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三ツ木 真実准教授
MITSUGI Makoto
応用言語学は研究を通じて言語コミュニケーション上の問題解決を目指します
専門の分野は「応用言語学」です。応用言語学は、一言で言えば、言語コミュニケーション上の諸問題の解決を目指す分野です。英語の習得がスムーズに進まない、英語の学習のやる気が起きない、といったことも言語コミュニケーション上の諸問題に含まれるので、英語の学習や習得、英語教育なども応用言語学の領域に含めることができます。応用言語学の分野の中でも、動機づけ(やる気)に興味があって研究に取り組んでいます。何事にもやる気は大事ですが、英語学習ももちろん同じです。
最近は、学習者の過去の英語学習経験を踏まえて動機の発達プロセスを微視的に分析することに取り組んでいます。過去の学習経験(学習者の置かれた環境の特性や心理的特性)とその時々の動機づけの関係を明らかにすることで、どういう環境や心理的状況であれば動機が高まる/低下する/回復するのかといったことがわかり、後の動機づけ状態を予測できるようになる可能性があります。「こういう時はこれをするとやる気になりやすい」とか「こういう時はこうしておくとやる気が保たれる」といったことがわかると、より持続的な学習が可能になるのではないかと考えています。
過去のネガティブな学習経験も「やる気」に変えられる?
動機づけの研究について触れたある文献※1を読んだ際、70名の大学生を対象にした、中高大の8年間における動機づけレベルの変化がグラフに示されていました。そのグラフには、集団全体の平均をもとにした動機づけレベルの推移と、個々の学習者の動機づけレベルの推移が同時に描かれていました。驚いたことに、70名全員が平均のレベルとは異なる推移で動機づけを変化させていました。これは、個々の学習者の動機づけは、それぞれの学習者固有の学習文脈の影響を受けて個々に異なる発達をしていくということを表しています。教師としていかに学習者の動機づけをサポートするかを考えた場合、集団を対象として行われた研究の結果を踏まえたサポートも非常に重要ですが、同時に個別の学習者に焦点を当てたアプローチも欠かせません。
私の現在の中心的な研究テーマも、動機づけを個々の学習者が置かれた学習文脈の中で捉えるものです。動機づけに影響を与える要因は学習者ごとに異なりますが、変化のプロセスをつぶさに見ていくと、いくつかの共通パターンが見えてきました。その一つは、「ネガティブな学習経験」です。「英語がうまく話せなくて悔しい、恥ずかしい」、「周りと比較して自分はできない」という悩みを持つ人が、そういう自分を変えたいという思いが動機づけにつながり、動機づけの減退から回復できたり、新しい学習環境や学習方法を探したりして、英語学習への取り組みを深めていくようです。ネガティブな学習経験が、実は後のポジティブな動機づけとリンクしているという点は、なかなかに面白いのではないかと感じています。
※1:廣森友人(2023).『改訂版 英語学習のメカニズム: 第二言語習得研究にもとづく効果的な勉強法』大修館書店
やる気のあるリーダーがいるグループは活動が活発になり、メンバーも早くやる気が高まる
英語の授業でもグループワークによる学習はよく行われます。ただ、グループワークに取り組んでいるクラス全体を見渡すと、どうしても意欲的かつ活発に取り組んでいるグループとそうではないグループが出てきてしまいます。この場合、後者のグループには教師の介入が必要ですが、教室に一人しかいない教師が個別に複数のグループにサポートに入ることには限界があります。私が行なっている共同研究※2では、その課題に対して、リーダーシップという観点から解決できないか試みました。ある学習者を事前にリーダーとして指名してポジティブな働きかけをお願いしておくグループと、自然発生のリーダーがいるグループを設定し、それぞれが同じタスクに取り組んだときに、どのくらいグループワークの活性化に違いがあるかを比較しました。その結果、事前にリーダーを指名したグループの方がタスク中の動機づけが早く高まり、グループワークも2倍以上活発に取り組んでいたことがわかりました。英語の教室でのグループワークにおけるリーダーシップとポジティブな働きかけの重要性がこの研究から明らかになりました。
※2:Mitsugi, M., Hiromori, T.,Yoshimura, M., & Kirimura, R. (in press). The influence of emergent and assigned leaders on interactive group work tasks in the L2 classroom: Focusing on the group work dynamics, motivation, and linguistic performance. Journal for the Psychology of Language Learning.
卒業研究は「自分ごと」として捉えられるテーマを選ぶことが大切
研究指導(ゼミナール)では、「英語指導の効果検証」や「英語学習の心理学」を中心的なテーマとしています。過去の研究テーマをあげると、より多く単語を覚える波及効果をもたらす単語テストの出題方法は何かをテーマとした語彙学習の研究や、個人の性格が第二言語コミュニケーションに対する意志に与える影響をテーマとした研究、学習者の冠詞の認識を分析した研究、英語母語話者の単語のイメージがイディオムの習得に与える影響、自分自身の動機づけ変化の軌跡を自分史として可視化する研究など、研究テーマは学生によって様々です。
基本的にはゼミの中でいくつもの文献を読み、その内容についてディスカッションをしながら、学生の過去の学習経験や好きな物事などを踏まえて少しずつ研究テーマを絞り込んでいく形で進めています。そのプロセスで学生に強く求めていることは、「自分ごと」として捉えられるテーマを選ぶことです。およそ大学生活の半分を研究に充てることになるので、「自分ごと」のテーマでないとやる気を保つのが難しくなってしまいます。
3年生の後期からはグループで一つの研究プロジェクトに取り組んで、春休み中に北海道の学会でその成果を発表することを一つの目標にしています。この経験を通じて自らの研究関心の深化と研究スキルの向上を認識して、4年次に行う自身の卒業研究をより「自分ごと」として捉えられるようになってもらいたいと考えています。
4年生は、過去の英語学習経験を踏まえながら、それぞれがどのような研究に取り組みたいか、対話を通じて共に思考錯誤して研究テーマを考え、論文の執筆に取り組んでいます。論文の執筆と合わせて4年次生も卒業研究の成果を上述の学会で発表することを目標としています。学生にとっては2年連続かつ個人発表という点で、前年と比較して大きな壁となっているようですが、彼らは十分に高いレベルでその壁を越え、成長を実感しつつ社会に旅立つことができていると感じています。
情熱を傾けられるものを見つけて粘り強く取り組むことが成功の秘訣
動機づけ研究との関連で、最近注目を集めているのが、「グリット」という概念です※3。英語ではGRIT(Guts、Resilience、Initiative、Tenacityの頭文字)と書きますが、簡単に言えば「諦めずに粘り強くやり抜く力」のことを表しています。ペンシルバニア大学(アメリカ)の心理学者 アンジェラ・ダックワース教授が提唱した概念で、彼女は自身の研究の蓄積を通じて、「成功には才能や知性ではなく情熱と粘り強さが重要で、それは成功する人が共通して持っている特徴だ」と主張しています。私達はなんとなく、他者と比較した上で「あの人は才能があるから自分と違う」というように思いがちで、それを諦めや粘り強く取り組めない理由にしていることが多いかもしれません。高校生にとって、日々の学びのみならず、受験に向けた勉強は本当に大変ですが、粘り強く学び続けることが将来の成功につながっている、と思いながらポジティブに取り組んでみてください。ただ、たまにつまずく時もあると思います。その時は、サンボマスターの「できっこないをやらなくちゃ」を聴いて、やる気を高めてみてください。
※3:Duckworth, A. (2016). Grit: The power of passion and perseverance. Scribner/Simon & Schuster.
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