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2024.11.27

令和6年度第8回講義:南 耕一さん(H13卒)「事業承継とM&A」

講義概要(11月27日)

 

○講師:南 耕一 氏(2001年商学部経済学科卒/フロンティア・マネジメント株式会社 トランザクション・アドバイザリー部シニアディレクター)

 

○題目:「事業承継とM&A」

 

○内容:

私は政府系金融機関で13年キャリアを積んだのち、M&Aの世界に転職した。各地で大きな問題となっている中小企業の後継者難をめぐって、M&Aが有効な解決手法であることを体験的に理解して、そのやりがいと将来性を確信したからだ。M&Aにはいくつかの形態があるが、後輩たちに良いM&Aの実際を理解してもらい、進路選択の一助としても役立ててほしい。

 

 

地域経済を守る手法としてのM&A

 

南 耕一 氏(2001年商学部経済学科卒/フロンティア・マネジメント株式会社 トランザクション・アドバイザリー部シニアディレクター)

 

 

 

 

融資の意味と価値を体感した銀行員時代

 

私は皆さんが生まれる少し前。2001(平成13)年に小樽商科大学を卒業しました。いまここに立つと自分がずいぶん年をとったな、ということが実感できます。でも皆さんは私を見て、20数年たつと自分もこんな感じになるのか、と思うことができるかもしれません(笑)。
就活では、まず広告代理店に入りたくて、内定もいただきました。しかし小樽商大の王道ともいえる金融業界の世界にも触れたくて面接を受けると、不思議に自分となんとなく馬が合う金融機関がありました。商工組合中央金庫という、いわゆる政府系金融機関です(政府と民間団体が共同で出資)。国内に102店、海外にも5店があり、従業員は3,500人くらい。そして私は商工組合中央金庫に就職しました。
そこで13年ほど働いて、その後2回転職しました。転職先はどちらもM&Aサービスの企業です。今日は、M&Aと事業承継について、私の体験をお話しします。おそらく、皆さんがM&Aに対して抱いているイメージを変えていく講義になると思います。

 

まず商工組合中央金庫時代のことを話します。
商工組合中央金庫は、商工組合中央金庫法という根拠法律により設立された金融機関です。銀行と呼ばれる金融機関は銀行法により設立されていて、法的な定義で言うと銀行ではありませんが、機能は銀行と同じで、銀行員としての仕事をしていました。
また、商工組合中央金庫は政府の出資があるため安定した公務員の世界のような金融機関だと思われがちなのですが、実際は銀行員、バンカーとしてハードな金融ビジネスの世界でもあり、高い収益目標に向かって努力していく姿勢や精神がしっかり鍛えられました。また政府出資があるためいわゆる普通の銀行よりも公共的な役割も求められました。それが金融の世界で生きる自分のベースになっていきます。20代後半にはニューヨーク支店に勤務することもできました。

 

銀行員の代表的な仕事は融資です。お客さまが必要とする資金を貸し出して、ビジネスの成長や存続を支えます。この時代の私は、例えばトヨタのTIER2(二次請け)の部品メーカーがリーマンショックの影響で生産が90%減になってしまって資金繰りが一気に悪化したとき、10億円を融資する仕事に携わりました。また、主要取引先である住宅メーカーが破綻したことでメインバンクからの貸し渋りにあった木材卸売会社に対して、地元金融機関と協調してメガバンクからの借入れを肩代わりして、総額25億円の融資を行いました。どちらもたいへん感謝された、思い出深い仕事です。この2社と私は、いまもコンタクトを持っています。

 

これらは窮状を救うための融資でしたが、新規の設備投資のための融資もあります。
ニューヨーク支店の時代に、ホンダTIER1(一次請け)の部品メーカーが北米工場に新設備を導入するにあたって総額100億円(メガバンクと50%ずつの協調融資)の融資を担いました。また下関支店でも、フェリー会社の新規船の建造資金として総額100億円の融資に加わりました。
こうした大きな金額を扱うことは銀行員のやりがいや醍醐味ですが、でも金額だけが重要ではありません。入行2年目のあるとき私は、年商にして1億円ほどの飲食店を個人で経営されている方に、2店目の開設資金として2千万円の融資を行ったことがありました。その方にとって2つ目の出店は熱い悲願であり、私は本当に心からの感謝をいただきました。営業の成績としては行内でさほど評価される案件ではありませんが、私の心に、金融業に携わる意味や価値を記してくれた仕事でした。

