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研究者インタビュー プラート カロラス教授

オランダで日本学を学び、その後国際マーケティングの世界へ。

プラート カロラス教授

プラート カロラス 教授 PRAET, Carolus 商学部商学科


日本のビールCMについて分析したのがきっかけでした。

ビールイメージ

オランダのライデン大学で日本学を勉強して、日本に留学する機会がありました。2回目の留学の時所属していた大阪外国語大学の日本語研究生コースの修了論文で、日本のテレビCMについて分析したのが、マーケティングに興味を持ったきっかけです。日本でテレビを見ていて、CMの数が多いし、CMの時間は短い、内容や目的などが伝わってこない、ただオランダとは全く違う、なぜこんなに違うかはよくわかりませんでした。それが頭に残っていて興味深いなと思いました。

プラート カロラス教授

先行研究を読んでみると日本の広告は製品のよさをアピールするよりもイメージ広告が多い、と書かれていました。それを実証研究で検証することにし、5年分のビールCM100本以上を対象に分析してみて驚きました。何と、日本のビール広告は味や材料(麦芽100%など)を訴えてばかりでした。その理由が気になり、さらに調べてみるとちょうど1987年にアサヒスーパードライが発売され、それまで王者のキリンを倒して一位になり日本のビール市場に衝撃を与えたと知りました。スーパードライの登場以前は消費者の感性に訴えるようなイメージ広告が多かったのですが、スーパードライの登場以降、「味で勝負」という内容にがらっと変わったのです。イメージ広告と全く異なっていました。それが非常に興味深く感じ、もっと深く研究してみたい、とその後マーケティングの研究者への道を選んだきっかけですね。

 

偶然が重なってマーケティングの世界へ 最近の関心事は観光業。

神戸大学経営学研究科

その後、国費留学生として神戶大学経営学研究科でマーケティングの世界に入りました。国際マーケティングの研究をしていましたが、博士課程を終えても研究者になろうと思った訳ではありませんでした。ですが、恩師から学界に残らないかと誘いがあり、偶然が重なって今に到っています。
2014年以降徐々に研究主体を国際広告の研究から観光マーケティングへとシフトしていきました。観光業が一大産業である北海道にいる、という理由が大きいですね。本学に赴任した頃、北海道の経済社会から国際マーケティングの研究成果への関心はさほど高くありませんでしたが、近年のインバウンド観光客の増加で国内市場でも外国の顧客へのマーケティングに関する知識が必要になり、「消費者行動の文化比較研究の知見が北海道内でも役に立つ」と道内の観光業関係者の間で、意識が高まっています。

 

マーケティングで北海道に貢献したい 観光立国宣言も追い風。

オタゴ市

2003年で日本政府が観光立国宣言を発表したことをきっかけに、インバウンド(訪日)観光がますます注目を集めるようになりました。その結果、私の研究で北海道の経済社会にも貢献でき、とても嬉しく思います。
最近はインバウンド観光客と、日本人観光客との社会的相互作用(social interaction)について研究しています。観光でも「価値共創」の時代に入っています。すなわち、企業等が製品やサービスを提供する際、その「価値」を決めるのは顧客側だが、企業とお客さんが一緒に価値をつくる「価値共創」ということです。観光マーケティングでは当然サービスを提供する人(従業員)と観光客との社会的相互作用により価値が共創されますが、観光客同士の社会的相互作用によっても価値(体験)が共創されます。ただ、観光客同士の相互作用が実際どのくらい,また,どのような形で起こっているのでしょうか。それを調べるため、2015年にニセコで調査を行いました。各国の観光客に対し、ニセコで出会う他の観光客の存在についてどう感じているのかを尋ねました。この調査で、他の観光客の存在と行動に対する不満の声が割と多く寄せられ、価値が「共創」されるということよりも価値の「共壊」すら起こっていることが示唆されました。

 

観光客が多ければいいというものでもない。

観光客

コロナ禍以前までは、京都を含む世界の有名な観光地でovertourism(観光公害)が問題になっていました。これは観光地のcarrying capacity(受け入れ容量)と関係があり、すなわちその観光地を訪れる観光客数が受け入れ容量を超えてしまうと、観光客の満足度の低下や市民の生活環境に負の影響を与えることを指します。その結果「価値共創」ができなくなり、「価値共壊」になってしまいます。
Overtourismとは別に観光地での体験への満足感に影響を与えるもう一つの要因は、観光地における顧客(観光客)の出身国のバランスです。ニセコでの調査ではオーストラリア人観光客や欧米出身の顧客から、「オーストラリア人が多すぎる」、「日本人はいないのが残念」という声も寄せられました。一方、日本人からは、「外国人ばかりでリゾートのなかで日本人は相手にされていない」、という意見もありました。観光地のターゲット客は一つの国に集中しないようにすることも重要でしょう。

 

コロナ後に備えて、今から準備を。

台北の観光スポット

国や観光地などが特定国の観光客を誘致する戦略を取ると、その国で不況、為替レートの急変、外交問題や伝染病が発生する際、観光業が打撃を受けてしまいますので、高リスク戦略になります。リスクを分散するために、海外の観光客のターゲットを複数国に設定しながら、まずは国内客を大切にすることで観光業を安定させる必要があります。また、そうすることの(良い意味での)「副作用」として日本人との交流を求める外国人観光客の要求にも応えることができますので、外国人観光客の満足度も高まります。地元の市民や国内の観光客こそ一番大きな観光資源になりますので、日本人が離れていくと、外国人にとってもその観光地がつまらなくなってその地を離れていきます。日本人客を大事にすることで安定的な需要が見込めるうえ、さらに日本人がその観光地にいると外国人客にとってその観光地が「本物の日本」であることを意味するので彼らも満足することに繋がります。
パンデミックが終息するとインバウンド客は必ず戻ってきます。しかし、一気に戻ってきたときは再びovertourismに逆戻りするリスクがあります。そこでまたマイナス評価に繋がらないよう、市場細分化、ターゲッティングやdemarketing(この場合、一定クラスの顧客の需要を一時的にまたは半永久的に抑制するマーケティング活動)といった各マーケティングの手法を使って、準備をしておかなければならないでしょう。

PRAET, Carolus(プラート カロラス)

オランダ出身、1997年より小樽商科大学助教授、2007年准教授、2008年教授。文学修士(オランダ国立ライデン大学)

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