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教員インタビュー 橋本伸准教授

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橋本 伸准教授
HASHIMOTO Shin


所有法研究の基礎理論――所有理論の現代化(多元化)

私の研究は、一般の人(私人)達の間の法律関係(権利・義務)を規律する「民法」という法律に関連する様々な問題を扱っていますが、とりわけ、最近は、表題のテーマに取り組んでいます。簡単にお話すれば以下の通りです。

現代社会においては、かつては商品でなかったモノ(例えば、人の氏名・肖像などの象徴、個人データ、臓器、血液、卵子・精子・生殖細胞、ヒト由来物質、子宮(代理懐胎)など)が、商品としてみなされつつあります。こうした流れは、資本主義経済においてある種必然といえます。なぜならば、資本主義経済は、モノの稀少性を生み出し、それに価値を見出し、そしてそれを取引の対象とすることをその本質としているからです。例えば、かつて “水”は、商品ではなかったものが、今ではペットボトルに入って販売され商品となっているのもその現象といえるでしょう。

もちろん、水の例であれば、特に問題はないかもしれませんが、ヒトの生殖細胞がそうであるように、本当に商品として扱ってよいのか躊躇されるモノもあります。というのも、商品として扱うことは、民法の世界では、そのモノに対して所有権を認めることになり、その所有者(帰属者)は、そのモノを自由に「使用・収益・処分」をすることができるからです(民法206条)。例えば、上記の例でいえば、人の精子・卵子などの生殖細胞が商品となると、その所有者はそれを販売することができてしまうわけです。

こんな話を読んだ方は、仮にそうであるとしても、多くの人は、そのような生殖細胞を売買することはないのではないかという疑問を抱くかもしれません。確かにそうでしょう。しかし、一定の人――とりわけ、貧困層(大学生なども入ってきます)――にとっては、そうしたモノを商品として取引するインセンティヴが生じてきますし(これはかつてわが国でもみられた売血の歴史が物語っています)、それから利益を得ようとする者も現れるでしょう。

しかし、本当にこうしたモノを取引の対象にしてよいのでしょうか。確かに、民法は、近代国家の成立以降、資本主義経済の発展を基底から支える役割を担ってきましたが、民法は資本主義の下僕ではありません。行き過ぎた資本主義に対して「NO!」をいう役割も担っています(特に、現代においては後者の役割がクローズアップされます)。このような観点から、私は、現代において新たに商品とされつつあるモノの取引対象性の当否について検討しています。そしてそれを踏まえて、所有法ないし所有理論の現代化を目指していきたいと考えております。

心裡留保との出会い

民法に興味をもったきっかけは、高校生のときにテレビで放送されていたとあるドラマ(「カバチタレ」。原作は、監修:青木雄二、原作:田島隆、作画:東風孝広による漫画で、行政書士という法律の仕事についての話です。もっとも、私が接したドラマ(フジテレビ版)は、原作とはかなり設定が異なりますが)で、表題の“心裡留保”の話に接したときでした(どういう話かは省略します。興味があればドラマをご覧ください)。

民法の魅力は、1000条に及ぶ条文とその法典編成方式の美しさにあるといえるでしょう。この点は他の法学の学問分野では味わえない魅力があります。学生の皆さんには、「民法は、1万ピース以上のパズルです。はじめはピースの一つ一つの使い方を学ぶだけで、繋がらず面白さは分かりません。しかし、根気よく個々のピースを学んでいくと、そのピースが相互に繋がりだし、一つの小さな絵が見えてきます。その絵をさらにつなぎ合わせていくことでよりすこし大きな絵が見えてきます。それを繰り返していくことで、民法という世界の全体がみえてくるでしょう。そのため、民法の面白さを知るには、時間がかかります。」と話しています。

社会的ニーズがあっても取引対象にしてはいけないモノもある!

私の研究は先述の通りです。上記の通り、私の研究は、社会的なニーズがあり、取引の対象とすることが求められるモノであっても、より高次な価値(例えば、人間の尊厳)を守るためには、取引の対象にしてはいけないモノがあるのではないかという問題意識を前提とするものであり、その意味では社会の人々の行動に一定の制約を求める研究といえるかもしれません。

地域に根付いた研究はまだ残念ながらできておりません。いろいろやりたいことがありますが、上記の研究で手がいっぱいで今のところ出すことができていません。時間ができれば、やってみるかもしれません。

民法およびその関連法に関する研究

今年度のゼミでは、家族法の中から親子法というテーマを選び、ゼミ生をグループに分けて、近時の最高裁判例を報告してもらっています。判例集を一から全部読んでもらい、かつ当該判決の評釈を多数調べていただき、グループで報告資料を作成する。そしてその報告をしてもらって、全体で議論するという大まかな流れです。基本的にゼミの進行は、学生に自由に任せるようにしています(あくまでゼミは、学生が主体の場だからです)。私は最後のまとめとおかしなところを軌道修正する程度の役割に徹しています。小樽商大生の勉強力があり、かつやる気があるメンバーが多数集まれば、十分にゼミとして成り立ちます(もちろん、学生さんはかなり苦労していますが)。今のところ楽しくやっていただいていると(主観的には)思っています。

卒論は、基本的にゼミで扱ったテーマの中から書いていただいています(そのため、親子法関係の卒論が今後多数出てくるでしょう)。進路は、基本的には、民間と公務員が中心です。一部ですが、法科大学院や研究大学院へ進学する者もいます。

民法講義の風景

私が担当する民法関連の講義の受講者は、「小樽商大ならでは」かは分かりませんが、基本的にまじめに・静かに受講してくれていると感じています。1限開講でも8割~9割以上の受講生が毎回出席してくれていますので、とてもやりがいがある講義ですし、毎回準備に力を抜けません。


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