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教員インタビュー 大澤幸准教授

  • <担当授業>
  • 上級日本語Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ
  • 日本事情Ⅰ、Ⅱ
  • 交換留学生用短期留学プログラム科目

大澤 幸准教授
OHSAWA Yuki


『我々はすでにポストヒューマン!?』


博士論文:ここから研究者としての道が始まりました。

 研究分野は、日本の表象文化です。皆さんが毎日、何気なく目にしているビジュアル・カルチャーが全て研究の題材ですが、具体的には映画、アニメーション、マンガを中心に研究しています。現在は、特に女性の漫画家や女性アニメ監督の作品を分析中です。

 これまでの主な研究として、日本の戦後に創出された(1950年代から現在までの)サイエンス・フィクション(SF)マンガ、テレビアニメ、そして長編アニメ映画をポストヒューマン理論で考察してきました。ポストヒューマンの定義は学術界でも1つにまとまっていませんが、大まかに定義すると「生身/有機物の人間身体」をテクノロジーによって補強されたものをポストヒューマンと言います。例えば、体の一部が機械化(サイボーグ化)や先端医療(再生医療、クローン技術、動物からの臓器移植など)により再生が可能になった身体です。そうすると、実は我々は既にポストヒューマン化していることに気がつくと思います。さらに今後、コンピューターサイエンスの発達により人類の記憶や知識がデータベースに保存され、いつでもどこでも誰でもアクセスでき、究極的にはAI(人工知能)を人間の身体に移植・接続したら、今まで定義してきた「人間」の枠を超え、人間の後にやってくるもの「ポストヒューマン」になるわけです。このように人間が無機物や他種とハイブリッドしていくことで、それぞれの境界が曖昧になってきた現在、ポストヒューマンはさらに重要なテーマになっていくと思います。日本のマンガやアニメは、戦後から特にロボットやサイボーグを題材に多くのポストヒューマンを創出してきました。これは我々が抱くテクノロジーへの期待や希望と共にそんな社会への不安を表象しているのです。ポストヒューマン理論の奥深い話は、〈新しい科目〉を2025年度から新設するので、ぜひ履修してみてください。

マンガやアニメは私たち、そして社会を映し出す

 私がカナダ西海岸にあるビクトリア大学の修士課程で日本映画を研究していた当時、日本アニメがグローバルに広がり、世界中で大きな影響をもたらしていることに気がつきました。そこで博士課程ではブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)でマンガとアニメーションを中心とした日本研究を始めました。博士号を取得後は、日本、カナダ、アメリカの3か国で日本の表象文化と日本語を教え、2023年に小樽へ。これまで各国の大学生と日本のアニメやマンガについて、クリティカルに議論してきました。それは、日本文化を再考する良い機会にもなりましたし、他の国ではなかなか見られない多彩なジャンル(冒険、スポーツ、SF、恋愛、哲学的なものなどなど)を作りだす世界観や想像力の豊かさ、そしてそれを視覚的に表現できる日本文化をもっともっと探ってみたいと思っています。


湯浅政明アニメ監督のサイン:トロント国際映画祭で一緒にお仕事させていただきました。

グローバルな視点とローカルな視点で日本文化をクリティカルに考察


本学図書館のマンガコーナー

 研究分野の魅力は、マンガやアニメを考察することで、日本社会が抱えている様々な問題、また社会に生きる個々人が抱えている苦悩や希望を読み解いていくことです。マンガやアニメは日本社会を反映していると同時に、実は私たちもマンガやアニメから大きな影響を受けています。私たち個人と日本文化は、相互に影響し合い、少しずつ変化していっているのです。

 ここで注目すべきことは、マンガやアニメがグローバル化したことです。我々、日本人が気づかないうちに世界中で消費され、共感され、愛されています。彼らは日本のマンガやアニメのキャラクターや世界から「頑張る」精神を学んだり、時には救われたり、勇気づけられています。ただし、日本マンガやアニメの中にはジェンダーや人種といった面での多様性の欠如、偏ったモノの見方など問題が隠されていることも否めません。これがグローバルに配信されることにより、日本への誤解を招く可能性も出てきます。だからこそ、そうした点はクリティカルに考察し、その問題点を提示していくことも私の使命だと思っています。

 さらに、グローバルに展開してきたマンガやアニメをローカルな視点で考察することも試みていきたいです。今後、北海道出身の漫画家作品や北海道を舞台にしたアニメ作品を読み解き、北海道がどう表象されているのかを考察し、北海道の文化を再発見していきたいですし、我々のコミュニティーについて考えるきっかけにもしていきたいと思っています。

日本文化を「学問する」ということ

 もしかしたら、皆さんの中にはマンガやアニメと聞くと子供の娯楽と考える人もいるでしょう。しかし、マンガやアニメの中には「人はどう生きるべきか」、「人間とは何か」と言った哲学的な問いに触れることもできます。もちろん、文学を読むこともおすすめします。ただ、画像や映像が飛び交う現代において、マンガやアニメの画力/映像の力に注目し、言葉だけではなく、画に隠されているシンボルやメッセージを読み解くリテラシーを高めていくことも必要なのです。

 加えて、ビジュアル・カルチャー(マンガ・アニメ・映画・YouTube等)を多様な視点(例えば、ジェンダー、人種、社会的ステイタスの違う立場に立って)読み解くこと、つまり様々な理論を使って考察することで、皆さんの物語に対する解釈が変化していくことでしょう。それは、今まで気が付かなかった世界に出会えるチャンスでもあるのです。授業や書籍から理論を学ぶことも、話したことのない人々、今まで行ったことのない場所に赴き体験を通してでも、多様な視点を持つことができます。それができるのが大学4年間です。自分の中から生まれる「なぜ」を大切にし、答えを探す努力をしてみてください。そして、見つけたと思った答えに対し、もう一度、本当にそうなのかと疑ってみてください。問うて学ぶ、学んでまた問う、一緒にビジュアル・カルチャーを使って「学問」していきましょう。


本学図書館のマンガコーナー:日本及び世界のマンガも随時増やしていきます。

留学や旅に出て、日本を外から見てみよう!


小樽・潮祭りにて留学生と日本人学生混合チーム『グローバル隊』

 日本のポピュラーカルチャーもこの20〜30年で世界中へ一気に浸透し、諸外国の人々や文化に大きな影響を与えています。もちろん、これまでも、今現在でも諸外国の文化に影響され日本文化も変化しています。

 このように日本文化と言っても日本だけを見ていては、実は我々の文化も深く理解することはできません。少しハードルが高いと感じるかもしれませんが、留学や旅に出てみてください。様々な文化に触れ、その土地の人々とじっくり話をすることで相手の文化を知り、日本を客観的に見ることができるようにもなります。本学も北米、ヨーロッパ、アジアなどの大学間で交換プログラムの提携を結んでいます。私もより多くの地域へ皆さんが留学できるよう今、必死に取り組んでいます。

 また、アジアからやってきた留学生や1年間のYOUCプログラムで北米、ヨーロッパ、アジアなどからやってくる交換留学生を担当していて感じることは、彼らは日本に対する興味がとても強いことです。商大生や小樽のコミュニティーと広く関わろうと努力しています。皆さんも商大の留学生たちと一緒に学問したり、課外活動を通して日本を再発見してみてください。また、アジア、北米、ヨーロッパ出身の先生方、さらに私も含めて諸外国の大学や大学院を卒業し、現地で教鞭をとっていた日本人の先生方もたくさんいます。皆さんも商大生になって、より多くの先生方や留学生に話しかけてみてください。興味深い世界を知ることができるでしょう!


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