2024.03.19
令和5年度学位記授与式(3月卒業) 学長告辞
皆さん、卒業そして修了、誠におめでとうございます。本学の教職員を代表して、心よりのお祝いの言葉を送りたいと思います。また、保護者の皆様のお慶びは、察するに余りあるものがあります。
昨年5月に新型コロナウイルス感染症の分類が2類から5類に移行し、これまでの日常がようやく戻ってきました。2020年4月に挙行されるはずであった入学式は中止となり、私もビデオメッセージを送ったことを記憶しています。
今日、商学部を卒業される皆さんは入学式を体験できず、また、授業の開始も5月の連休明けとなるなど、入学当初からコロナの影響を受けられました。対面授業ができないため全面的にオンライン授業が導入され、その対応に戸惑うことも多かったと思います。クラスや部活、サークル活動で友人とともに時間を共有することも大きく制限されました。激変する環境に翻弄されることもあったと思います。しかし、それらの変化を乗り越え、卒業、修了される皆さんに対し改めて敬意を表したいと思います。
「艱難汝を玉にす」という言葉があります。皆さんは想像していた学生生活、大学院生活と大きく異なる現実に直面されました。これを乗り越えるためにはマイナスをプラスに変える大きな努力を必要とします。人は順風のなかではなく、逆境の時に成長するものであります。コロナ禍への対応に苦しまれた学生時代は、皆さんを一回りも二回りも大きくしたと思います。また、今後の人生においてもコロナ禍のなかでの経験は必ずやいかされるものと確信しています。
今、社会は大きく変化しています。日本は失われた30年といわれるように経済の停滞が続いています。GDPもドイツに抜かれ、世界第4位に後退しました。周辺のアジア諸国が順調に経済発展を続ける中、アジアにおける日本のプレゼンスは低下しました。同様に世界におけるプレゼンスも低下しています。少子高齢化、経済の東京一極集中、ICT分野の遅れなど、すぐには明るい展望を見出すことはできません。
特に我々が住む北海道においては人口減少、地方経済の疲弊が急速に進んでいます。古い世代の記憶にある高度経済成長やバブル期の経済成長は過去のものです。これまでとは異なる、新しい社会や経済の在り方を模索する必要があります。若い皆さんの、既存の常識にとらわれない、自由な発想が今後の日本の浮沈のカギを握っているといえます。
日本のみならず、世界も大きく変化しています。ロシアのウクライナ侵攻から2年以上がたちましたが、依然として先行きは不透明です。また、イスラエルとパレスチナとの紛争も勃発し、不安定な国際情勢は多くの地域でみられます。このような政治情勢は経済にも大きな影響を与えています。穀物や資源価格の高騰は円安と相まって物価の上昇という形で我が国の経済に影を落としています。皆さんには是非、身近な問題だけでなく、常に広い視野を持ち国際情勢にも敏感であってほしいと思います。我々は否応なしに世界とつながる時代に生きているのです。
世界のビジネスシーンでは今や英語が共通語となっています。また、海外ではビジネススクールを出た人材を含め、大学院を修了した人材が増え、高学歴化が進んでいます。この面でも日本の遅れが明らかになっています。日本人の賃金水準は近隣諸国にも劣るようになりました。特に管理職レベルの賃金水準はアジアの中でも後れをとっています。賃金水準のみならず、世界で求められている人材と、日本において求められる人材像の乖離も問題です。これは世界と日本の経済の実態の反映でもあります。
生成AIの登場などにより、ビジネスにおいて必要とされるスキルは急速に変化しています。現在、社会人のリカレント教育、リスキリングが叫ばれています。海外に比べ、我が国における社会人教育は残念ながら遅れています。制度的な問題もありますが、この遅れを甘受するのではなく、皆さんには是非、継続的に自ら学ぶ姿勢を身につけて頂きたいと思います。社会に出ると大学時代以上に「学び」が必要となります。職業に直結する「学び」だけではなく、人格、教養を高める「学び」も不可欠です。常に高い目標を持ち、それに向けて、たゆまない努力を継続して頂きたいと思います。社会は常に変化しています。変化への対応力は継続的な「学び」からのみ得られるものです。
コロナ禍で薄れた人と人との結びつきは対面の増加とともに戻ってきています。そのつながり方はこれまでとは異なるものかも知れません。時代やコミュニケーションの手段が変わろうとも人間は一人で生きていけないことに変わりはありません。また、人は自分自身のアイデンティティをその帰属する組織や社会に求めます。皆さんはこれまで小樽商科大学の一員でありました。これからは本学の卒業生として社会に出て行かれます。
本学の卒業生で構成される緑丘会は、おそらく日本で最も強いきずなを持った同窓会の一つであると思います。2011年の創立110周年記念募金では、コロナ禍で困窮した学生のために急遽募金の目標を1500万円上積みして頂き、いち早く学生に奨励金を支給することができました。また、1億円を超える110周年の募金は学生の皆さんの課外活動や国際交流のために活用されています。それのみならず、TOEICの受験料の補助など毎年様々な支援を頂いており、皆さんの学生生活をより豊かにするために活用されています。
本学の113年の歴史は大学のみならず、卒業生とともに積み上げてきたものであります。それは世代間のバトンの引継ぎでもあります。皆さんには卒業後も同窓会組織を通じて本学とともに歩んで頂きたいと思います。大学そして同窓会は常に皆さんのサポーターであり、皆さんのアイデンティティの根底にあり続けます。
最後になりますが、皆さんは限りない可能性を秘めています。自分自身を信じ、力強く未来を切り開いて頂きたいと思います。皆さんの健康と幸多き未来を祈念して、私の挨拶を終わります。
令和6年3月18日 国立大学法人 北海道国立大学機構
小樽商科大学長 穴沢 眞
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