 

そして、さらなる成長を求める企業に、M&A(買収)資金を融資したことも何件かありました。ひとつは、年商20億円の船舶部品メーカーが、売上げ拡大を目指してほかの地域の同業社を友好的に買収したケースで、4億円を融資しました。また、ある旅行代理店がエリア拡大のために海外の同業社を、これも友好的に買収する際に、5億円の融資をお手伝いしました。

 

 

Win-Winの関係が成り立つM&A

 

あらためて言うと、M&Aとは、「Mergers(合併)」と「Acquisitions(買収)」です。
M&Aにはいくつかの種類がありますが、経済ニュースでは、A社がB社の株式を力づくで買い占めて、AがBを吸収した、などという敵対的買収が話題になることがあります。皆さんの多くは、M&Aに対してこういうイメージを持っているのではないでしょうか。実はかつての私もそんな感じでした。しかしそれはあくまでも、M&Aのひとつの形態でしかないのです。
商工組合中央金庫で関わったM&Aはどちらも友好的なもので、敵対的な買収とは違います。それはいわばWin-Winの関係が成り立つものでした。私たちは、売り手と買い手の双方から感謝される仕事ができたのです。そこで私はこの分野に俄然興味を惹かれていきました。結果、M&Aの専門企業(株)日本M&Aセンターに転職したのでした。

 

(株)日本M&Aセンターは1991年創業の若い会社で、私が移った2014年では社員数が150名くらい。それが今年は1,300人と、10倍近い伸びを見せています。私は成長企業の勢いを内部の当事者として体験できました。いま思えばなんだか学生時代の部活みたいな勢いがありました。それもこれも、マーケットがこの分野の専門企業を強く求めていたからです。今年(2024年)、日本M&AセンターはM&A成約件数のギネス世界記録に4年連続で認定されました。
そしてこの秋、私はM&Aの分野でも仲介に加えてFA(ファイナンシャルアドバイザー)での実績のある、フロンティア・マネジメント(株)という会社に移りました。
FAとは、売り手と買い手のどちらかに寄り添い、M&Aの戦略立案にはじまって、スキームを立案して相手方と交渉を重ねながら成約に結びつけ、さらにその後に至るまで、幅広い範囲でアドバイスを行う仕事です。成約の前後を含めてよりトータルにM&Aに関わるコンサルティングを行います。そのためにより高度な専門性が求められます。

 

M&Aにはいくつかの種類があると言いましたが、ここではその中で「事業承継」をめぐるお話をしたいと思います。
例として、地方都市で建設会社の二代目として経営を担う70代のオーナー社長を設定してみましょう。家族構成は、奥さんと娘ふたり。長女の夫は地元の医者で、次女の夫は東京の商社本社勤務。社長の建設会社は50年以上地域に根ざし、年間5億円程度の売上げがあります。無借金の健全経営で、毎期堅実に一千万円程度の利益を出しています。社長は、親の代からの不動産や株式、預貯金なども十分に持っている、地元経済界の名士なのです。
しかし社長は年齢のこともあり、引退を考えていました。けれども跡継ぎがいません。
皆さんは、ではふたりの娘の夫のうちのどちらか、あるいは会社の専務などが跡を継ぐのが良いのでは、と考えるのではないでしょうか。たしかに社長という役職を受け継ぐだけなら、それで良いのです。しかし事業を承継するということは、会社のオーナーシップ、つまり財産(株式)を同時に継ぐことにほかなりません。そこで問題が見えてきます。そう、税金です。

 

