今日は言語センター教授でフランス語を教えている高橋先生からお薦めの本を紹介してもらったよ!
吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』(岩波文庫)
この本は、日本が太平洋戦争に向かって危険な歩みを進めていた時代に『日本小国民文庫』の第12巻として、中学生くらいの読者を念頭に置いて書かれ、1937年に刊行されたものですから、今や刊行後70年を経ているわけですが、この作品が秘めた教えは今もって少しも色褪せていないことに驚かされずにはいないでしょう。
中学2年生の主人公コペル君が日々人との触れあいの中で経験する喜びや悲しみがいかに深い倫理性を持ちうるかということ、また日常の見聞から生まれた驚異や疑問がいかに普遍的な社会科学的認識に通じ得るかということを、主人公の心の成長に寄り添うようにして平易に語りながら、この本は、人が絶えず他者との交わりの只中に置かれた《社会的存在》であるかぎり、「人生いかに生くべきかと問うとき、常にその問いが社会科学的認識とは何かという問題と切り離すことなく問われねばならぬ」(表紙カバーの言葉)というメッセージを読者の心の奥深くに届けてくれるはずです。
私がこの本を2度目に読んだのは50歳を過ぎてからのことです。1度目はまさに自分が中学生のときだったはずなのに、書かれた内容についての記憶が皆無のまま、その後「あれは子供向けの本だから」と決めつけてずっと読み返すこともなく長い年月を過ごしてしまったことを、2度目に読み終えたときには深く後悔しました。私のその気持ちは、岩波文庫版の後ろに付されている故丸山真男氏の「回想」を併せ読む読者にはきっとわかってもらえると思います。これほどの社会科学者であっても、あるいはそうであればこそ、読者は、自らの生き方を(大概は悔やみつつ)省みることなしにはこの名作を読むことはできないのです。私は、遅まきながら2度目に読んだときに後悔もしましたが、それ以上に大きな喜びも得ることができました。コペル君と共に少しは成長できた気がするのです。
そしてまた、この本が70年超のロングセラーであり続ける秘密に触れることができたからです。