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エバーグリーンからのお知らせ

2024.12.18

令和6年度第11回講義:石出 伸一さん(H4卒)「エネルギーの現状と報道対応 ~電力会社広報の現場から~」

講義概要(12月18日)

 

○講師:石出 伸一 氏(1992年商学部商業学科卒/北海道電力株式会社広報部長)

 

○題目:「エネルギーの現状と報道対応 ~電力会社広報の現場から~」

 

○内容:

小樽商大でアメリカンフットボールに熱中した私が就活をしていた時代は、バブル経済による好況期の終盤で、まだ学生の売り手市場だった。生まれ育った北海道を支える仕事に魅力を感じて北海道電力を選び、函館支店、泊発電所勤務を経て、広報を軸にキャリアを重ねてきた。広報の仕事を通じて、来るべきカーボンニュートラルを見据えた、日本と北海道のエネルギー事情を解説してみたい。

 

 

広報の現場から、日本と北海道のエネルギーを考える

 

石出 伸一 氏(1992年商学部商業学科卒/北海道電力株式会社広報部長)

 

 

 

 

アメフトに明け暮れた学生時代

 

皆さんは、政府が新しいエネルギー基本計画の素案を公表したという、今朝(2024.12.18)の報道をご覧になったでしょうか。各紙では、2040年度には再生可能エネルギーを全体の4割から5割に拡大していく、といった内容が大きく取り上げられました。
今日は、日本や北海道のエネルギーのこと、そして私のキャリアの舞台である北海道電力と、その軸となっている広報の仕事について話したいと思います。

 

私は1988(昭和63)年に小樽商大に入学。緑1丁目のトイレとシャワー共同の学生アパートに暮らしました。今回、そのアパートが残っているのを見てうれしくなりました。キャンパスの上の山でスキー授業があり、終わるとスキーを履いたままアパートに戻っていたことを思い出します。
ゼミは、森田憲先生の貿易論。そのころ、東西ドイツの統一(1989年)にはじまった世界の激動が続きました。冷戦が終わり、ソ連の解体や東欧の民主化が一気に進んだのですが、ゼミのテーマは東欧の経済改革でした。
部活はアメリカンフットボール部。高校では陸上部で、脚には自信があったので、ランニングバックになりたいと思ったのです。平日は15時になると集合して、暗くなるまで練習に明け暮れました。ゴールデンウィークと夏休みには、合宿所に寝泊まりしてハードな合宿です。道内に16校、3部制でリーグ戦がありましたが、私たちは1部3位くらい。4年目の秋の大会でライバルの北大を破り、私はリーディングラッシャー(獲得ヤードが第1位)になり、ベスト11にも選ばれました。
ご存知の通りアメフト部は2012年5月に痛ましい飲酒事故を起こし、廃部となりました。そのことは私もOBとして、重く受け止めています。毎年追悼式が執り行われています。

 

就活はバブル経済の好況期の終盤で、売り手市場です。私は大手の商社、食品メーカー、電機メーカー、そして北海道電力から内定をもらいました。その上で、生まれ育った北海道の暮らしと産業を支えることに最も意義を感じて、北電を選びました。
アメフトではつねに、チームプレイ最優先。得点と勝利のために犠牲の精神が問われます。就活で私は、自分の実績をふまえてもっぱらそのことを訴えました。しかしこの年齢になって社内の若手にこういうことを言うと煙たがられますから、今はガマンをしています(笑)。

 

 

泊発電所から広報部へ

 

1992年に北海道電力に入社して、最初の勤務地は函館支店でした。電気料金を滞納しているお客さまからの集金や、場合によって送電停止をする業務で、毎日その仕事にあたります。難しい顧客対応もあり、いろいろな学びがありました。現在は全戸にスマートメーターがあり、自動で検針され、送電停止の作業も遠隔でできます。
独身寮に入って、ラグビーや朝野球をやったり、寮の仲間とスキーや温泉に行って楽しいものでした。

 

