- <担当授業>
- 教育課程論、教育方法、生徒指導、教職実践演習、特別活動論、「総合的な学習の時間」指導法、基礎ゼミナール
岡部 善平教授
OKABE Yoshihei
中等教育カリキュラムと社会・職業との関連性について研究をしています
研究分野は教育学です。教育学が扱う対象はかなり広いのですが、専門としているのはカリキュラム研究と教育社会学と呼ばれる領域です。カリキュラム研究というのは学校で教えられている教育内容に関する研究ですが、とくに中等教育(日本でいえば、おもに中学校・高等学校の段階に相当)のカリキュラムに焦点を当て、学校での学習経験が若者のキャリア形成や能力形成にどのような影響を与えているのかについて調査研究をしています。
研究をおこなう上で注目しているのは、学校の教育内容と社会とのレリヴァンス(relevance:関連性)の問題です。具体的には、①学校教育と地域社会との関係、そして②アカデミックな教育と職業的な教育との関係についてです。これまでもキャリア教育の一環として職場体験など地域をフィールドとした教育活動はおこなわれてきましたが、近年は地域の課題を題材とした「探究的な学習」が試みられるなど、学校と社会との境界を弱める傾向が見られます。また、「進学準備のためのアカデミックな教育」と「就業準備のための職業教育」の分化という、これまで中等教育を特徴づけてきた境界も、産業構造の変化や進学率の上昇等により曖昧になりつつあります。こうした動向が、学校から仕事・社会への移行過程にどのように作用するのかを、各地の学校でのフィールドワークやイギリスの教育制度との比較を通して検討しています。
学校は社会のサブシステムのひとつ。「べき論」で語られがちな教育現象をデータや資料に基づいて読み解いていく
教育学に関心をもった直接的なきっかけをはっきりと認識しているわけではありませんが、自身の学校経験は多少関連しているかもしれません。地域でも有数の「荒れた」学校で中学生活を送りましたが、そこでは対教師暴力、器物破損は日常茶飯事。この経験は、学校・教室という空間の秩序の危うさ、脆弱さを実感する機会となりました。高校生活を送ったのは(当時は)いわゆる進路多様校でしたが、教育内容を「文系/理系」「進学/一般」に分割して選択させる仕組みにどうしても馴染むことができませんでした。そういった意味で、教育や学校は「見たくないもの」「考えたくないもの」でした。大学進学の際に教育学部を選んだのは、「何が自分にこれほど釈然としない思いをさせるのだろうか」を解き明かしたかったからだと言えるかもしれません。
このようにネガティブな動機から教育学の世界に足を踏み入れたので、「教育学の魅力は」と聞かれるといつも戸惑ってしまいます。教育や学校はほとんどの方が経験される事柄であり(学校については「すべての方」とは言えません)、それだけに自身の経験に基づく自前の教育論、「こうあるべきだ」という「べき論」で語られがちです。しかし、教育は社会現象であり、学校は社会のサブシステムのひとつです。そのシステム、仕組みの状況をデータや資料に基づいて相対化し、読み解いていけるのが、この分野の面白さでしょう。
フィールドワーク、調査結果の還元、そしてアクションリサーチへ
上述のとおり、学校での学習経験とキャリア形成、能力形成に関する調査研究を、高校を主要なフィールドとしておこなっています。ですので、必然的に教育現場との「共同研究」に近い形式をとることになります。これまでは、職業学科(商業高校や工業高校など)、定時制高校、スーパー・サイエンス・ハイスクールやスーパー・プロフェッショナル・ハイスクールなどの文部科学省の指定校、総合学科、イギリスの継続教育カレッジ(Further education college)などで聞き取り調査や資料収集、授業観察、質問紙調査を実施してきました(継続教育カレッジについては、説明を始めると長くなるので残念ながら省略します)。
調査研究を進めていくうえで重要なのは、調査の分析結果を調査対象者に還元(お返し)し、その結果をもとに議論を深めていくことです。各学校の教育実践は地域によって多様であり、抱えている課題もさまざまです。データに基づいた実践者との議論は、研究と地域社会の一部としての学校とのつながりを構築し、実践研究としてのアクションリサーチにつながる可能性があると考えています。
教科の専門性を身に付けた実践者、教育の知見をもった職業人
大学では主に教職課程の科目を担当しています。小樽商大で教職課程を履修する学生の数は多くはなく、年度によって違いはあるのですが、毎年だいたい20名前後といったところです。人数が少ない分、授業の雰囲気は和気あいあいとしています。共通の授業も多いので、4年次になると一種のサークルのような関係性になることもあります。
教育課程や教育方法、生徒指導といった教育の実践分野に関する授業では、ほぼ毎回課題を提示し、それについてグループで議論するという形式で進めています。上に述べたような雰囲気のお陰でしょうか、学生からは自らの学習経験に基づいたさまざまな興味深い意見が提示されます。
小樽商大は教員養成大学ではありませんので、教員養成学部に比べて各学科の専門科目により多くの時間が費やされます。社会科学ないし語学の専門分野を体系的に学び、教科に関する専門性を身に付けて教員免許を取得できる点に、この大学ならではの強みがあります。また、たとえ教員にならなかったとしても、企業等で「人を育てる」機会に遭遇することはあるでしょう。教育の知見を身に付けていることは、職業人としても有益なのではないかと考えます。
学びの幅を拡げ、思いもよらない場所に自分自身を連れて行く
小樽商大は社会科学系の単科大学ということになっていますが、その「学びのリソース」は少なくありません。社会情報学科のような数理科学の専門学科もありますし、文学、化学、生物学、数学等の専門ゼミも開講されています。小規模な大学ではありますが、それだけに学科間の垣根も低く、こうした多様な「学びのリソース」にアクセスしやすくなっています。学びの幅を拡げ、当初は考えもしなかった場所に自分自身を連れて行く。大学が、そのきっかけの場になればと考えています。
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