社長の会社の財務状況は無借金と言いました。そしてわかりやすく単純化しますが、総資産回転率1回(1年間で総資産が1回売上高として回転する)、自己資本比率80%とすると、会社の株式の評価額は、5億円×1回×80%で4億円(自己資本=純資産額)となります。
この会社を親族が相続すると、相続税率約50%(控除4,200万円)、親族以外の第三者(会社の専務など)に贈与すると、贈与税率約55%(控除4,000万円)が掛かります。つまり、会社をまるごとただで譲り受けたとしても、2億円くらいの税金を払わなければなりません。会社を譲り受けたといっても、一銭の現金も入らないにもかかわらず、です。ぜひ自分に継がせてください、と手を挙げても、ふつうの人にはこの税金はとても払えないでしょう。
ですから、個人(親族・第三者とも)で会社の株式を譲り受けるのは容易ではありません。事業承継がなぜ難しいか、企業に後継者がなぜ少ないのか—。その理由は、ここにあるのです。
社長の実子が計画的に親の事業を継ぐ場合では、それを見越した税金対策などさまざまな準備や工夫の上に承継がされることもあります。ここでは触れませんが、それもまた決して簡単ではありません。

 

 

国内全企業の99.7%が中小企業

 

日本の企業の99.7%、約336万社は中小企業です。大企業の定義は、製造業などでは資本金3億円以上、従業員300人以上、小売業では資本金5,000万円以上従業員50人以上など、業種によって異なりますから調べてみてください。
大企業の中でも株式を公開している企業が上場企業で、これはいま4,060社あります。上場企業では株式が公開されていますから、株は誰でも買えます。しかしオーナー社長が経営する中小企業では、非公開の株式を所有しているのは社長だけであることが多いので、たとえば誰かがその会社を一方的に買い取って乗っ取ろうとしても、それはできません。逆に言うと流動性のない未上場の株式を現金化するには、第三者への売却(M&A)をする以外に手段がないのです。

 

全国の中小企業のうち、経営者が70歳以上の会社の数は約245万社です。つまりこの数の会社が、代替わりを必要としています。そしてこの中で後継者がいない割合が51%。127万社に及びます(2025年予測。中小企業庁の資料を基に日本M&Aセンターが再加工したデータ)。
高齢になった社長が、後継もいないので仕方がないから廃業しようと決めると、まわりにどんな影響があるかを考えてみてください。問題が及ぶのは、社長やそのご家族だけに限らないのです。
会社がなくなると、まず従業員が露頭に迷ってしまうでしょう。時間をかけて次の職場を見つけたとしても、それまで蓄積されてきた人生のリソースの多くが失われてしまいます。社内の人間関係一つとっても再構築が必要です。
次にその会社と取引をしていたたくさんの会社も大きな痛手をこうむります。さらに、そこがBtoCの会社だった場合はとくに、顧客にとっても打撃です。介護施設や商店、学習塾、飲食店、病院などが突然なくなってしまえば、地域の暮らしの利便性がガクンと下がるでしょう。ひいてはそれが若者の流出や人口減を招き、地域の衰退がスパイラルに進むことになります。

 

東京商工リサーチのデータによれば、2020年に廃業した企業は49,698件でした。さらに気づいてほしいのは、廃業はその企業が健全に経営されていないとできない、ということ。逆に言えば、会社としてはまだ元気な状態なのにやめてしまうほかなかった会社が約5万社もあったのです。
地域の生活や雇用を守るためにも、事業承継が必要であることがわかると思います。

 

 

 

 

事業承継の解となるM&A

 

話はここからM&Aへと進みます。
オーナーから個人への譲渡がとても難しい中小企業の事業承継の手法として、M&A(第三者への譲渡)が有効であることが注目されています。オーナー企業の事業承継を目的としたM&Aの一般的な取引は、株式の売買です。多くの場合は株主が変わるだけであって、その会社自体は変わりません。
譲渡企業のオーナーのメリットとしては、後継者問題が解消されて、会社の存続がかないます。交渉内容によりますが、いま言ったように事業の軸を活かしていくことができます。さらに、売却した金額を得ることができます。それは譲渡企業オーナーの実質的な退職金となることが多く、その後のさまざまな出費への備えにもなるでしょう。
こういうメリットが広く知られてきたために近年、事業承継型M&Aは右肩上がりに増えています。国としても、中小企業庁が規律あるM&Aを円滑に進めるためのガイドラインを作成して、この動向を後押ししています。

 