3年目の1994年に泊発電所に異動になりました。泊は、1989年に1号機、1991年に2号機が稼働して、すでに全道の4分の1の電気を供給する発電所になっていました。協力会社の人員を含めると常時1千人以上、多い時で2千人が働くこの大きな職場で、労働安全管理の仕事をしました。転落による死亡事故や火災による重症事故があり、その際は医療機関や警察、労働基準監督署などとのやり取りがありました。多くの人と技術が関わる発電所の現場をさまざまに経験しました。
またこの時期、「海外自主テーマ研修」という社内公募を通過して、自ら設定したテーマに基づいて、インドネシアで1ヶ月間勉強してきました。テーマは、「環境問題から途上国の未来を考える」、というものでした。首都のジャカルタや第2の都市スラバヤのほか、スラウェシ島のパルという町から4WD車で5時間くらい悪路を走り、電気も通っていない集落での生活も体験しました。

 

泊発電所には3年半ほどいて、1997年夏に、現在に直結する本社の広報部勤務となります。はじめに原子力広報チームに配属されました。3号機の増設計画を検討している時期で(2009年稼働)、北海道と泊村など地元4町村に申し入れを行い、3号機の必要性や安全性などを広く訴える仕事をしました。道内メディアとの対応も経験し、ステークホルダーへの情報発信と信頼関係づくりの重要性を学びました。
そして2004年から2年半、東京の電気事業連合会(全国10の電力会社の業界団体)の広報部に出向しました。東京のメディアなどへ対応する窓口です。
一度本社の広報に戻り、また2012年から2年ほど、この電気事業連合会の企画部で仕事をしました。今度は経産省などへの対応にあたりました。
トータルで5年ほど東京で仕事をしたことになりますが、二度目のときは東日本大震災の直後で、福島第一原子力発電所の大事故の衝撃が続いていました。電力自由化への流れの中で(2016年4月からは全ての消費者が電力会社や料金メニューを自由に選べるようになる)、電力会社再編の議論もあり、電力業界と霞が関、そして政治も関わる政策決定のプロセスを現場で目の当たりにし、勉強させられる日々でした。

 

2018年には釧路支店に異動となりました。支店長の下の業務部長というポジションです。二度目の東京勤務の時と同様札幌に家族を残しての単身赴任でしたが、赴任後半年ほどたったこの年の9月に胆振東部地震があり、それがもとで、震源に近い苫東厚真発電所が停止するなど電力設備に被害が発生しました。そこから北海道全域で停電が起こる事態となってしまいます。皆さんも覚えているはずの、ブラックアウトです。当時北海道の電力需要の半分ほどをまかなっていた苫東厚真発電所が緊急停止したことなどで、電力系統全体の需給バランスが大きく崩れてしまったことが原因でした。
たいへんなご迷惑をかけてしまい、釧路にいた私たちも自治体や商工農業関係者、医療機関、水産加工会社など、たくさんのお客さまのところへお詫びの行脚を続けました。厳しい対応でしたが、「短時間での復旧、説明に尽くしてくれた」と、その後、地域の皆さまとの関係強化にもつながっています。
2020年にまた本社の広報部に戻り(担当部長)、2022年からは広報部長になって現在にいたります。

 

 

 

 

日本と北海道の電力事情

 

東日本大震災(2011年3月11日)後の福島第一原子力発電所の写真をご覧いただいていますが、1、3、4号機の原子炉建屋が水素爆発で大きく壊れています。当時の民主党政権(菅直人首相)は、ほどなくして日本すべての原子力発電所を止めました。その後は、厳しい基準に合格したものだけが再稼働が許可されていきます。
北海道電力の泊原子力発電所は、地震の前には全道の約4割もの電力を供給していましたが、いまなお停止中で、国の厳しい審査を受けているところです。

 

