族関係を規律しています。
不当利得法は、(1)~(3)のすべてにかかわり、法律上の原因のない利益を返還させる制度であります。例えば、(2)との関係でいえば、契約が結ばれると、買主は代金を払い、売主は物を引き渡します。もっとも、その契約が売主の詐欺により締結させられた場合、買主は契約を取消すことができます。そして取消されると、契約当事者は受け取った物(代金や物)を契約という法律上の原因なしに保持することになります。
これが不当利得といわれる状況で、このような場合にその受け取った物を返還させるのが不当利得法の役割となります。そのほかにも色々な問題が扱われますが、典型例としては、こういう話になりますね。
Q:先生は、マスメディアなどが利益を得るために敢て行う利益獲得型不法行為に対応するために、利益吐き出しについて研究されているということですが、利益吐き出しとは何でしょうか?
A: 例えば、マスメディアが週刊誌にAさんのプライベートな情報を暴露する記事を書いたとします。Aさんは、精神的な苦痛を被り、マスメディアを訴えるでしょう。そうすると裁判所は、マスメディアに対して損害賠償(とくに慰謝料)の支払いを命じます。
ただ、日本の慰謝料は一般的に低いと言われています。それを前提とすると、マスメディアは、その記事を載せた雑誌から被害者への慰謝料額を超える利益が出ると判断すれば、発売することを選ぶでしょう。例えば、慰謝料が100万円、雑誌を売ったら1,000万円以上の利益が出るとしたら、慰謝料を払っても、雑誌を売った方が得だという話になってしまうんです。
だから、Aさんのような被害者を出さないためには、Aさんの損害ではなく、加害者であるマスメディアが得た利益に着目して、その利益を吐き出させるという制度が必要となります。利益を出さなければならないとすると、マスメディアとしてはこのような不法行為を行うことを無意味と感じるでしょう。
Q:先生は英米法を参照しつつ、研究をされているということですね。
A:日本の法律、とくに民法は、外国法を参照して作られたものです。そのため、新たな問題が生じて解決の仕方がわからなくないときは、外国法ではどうなっているのかを調べ、解決の手掛かりにします。また日本法の解決の仕方が唯一のものではないということを認識するためにも、他国の法制度と比較したりします。
Q:先生が研究されている、利益吐き出しなどの被害者を守るための制度は、英米の方が進んでいるのでしょうか?
A: そうですね。日本法と比較すると、英米法は利益吐き出しを広く認めています。また、より強力な懲罰的損害賠償という制度もあります。それは例えば被害者の損害額の3倍の額を懲罰的損害賠償として加害者に支払わせています。
このあと、図書館のサービスについて、先生と
職員さんとでお話をしたよ。
図書館の職員さんは、今の社会は被害者が損害を
被るだけではなく、加害者が利益を得るような状況も
生じているというお話が印象に残ったと話していたよ。
橋本先生の論文はBarrelでも読むことができるよ!
・イギリス原状回復法における弁済者の優先的保護(1) ――錯誤による弁済を中心に――
・イギリス原状回復法における弁済者の優先的保護(2・完) ――錯誤による弁済を中心に――
・民事判例研究(最高裁平成26年12月12日第2 小法廷判決判時2251号35頁)
・民事判例研究(最高裁平成20年6月10日第三小法廷判決民集62巻6号
研究室訪問はまだまだ続くよ。
他の先生の訪問日誌もぜひ見てね。