では、買う企業のメリットはどんなところにあるでしょうか?
人口減少が進む日本では、それに伴ってさまざまな業種で国内市場が縮小して、労働力不足も深刻化しています。労働生産性と収益性を上げることはどんな企業にとっても喫緊の課題です。会社を安定して存続させながらも、前年と同じ業績を繰り返すだけでは、社員の給料も上げられないでしょう。企業が健全であるためには、成長し続けなければならないのです。そのための有力な手段のひとつが、M&Aにほかなりません。

 

買い手と売り手、それぞれにとっての友好的なM&Aの目的を整理してみましょう。
買い手の目的としては、その企業を買収することで実現する「業務の拡大」、「コスト削減」、「防御戦略(他者に買収されると脅威になる等)」、「新規事業進出」、といったことが考えられます。
売り手側から見れば、その企業に買収されることで「事業承継がかなう」、「事業ポートフォリオの再編や投資回収ができる(事業の選択と集中)」、「相手先リソースの活用(自社開発では負担が大きすぎる)」、「財務の再生が実現する」、などが考えられます。
2023年の日本企業によるM&A件数は、合計4,015件。コロナ禍で2020年は落ちましたが、その年を除いて2019年からずっと4,000件を超えています。これは公表された数ですから、公表されないものを含めると私としては、おそらく1万件くらいは行われているだろうと思っています。

 

 

北海道の身近な企業でも展開されているM&A

 

もっと具体的に、皆さんが知っているであろう、北海道にゆかりのある企業間のM&Aの例をあげましょう。いずれも公表されているものです。
2020年の暮れ、旭川成吉思汗(じんぎすかん)「大黒屋」の株式が、CoCo壱番屋の(株)壱番屋に譲渡されました。今年(2024年)の夏には、インテリア雑貨の(株)Francfrancが(株)アインホールディングス(調剤薬局・コスメ&ドラッグストアなど)の子会社となりました。そしてこの9月には、多様な飲食事業を展開する東京の(株)クリエイト・レストランツHDが、札幌の人気ラーメン店「えびそば一幻」の全株式を取得しました。10月には男子バレーボールVリーグ2部の北海道イエロースターズが、札幌の武ダGEAD(株)の一員になっています。

 

全国企業のCoCo壱番屋さんがなぜ旭川の老舗成吉思汗店を求めたのかといえば、すでに飽和状態に近いカレーライス以外の商材がほしかった、と言われています。大黒屋さんにとっては、いままで旭川だけで商売をしていた事業が、CoCo壱番屋のノウハウによって東京や愛知に出店することができ、新たな人材も迎えることができました。
私の印象では、地域に長く根ざした老舗企業が比較的少ない北海道では、こうしたM&Aが意外に多いのではないかと思います。
皆さんの身の回りで行われた、こうした例は友好的なM&Aですが、M&Aは売り手と買い手のあいだで契約が成立した時点が成功ではありません。成否はいうまでもなく、買った側がそれからどんな展開を行ってビジネスを大きくしていくか、という点にあります。

 

 

仲介、そしてFAの世界へ

 

M&Aの形態は、「仲介」と「FA(ファイナンシャルアドバイザー)」に大別されます。中小企業の事業承継の多くは、仲介です。一方でFAとして関わるのは、A社とB社を取り持つ仲介というよりも、どちらかの代理人をイメージしてください。FAは売り手か買い手のどちらか一方について、その顧客の利益を最大化するために幅広い仕事をするプロフェッショナルです。当事者だけではなく、株主や関係する行政などへの働きかけや説明も担います。

 

私がいま勤めるフロンティア・マネジメント(株)はFAに軸を置いた会社で、転職を決めたのもFAの分野でもっと仕事をしてみたい、という思いがあるからでした。
中堅企業の事業承継からグローバル企業の大型M&Aまで、幅広いアドバイザリーやコンサルティングを行っていますが、現在の私は未上場企業の事業承継や、国内上場企業のカーブアウト(分離・子会社化)を担当するチームで仕事をしています。金融、会計、税務、労務、法務など幅広い分野にわたる複雑で高度な専門知識が求められますから、案件ごとに弁護士や公認会計士、海外MBAホルダーなどの専門家たちと協働することになります。ビジネスの世界できわめてハイレベルの力がつねに求められているので、忙しい毎日ですが、当然、日々の勉強とスキルアップが欠かせません。
M&Aをめぐっては例えば買い手側のクライアントに、どういう企業を買えば課題解決につながり、それによって株価、ひいては企業価値を上げることができるか、といった観点から戦略を立案します。そして実際にターゲットを選んで交渉を開始して、契約内容を詰めていく、という流れです。成約後の仕事もさまざまにあります。