日本のエネルギー自給率はどのくらいだと思いますか?
2021年の数字で、約13.3%。世界37位です。世界一の自給率を持つのはノルウェーで、なんと745.7%、2位がオーストラリアで327.4%。ノルウェーは石油や天然ガスがあり、さらに豊富な水力があります。オーストラリアの場合は、石炭や天然ガスが中心です。
石油や天然ガス、石炭などの化石燃料の価格は国際情勢に大きく左右されます。ロシアのウクライナ侵攻以降(2022年2月〜)、欧米ではロシア産の石油や天然ガスの輸入制限が始まり、エネルギーの国際市場は大きな影響を受けています。日本でも電気代や灯油、ガソリン代が高騰していることはご存知の通りです。
1970年代の日本では、中東戦争に由来する石油価格の暴騰が二度もありました(1973年と1978年)。これが原因で物不足や狂乱的なほどの物価高騰が連鎖した、いわゆる石油ショックです。中東の安定的な平和は、日本にとっても重大な意味を持っています。中東から日本へは、長大な輸送路を巨大なタンカーが行き交っています。2019年6月には、ホルムズ海峡近くのオマーン湾で日本船籍を持つタンカーが攻撃を受けて大きなニュースになりました。エネルギーの自給率を高めていくことは、日本の安全保障上の大きな課題でもあります。

 

日本の原油海外依存度は、99.7%に達します。その内訳としては、サウジアラビアが39.4%、アラブ首長国連邦37.6%など、中東に約94.1%を依存しています。
同じく天然ガスの場合は97.8%を海外に依存して、内訳はオーストラリア42.7%、マレーシア16.47%などと、アジアオセアニアが6割近くになります。
石炭は99.7%が輸入で、そのうちオーストラリアからが66%あまりを占めています。
燃料価格は、国際原油価格WTIが1バレル100ドル前後で高く推移しています。天然ガス、石炭は、ウクライナ侵攻が始まった2022年から急激に上昇しています。

 

 

カーボンニュートラルの時代に

 

政府が掲げるカーボンニュートラルという目標はご存知だと思います。温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させて差し引きゼロにすることを2050年までに実現させる、と政府が表明してました。中間目標として設定された数字は、2030年度までに2013年度比で46%の削減です。
実現のための第一の施策は、再生可能エネルギーの導入です。ちょうど今日報道された「新しいエネルギー基本計画の素案」では、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを、2040年度には日本の最大の電源と位置づけ、その割合を4割から5割に引き上げる、とありました(それまでの第6次エネルギー基本計画では36〜38%)。
また再エネと並んで「脱炭素電源」と位置づけられているのが、発電時にCO2を排出しない原子力発電です。

 

さらに、発電時に大量のCO2を排出してしまう化石燃料(石炭や天然ガス)を使う火力発電においては、アンモニア、そして水素の導入が鍵を握っています。
実用化には至っていませんが、石炭火力発電所ではアンモニア、天然ガス火力発電所では水素を混焼することで、CO2の排出を削減できます。アンモニアや水素は燃焼時にCO2を排出しないため、混焼することで全体としてCO2排出量の削減が可能になるのです。これらは今さまざまな実証研究が進められていて、2030年までの導入・普及が目標となっています(火力発電におけるアンモニアと水素の混焼のことはのちにまた触れます)。
そして、これらの取り組みでも脱炭素化ができない領域では、排出されたCO2を回収して利用したり貯めておく技術の研究が進んでいます。CCSやCCUSと呼びます。CO2を地中や海底の地層に安全に貯留するのです。
CO2を排出する当事者として、北海道電力はこれらの取り組みに注力しています。

 

 

北海道のインフラを担う使命と責任

 

北海道電力には、北海道の暮らしと産業の基盤である電力・燃料インフラを守る責任があります。震度7の地震によって全3基の発電設備が止まってしまった苫東厚真発電所など、複合的要因で起きた全域停電(ブラックアウト)の事態を経て、北海道電力では全98項目にわたる再発防止アクションプランを実行しました。
また国が主導して、全国の電力インフラの強靱化が進められています。その一環で、北海道の後志から秋田県を経由して新潟県までをつなぐ、海底直流送電ケーブルを敷設するという大きな計画・構想が進められています。まだ調査段階であり、事業の実施主体も決まっていませんが、2030年~34年頃の完成が予定されています。
建設コストは数兆円規模と試算されています。

 

また原子力発電については、福島第一原子力発電所の事故により、周辺地域の方々は避難を余儀なくされ、少しずつ、復興の歩みを続けていますが、今なお故郷に戻れずにいる方が大勢います。
北海道電力泊発電所を含め、わが国の原子力発電所全てが停止したと同時に、国の安全基準が見直され、事故防止のための対策が強化されました。地震や津波へのさらなる対応強化、原子力発電所の核心部である格納容器などでのシビアアクシデントへの対策、そしてテロ対策など、かつてない新たな備えがなされました。

