経済学科の佐野先生から、お薦めの本を紹介してもらったよ!経済学を学びたい人は必見です。
ジョン・マクミラン著『市場を創る-バザールからネット取引まで』(瀧澤弘和・木村友二訳),NTT出版,2007年.
ミクロ経済学の教科書にまじめに取り組んだものの、現実感の欠如から興味を持てずにいる学生の方々と、「市場原理」に対して嫌悪感を抱いているが、実のところ自分が市場をどこまで理解しているのかあやしいと感じている一般社会人の方々、両方にお薦めの本です。
著者のジョン・マクミランはスタンフォード大学経営大学院の教授であり、オークションや政府調達における入札方式の研究などで、数々の理論的業績を持つ経済学者です。彼の業績は理論研究にとどまらず、大成功を収めたアメリカの連邦通信委員会による電波周波数帯オークションの設計に携わるなど、理論を現実社会で実践している学者でもあるのです。
それゆえか、市場のメカニズムに対する正確な理解を基に、古今東西を問わず数多くの事例を挙げながら、市場はどのように成立するのか、市場はどうあるべきなのか、そして政府が市場に対して果たすべき役割は何かを懇切丁寧に説明しています。数式やグラフの代わりに、多くの実例を掲載したミクロ経済学の教科書といった趣すら感じます。(価格もページ数も教科書並みですが。)
「市場原理」に批判的な方も、例えば、エイズ新薬の開発に関わる市場の称賛に値する側面と醜悪な側面の両面を指摘した箇所を読めば、この本が客観的な立場から事実を冷徹に分析した良書であることに気づくでしょう。
市場はうまく設計すればうまく機能するが、さもなければ機能しないというのが著者の見解であり、それは客観的事実によって著書の中で大方示されていることでもあります。貧困などの問題を解決するために市場は有効な手段になり得るが、そのためには政府は大きすぎてもいけないし、小さすぎてもいけない。環境問題は、市場を自由放任にしておくのではなく、政府が適切に市場を設計することによって解決に近づけることができる。
「大きな政府vs.小さな政府」や「市場主義vs.反市場主義」といった極度に単化された図式は、膨大な客観的事実と冷徹な分析を目の前にすれば、たちまち色あせてしまう。当たり前であるが、熱くなると忘れがちである大事なことを思い起こさせてくれます。