経済学科の柴山先生にオススメの本を紹介してもらったよ!
吉田一穂詩集 (岩波文庫) (文庫)
吉田 一穂 (著), 加藤 郁乎 (編集)
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あゝ麗はしい距離(デスタンス)、
つねに遠のいてゆく風景......
悲しみの彼方、母への、
捜り打つ夜半の最弱音(ピアニツシモ)。
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これは、積丹で少年時代を過ごした吉田一穂(よしだいっすい)という詩人の「母」という題名の詩です。限りなく透明で美しい詩ですね。吉田一穂は、「極北の詩人」と言われています。1898年に木古内町の網元の家に生まれ、7歳から16歳までの少年時代を古平で過ごしました。中学校から東京に行き、早稲田大学に進学しましたが、実家が傾き大学を退学し、以後詩人として一生を送ります。彼の詩の原点は北海道にあり、故郷をたびたび詩に書いていました。彼が極北の詩人と呼ばれるのは、例えばこんな詩があるからです。
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吹雪の中の叫び聲
雪の薄命に昏(たそが)れて、夜陰にこもる汽笛は、
遠方の雪をかぶつてくる列車だ。
霏々(ひひ)とうづまく混沌、無の火、
吹雪の中で呼ぶものがある。
雪の結晶と原始を遡る魚族の国、
血の色─鉄分をひきつける磁極の意志だ!
棕櫚(しゅろ)の化石の出る泥炭地、
霧と這松、徨(さまよ)ふ川の湿原帯、
火山灰の痩地、碧玉(へきぎょく)の密かな湖、
地下に眠る古代の火、雪の下で燃えてるもの。
新しい地の言葉と自由な精神たち、
解氷の流転と雪崩の歓呼を、
怒りに、はた喜びに、孤独な純潔の証に、
思索の灯を消さずあれ!
地と人の自然法が破られる時、
雪の上に火が燃えあがるであらうから。
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※( )内柴山先生
力強く研ぎすまされた言葉たちですね。詩人の福士幸次郎は、彼を評して「血なまぐさい原人、獣人の面影の内に華やかな澄み渡った映像の言葉を銅板に彫りつける気品」と書いています(『故園の書』「吉田一穂君について」)。そして、実際、写真を見ると、そんな感じの風貌をしています。題材に北の地を選んだというだけでなく、北海道の冬の厳しさのように、知性によって言葉をぎりぎりまで彫磨していく厳しい姿勢が「極北の詩人」と言われるゆえんだったのですね。
一穂の詩集は図書館にも入っていますので、ぜひ読んでみて下さい。