 

エネルギー資源に恵まれない日本のエネルギー政策の方針は、S+3Eと整理されています。
まず何をおいても必要なのが「安全性(Safety)」です。その上で「安定供給(Energy Security)自給率」、「経済効率性(Energy Efficiency)電力コスト」、「環境適合(Environment)温室効果ガス排出量」という3つの要素が根幹になります。
これらを高い次元で実現させながら、特定の電源に偏らずに多様なエネルギー源を組み合わせるエネルギーミックスが重要なのです。

 

 

北海道のエネルギー・電力事情

 

北海道でのエネルギー利用の変遷は、電源の多様化の歩みでもありました。まず明治期に遡る水力発電所があり(当時からある定山渓発電所は今なお立派に稼働しています)、日本が高度成長へと離陸した1960年代からは産炭地ならではの石炭火力発電所が登場して、1970年代には石油による発電(伊達発電所)、そして泊原子力発電所の時代(1989年1号機稼働)となります。さらに2019年には、石狩湾新港に天然ガスによる火力発電所の1号機が稼働しました。

 

積雪寒冷地で広い土地に分散して人々の営みがある北海道のエネルギー消費は、全国と比べると、冬の暖房や運輸に関わる消費が多くなっています(石油暖房やガソリン需要などで全国に比べて石油への依存度が高い)。エネルギー消費の産業分野の割合が、全国の45.6%に対して、道内では35.2%にとどまるという特徴もあります。
北海道の電力需要は2007年度がピークでした(324億kwh)。その後人口減少や省エネの進展によって減り続け、2023年度は282億kwhにまで下がっています。しかし需要の見通しは、今を底に増加していくことが見込まれています。そう、いま話題の、千歳市に進出するラピダスや、苫小牧や石狩に進出するデータセンターが需要を牽引するのです。この先10年で1割、産業用に限っていえば3割くらいの急増が予想されています。現在はそういう時期に差し掛かっています。

 

道内の電力需要に対し、東日本大震災前は泊発電所が4割ほどを担っていましたが、泊が停止してからは火力発電所が約6~7割をまかなっており、バランスが良いとはいえない状況です。泊発電所の早期再稼働を目指すとともに、石狩湾新港で1号機が稼働した天然ガスによる火力発電所の、2号機を前倒しで稼働させることを計画しています。また伊達や砂川・奈井江といった老朽化した火力発電所を段階的に休廃止していきます。
また再生可能エネルギーの分野では、京極町と留寿都村において地熱資源の調査を、檜山沖などでは洋上風力発電の計画を進めており、再エネでも、今後伸びていく需要に対応していく考えです。
同時に送配電事業を担うグループ会社である北海道電力ネットワーク(株)では、急増する電力需要や再生可能エネルギーのさらなる導入拡大に向けて、電力系統安定化のための設備整備を進めています。

 

 

 

 

泊発電所の再稼働に向けて

 

現在北海道電力は、安全確保を大前提とした泊発電所の早期再稼働に向けて、原子力規制委員会の審査に真摯に対応しています。中でも最も新しく出力も最大である3号機は、全ての審査項目に対する説明を、この12月下旬(2024年)までに完了する予定です。
泊発電所では新規制基準への適合をめざして、万一起こる津波が敷地内に侵入しないように、海抜19メートルもの新たな防潮堤の設置を計画しました。既設の防潮堤は撤去し、強固な岩盤に直接基礎を据える構造を採用して、今年(2024年)の3月から工事を始めています。岩盤に基礎を打つことで、地震の際に地盤が液状化してしまうことが防げるのです。冬も工事を続け、3年ほどで完成の予定ですが、工期のさらなる短縮を検討しています。
泊発電所では、再稼働に向けた取り組みや安全対策について理解していただくために、施設の視察案内を実施しています。事前に予約していただいて、皆さんもゼミ単位などでぜひご覧いただきたいと思います。

 

 

