- <担当授業>
- 化学Ⅰ・Ⅱ
- 環境科学
- 現代の化学
- 基礎ゼミ
- 研究指導(ゼミ)
沼田 ゆかり教授
NUMATA Yukari
化学分野の研究を行っています
ゼミ生が調製した二層構造をもつゲル
食品多糖分子とセルロース分子が互いの層に相互侵入しているため、層が剥がれることはない
実験室で復元した榎本石鹸
ナタデココ(バクテリアセルロース)を材料として応用する研究と榎本武揚が書き残した「石鹸製造法」をもとに石鹸を復刻し、榎本の化学者的特性を分析する研究を行っています。研究分野としては化学の中の高分子化学と化学史になります。
セルロースは植物の主成分で光合成によって多量に生産・蓄積される生物資源(バイオマス)です。セルロースの中で、微生物によって作られたセルロースをバクテリアセルロースと呼びます。バクテリアセルロースは微細なセルロース繊維が三次元網目構造を形成し、その中に水を保持しています。生物によって作られた物質であることから、環境にやさしいのはもちろん、生体適合性、保水性、柔らかい、透明性が高いといったユニークな性質を持ち、医療や化粧品分野での応用が期待されています。最近はゼミの研究テーマとしてゼミ生とともに、新しいゲル材料や環境配慮型素材を目指したシートの開発を行っています。
石鹸の復刻の研究は、同じ一般教育系に所属している醍醐先生(歴史学担当)との文理融合研究として実施しています。榎本が獄中で書き残した「石鹸製造法」を歴史学ゼミで読み解き、それをもとに記載のあったうちの2種類の石鹸を実験室で復刻しました。榎本は本学の前身である小樽高等商業学校(小樽高商)を誘致する際に、多額の寄付金を出し誘致活動を先導した本学と関わりの深い人物です。復刻したレシピをもとに、化粧品OEM会社に石鹸の製造を依頼、パッケージも作り、高商石鹸の伝統を引き継ぐ石鹸としての商品化を目指しています。(高商石鹸とは小樽高商時代に授業の一環として大学敷地内に設置された石鹸工場で学生も製造に携わり、販売されていた石鹸です。)
バクテリアセルロースと榎本石鹸復刻-それぞれのおもしろさ
高校生の頃から化学反応でいろいろな物質が合成される有機化学に興味があり、学部の卒業研究は有機化学の研究室で行おうと考えていたところ、大学3年の時、高分子化学の授業で有機物の長い分子鎖が折りたたまって結晶構造をとると知り、おもしろそうだと思ったことが最初に高分子化学に興味を持ったきっかけです。また、研究テーマであるセルロースは天然に最も豊富に存在する高分子化合物で、大昔から衣類などの材料として使われているにも関わらず、構造解析が終わっていなかったこと、様々な結晶多形が存在することにも魅かれました。大学院修了後は、学生時代に身につけた結晶構造解析の知見・技術をもとに、現在行っているバクテリアセルロースを材料として応用する研究テーマを立ち上げ、物性に関する評価技術も習得しました。新しいものを作って、どのような構造や物性をもっているかを明らかにしたときや、より良い性能のものを作ることができたときにおもしろさを感じます。
石鹸復刻の研究を始めたきっかけは、醍醐先生から「榎本武揚が書き残した石鹸製造法の石鹸を作れますか?」と問われ、「作り方が書かれているなら作れますよ」と軽く答えたことでした。ただし、予想に反して石鹸復刻は困難だったことを申し添えます。日本語で書かれた文の中にカタカナで書かれたオランダ語やフランス語の単語が混在しており、原料や製法を理解することに大変苦労しました。理工系の分野は新しいものを作ることや新しいことを知ることに重点をおいて研究することがほとんどで、化学の歴史を知る機会はこれまでほとんどありませんでした。この研究を通じて、化学の歴史を知ることで自らの高分子化学に関する研究の立ち位置を知ること、研究の意義や意味を深く認識することにもつながっています。
石鹸製造の図
榎本武揚「石鹸製造法」(「榎本武揚関係文書」国立国会図書館憲政資料室所蔵)
地元企業の協力のもと榎本石鹸の商品化をめざす
2023年度成果 左から復刻版、リニューアル改良版(牡丹の香)、リニューアル版(敏感肌)
榎本石鹸プロジェクトでは、地元企業の協力のもと、小樽商大の大学グッズや小樽のお土産としての商品化に向けて取り組んでいます。このプロジェクトは、2021年度に醍醐先生と私の共同研究としてスタートし、古文書である「石鹸製造法」の解読および、実験室での石鹸復刻に成功しました。2022年度には石鹸復刻の研究成果をもとに、地元への成果の還元も視野に、石鹸本体は北海道内の化粧品OEM会社に製造してもらい、パッケージは小樽市内の企業の協力を得て、復刻版榎本石鹸と復刻版を現代風にアレンジしたリニューアル版榎本石鹸を形にすることができました。また、小樽市内でシンポジウムを開催し、市民のみなさんに本学での取り組みや研究成果を知ってもらう機会を設けました。
2023年度は商品化に向けて残っていた製造に関する課題を化粧品OEM会社の協力のもと解決し、リニューアル改良版として榎本が好きだった牡丹の香りをイメージした石鹸も加え、榎本石鹸は3種類になりました。さらに、マーケティングが専門の商学科のプラート先生と王先生にもプロジェクトに参画いただき、地元企業とテスト販売を2024年2月に小樽市内で実施するなど、商品化に向けてプロジェクトは発展中です。
高商時代から続く商大で文系学生が自然科学分野を学ぶ理念
小樽高商の初代校長・渡邊龍聖は小樽高商10周年式典の式辞で「先輩高等商業諸学校に於いて教授せざる科目にして本学独特の学科三あり、一は商業実践、二は企業実践、三は商品実験なり」と述べています。「商業実践」は各種の商業機関・銀行などの売買取引を模擬的に実習する授業、「企業実践」は石鹸工場の管理運営をする授業で、ここで高商石鹸製造の実習も行われていました。「商品実験」は科学実験によって商品の性質を評価する授業です。実学教育の重視こそが小樽高商の特徴だったということがわかります。また、開学当時の授業科目には「商品実験」の他にも、「工業大意」、「応用理化学」、「商品学」など自然科学系統の科目が多く取り入れられていました。これは、渡邊の「商品に関し精細なる知識なくしては業務の遂行は不可能である」という見解に基づくものでした。このような渡邊の教育方針は現在に通じるものです。現代社会では商品(モノ)のみにとどまらず、データサイエンスや環境問題への対応など、職業人として自然科学分野の素養が必要な場面が多くみられます。そのため、文系学生も自然科学分野を学ぶことは重要です。
高商石鹸
(小樽高等商業学校卒業アルバム1926年)
商大で何を学ぶか?
本学は文系単科大学でありながら理系の科目も充実しており、商学の他にも幅広い学問を学べることも特徴の1つです。私が所属する一般教育系には化学の他にも、数学・物理学・生物学といった自然科学分野を専門とする先生が所属しています。また、総合大学のように規模が大きくないことから、異分野教員間の垣根が低く、総合大学では経験できないような文理融合教育が経験できることも魅力です。
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