 

クライアントが大企業であるほど複雑で高度な知見やスキルを求められることが多いのですが、一方で中小企業のオーナーには個性の強い人も多く、データやロジックの前に、人間的な感情が優先したりします。売り手にとっては人生をかけて築いてきた城を図らずも他人に明け渡すようなものですから、その覚悟は私には想像がつきません。打合せをしながら、私の前で涙を流す高齢の社長さんを何人も見てきました。自分の仕事は、そうした感情に寄り添うことでもあるんだ、と思います。
私自身としても北海道でいくつもの案件に携わってきました。詳しいことは言えませんが、自動車の特殊整備の業界で認められていた企業が後継者がいないことで廃業を迫られていたとき、道内の自動車部品販売の会社に繋ぐことができました。事情を紐解くと、買手の創業者と売手のオーナが、ある会社の同門であることがわかったのでした。
またある飼料メーカーを、東証プライム市場に上場している企業が譲り受けた例があります。そのことでそのメーカーは、地域では数少ないプライム上場企業のグループ会社となり、社員の働きがいがグンと増しました。求人においても強い追い風を受けることができたのです。

 

 

私のやりがい

 

M&Aの仲介やFAの仕事の醍醐味とやりがいをまとめてみます。
それは、オーナー社長の事業承継の問題を解決することで、地域の雇用、ひいては文化を守る仕事です。衰退を強いられている地域経済に直接貢献することで、いわば地方創生の取り組みを体現する役目を担っていると言えます。また一方で、グローバルにビジネスを展開する上場企業の進路を左右する局面もあり、それはメディアで大きく取り上げられる、時代を印すような仕事にもなり得るでしょう。そして原点として、なによりお客さまが涙を流して「ありがとう」と言ってくださる職業でもあります。
M&Aが成功して、クライアント企業の成長に寄り添うと、日本経済の発展に貢献していると実感することもできます。それらに携わるビジネスマンとしては、大きなやりがいと共に、自分を成長させて、それに見合った報酬を約束してくれる仕事でもあります。
今日の私の話を通じて、現代の経済社会においてM&Aが担っている意味や価値を少しでも理解して興味を持っていただければ、うれしい限りです。

 

 

 

 

<南 耕一さんへの質問>担当教員より

 

Q 今日の講義で、M&Aに漠然と抱いていたイメージが一新された学生も多いのではないかと思います。南さんが具体的に毎日どのような仕事をしているのか、もう少し教えていただけますか?

 

A 昼間はだいたい人に会って、夕方前に会社に戻ってデスクワーク、というパターンが多いです。会う人は、例えばまずは会社を売りたいオーナー社長。社長の考えや業界分析などを踏まえて相手候補をリストアップして、詳細な資料を作っていきます。買い手候補に対しては、有価証券報告書や中期経営計画などを読み込んで、御社が課題としてあげているこの分野に、こういう企業ありますがいかがでしょうか、といったアプローチをします。そこまで行く場合は秘密を保持してもらう契約が欠かせません。
また、売り手側となる社長がまだ考えを定めていないことも多々ありますから、対話を重ねながら、会社の株式を買ってもらわなければ御社はやがてこうなります、といった説明をしていきます。それらに伴うさまざまな情報収集も欠かせません。こうしたことをつねに複数の案件で同時進行させ、交渉を煮詰めていきます。またはじめに買い手側から相談を受けるケースもあります。

 

 

Q 南さんのお仕事では、時間と労力をかけて難しい局面をさまざまに乗り越えていくことが想像できますが、とくに困難だったことやご苦労されたエピソードなどがあれば、可能な範囲で聞かせてください。

 