北海道のカーボンニュートラルに向けて

 

日本が掲げる「2050年カーボンニュートラル」(2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする)に向けて、北海道電力としてもさまざまな取り組みを行っています。
まず、2030年度には発電部門からのCO2排出量を2013年度比で50%以上削減する目標を立てています。そのためには、「再生可能エネルギーの導入拡大」、「安全性の確保を大前提とした泊発電所の活用」(安定供給と脱炭素化)、「火力発電所の脱炭素化」、そして先に触れた「水素・アンモニア」の活用、という新たな挑戦を進めています。
北海道は日本で最も再生可能エネルギーのポテンシャルを持った土地ですから、将来的には再エネ電源を水素に変換して利活用したり、本州へ送電することが計画されています。

 

脱炭素化への道では、CO2を大量に排出する火力発電が大きな課題となります。しかし出力調整などが可能な火力発電は、不安定な再生可能エネルギーの調整弁の役割もあり、現状では電力の安定供給のために欠かすことはできません。そこで、火力発電におけるCO2排出量を削減することができる、水素やアンモニアの混焼を進めていきます。
水素は、燃焼する際にCO2を排出しません。ですから水素が燃える分だけ化石燃料の使用量が減って、CO2の排出量がその分抑えられるのです。2023年5月から、苫東厚真発電所(石炭火力)の隣接地で、北海道内最大となる1MW級の水素製造設備の実証を実施しています。寒冷地における安定的な運用手法を確立することが目的です。また苫小牧西部地域では、出光興産、ENEOSの両社と、国産グリーン水素サプライチェーンの構築に向けた共同検討を実施中です。石狩湾新港発電所の天然ガス発電所では水素の混焼を検討しています。

 

また、アンモニアを混ぜても、同じメカニズムで同様の効果が望めます。苫東厚真発電所4号機では、石炭からアンモニアへ熱量比で20%転換するための検討や改修工事を進めていく計画で、2030年度からの運用を予定しています。アンモニアは、液化されて北米などから専用船で輸入されることになるので、本州方面と比較した航路の経済性の面からも、苫小牧は有利な条件を備えています。北海道三井化学、IHI、丸紅、三井物産、苫小牧埠頭の各社と、苫小牧地域を拠点としたアンモニアサプライチェーン構築に向けた共同検討を行っています。

 

CO2排出量を削減しても残った分をどうすれば良いのか—。その問題を解決するのがCCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)と呼ばれる技術です。これによってCO2を回収して地中に貯留したり、それを化学製品や合成燃料、建材などに有効活用することができます。
CCUSに係る取り組みとしては、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の委託公募でCCS事業(CO2の貯留)に係る設計作業等を受託して、苫小牧で実施しています。2030年までにCCSの事業開始をめざすとともに、将来的にはハブ&クラスター型のCCUS事業(貯留に加えて利活用)への拡大を目指していきます。

 

 

電力会社の広報とは

 

最後に北海道電力広報部の仕事についてお話しします。
皆さんは広報の仕事について、どのようなイメージを抱きますか。それはテレビCMやホームページ、SNS、記者会見・マスコミ対応、社内広報など幅広い分野に及びますが、当社広報部でも、およそいま言ったような仕事をしています。

 

そもそも広報とは何か。英語でPublic Relations といいます。社会に対して企業がメッセージを発信して、企業に対する社会からの理解を促し、企業イメージを向上させ、評価を高めることです。この評価は、いわゆる企業価値、あるいはブランド力の一部をなすと言ってもよいと思います。社会の中には、株主、お客さま、従業員など企業のステークホルダーすべてが含まれます。学生というワードも入っています。メッセージは一方向で単に「伝える」のではなく、受け手の立場に立った双方向のコミュニケーションにより「伝わる」ものでなければなりません。広報は、言い換えると、「双方向のコミュニケーションによる信頼関係づくり」といえます。

 