A 私の部下の担当でしたが、契約当日に売り手の社長さんが現れなかったことがありました。最後の最後で、売るという気持ちの整理ができなかったのです。結婚式の会場に当日現れなかった花嫁みたいですね(笑)。
またしばしばあるのは、占い師が登場するケースです。中小企業の社長は孤独な仕事で相談相手に恵まれない人も多く、占いに頼ることが少なくありません。ある方は占い師から、「東の方位が良くない、西にこだわれ」、と言われたために、関西から東京へ行くにも一度東北まで北上してから東京に南下するほどでした。その案件では関係者の中に名前に「西」の字があって、その社長は大いに乗り気でした。しかしその「西」の字のある方が転勤になってしまったことで縁起が悪いと占い師に止められ、そのせいで契約交渉を一時ストップしてしまったほどです。
私たちの業界では、「占い師のせいで『売らないし』」、という笑えないジョークがあります。M&Aはひとつとして同じものがない世界ですから、ほんとうにいろいろなことがあります。私は株式の売却を希望する社長に最初に会うとき、まず「占いを信じますか?」と問うことがならいになりました。

 

 

 

 

<南 耕一さんへの質問>学生より

 

Q 良いM&A、悪いM&Aとはどういうものでしょうか?

 

A 講義でふれたように良いM&Aとは、株式を売る側と買う側の双方がWin-Winの関係にあることです。単に小さく弱い会社が大きくて強い会社に飲み込まれたり、買った側がある時点でもう用が済んだとばかりにその会社を売却してしまっては、買った側にはWinでも、売った側はWinではないですよね。売る方は契約することがゴールですが、買った方は成約後から本番がスタートするのです。売る方は売り抜けてWinでも、買った側がその後すごく苦労するのではWinになりません。片方だけのWinはやはり全体として良いM&Aとは言えないと思います。

 

 

Q 経営者や従業員をはじめたくさんのステイクホルダーに対して重たい責任を持つ仕事だと思います。仕事へのモチベーションにはどんなものがあるのでしょうか?

 

A 一代で会社を築いたオーナー社長はやはり個性が強く、ある意味でわがままに振り回されることもあります。でもその会社がなくなってしまったなら、まず社員さんたち、そして取引先がたいへんなことになってしまいます。私の父も勤め人でしたから、そのことは容易に想像できます。だからストレスやプレッシャーを、逆に、奮起する梃子(てこ)にします。社員さんのためにもガンバロウ、と。

 

 

Q M&Aの業界は給与が高いと聞きますが、ほんとうでしょうか?

 

A 私自身、やはりそこがモチベーションのひとつにはなっています。一般論として、日本の上場企業の平均給与ベストテンといったランキングで、トップ10のうち3社くらいにM&A関連企業がランクインしています。またFA(ファイナンシャル・アドバイザー)分野では、役員クラスの年収は数千万円になるでしょう。成果主義ですから、基本給プラス成果で金額は違ってきます。恵まれた給与条件がある反面で、業績がふるわなければ当然、減給や降格もあります。
いずれにしても今日の私の話からもわかると思いますが、年収が高いからやってみよう、という単純な動機だけでは務まらない世界だと考えてください。

 

 

Q 商大生時代に熱中したのはどんなことですか? 学生時代にやっておくべきことについてアドバイスをお願いします。

 

A 小樽の社会人リーグに加盟しているサッカーサークルでサッカーを楽しんでいました。海外に行きたくてアルバイトの時間も必要なので、体育会のサッカー部ではなくサークルを選んだのです。バイトは、居酒屋や家庭教師などいろいろやりましたが、いちばん辛かったのは、紳士服店のオープンで、一日中ロードサイドに立って旗を振り続ける仕事。今にいたるまで、人生であれほど辛い仕事はありませんでした(笑)。
学生時代にやっておくべきことは—。我が身を振り返ると、「もっと勉強しておけば良かった!」と強く思います。今の自分から見ると、商大生の自分には時間がほんとうにたっぷりとありましたから。勉強といっても学問の枠だけにとらわれずに、ビジネスにも広く興味を持ってほしいと思います。前職やいまの会社には、学生時代に起業した経験をもつ若手が何人もいます。同世代の社員の中で彼らは、ちゃんと深く遠くまで社会や自分の仕事が見えている、と感じます。起業まで到らなくても、ビジネスの現場に興味を持ちながら学んでみてはどうでしょう。

 

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