広報の基本は、広報、コミュニケーションによって、
〇何を実現したいのか(目的)
〇誰にどんな切り口で伝えるか(ターゲット)
〇どのような手段で伝えるか(手段、媒体)、を構想することです。
泊発電所の関係をはじめ、カーボンニュートラルに向けた取り組みは、専門的で、かつ意見が対立しやすいテーマでもあります。ですから私たちの考えを一方的に押し付けるのではなく、相手の立場に立った双方向のコミュニケーションをとるように、意識しています。
また当社には、電力、エネルギー以外の事業である「地域共創」の取り組みがあります。これは「地域の皆さまとともに創る取り組み」、という意味ですが、2023年6月に就任した社長の齋藤の肝入りです。北海道では全国にも増して、人口減少などにより社会的課題が顕在化しています。そこで特に北海道の基幹産業である1次産業をめぐって、野菜工場、牧場、ウニの養殖、ウナギの陸上養殖、道産日本酒の熟成などを対象に、少しでもお役に立てることができればと、出資を含めた支援・協力を行っています。
こうした事業についてさまざまな媒体を使った広報、または直接的な双方向の対話活動を実践しながら、安全、安心、さらには信頼を得ていく努力を重ねています

 

対話活動のはじめにあるのはまず、広報戦略を練る上で欠かせない意識調査です。私たちは定期的に、道民の皆さまの意識に関わる調査を実施しています。
その一例ですが、泊発電所の再稼働への意識は、原子力発電所(再稼働)の賛成層の割合が、東日本大震災のあと大きく減少しましたが、ここ数年では徐々に増加しています。賛成層に、どちらともいえないとした中間層を加えると、7割を超える水準に達していますので、私どもはこの中間層の方々に賛成層になってもらえるよう、広報活動に取り組んでいます。

 

また広報部では、北電の顔でもある社長の露出を重視して、記者会見やメディアからのインタビューなどを戦略的に実施しています。社長の記者会見は札幌で年6回、東京で年に1回行っているほか、個別のインタビューにも応じています。
ニュースリリース(メディアに伝えてほしい公式情報)は年間100~150本以上行い、多いときには1日3本出すこともあります。情報発信に留まらず、「百聞は一見に如かず」で、報道関係者などを対象に実際の現場の公開も行います。そしてそれによって報道された内容が、泊発電所の安全対策の認知向上や再稼働への意識の変容につながっているか、効果の検証も行っています。
また取材をする側、される側(北電)という決まり切った関係をほぐしていく意図もあり、メディア関係者との接触やコミュニケーションを積極的に行っています。その上で、こちらが社会にうまく伝わってほしいプロジェクトや情報を、広く正確に報道してもらえるように売り込みます。私自身も、好機と見れば積極的にメディアに登場することがあります。意図しない報道があった場合には、記者やその上司にあたる幹部への抗議とともに、時に私どもの見解・反論をホームページに掲載するなど、細かく対応しています。

 

SNS、XやInstagram、noteも活用しています。
例えばこの秋、商大OBの塚原敏夫さんが社長を務める上川大雪酒造さんと北電は、京極発電所にあるトンネルを熟成庫に使う実証事業を共同で開始したのですが、そういったことをXなどでも発信するわけです。
7月に開始したnoteは字数に制限がありませんので、経営者の思いのほか、事業を担当する従業員の苦労などを伝える狙いで活用しています。これは報道のネタになることも期待しているものです。
noteでは北海道電力のさまざまな取り組みの裏側にある従業員の「熱意」や「こだわり」など、これまでお見せできなかったような、コンセントの向こう側にいる等身大の「ほくでん」を紹介していますので、ぜひ皆さんにもフォロワーになっていただきたいと思います。

 

また広報の仕事では、就活生に対してのアピールもとても重要です。例えば理系女子社員の座談会を、就職情報誌に掲載したこともあります。北電社員が行う幅広い仕事について、社員の口から具体的に紹介しながら、就活生の志向や適性にあった選択肢となるための情報を提供していくためです。
文化事業やイベントも実施しています。1973年にスタートして500回以上の開催を数える、札幌交響楽団の「ほくでんファミリーコンサート」をはじめ、音楽ライブなども主催、展開して、北電と社会との接点や関わりを、文化やエンターテインメントの領域でも育む活動を続けています。

 

2年前に広報部の部長になったとき、私は部員たちに次のようなメッセージを伝えました。広報部の仕事に求めたいことの要点です。
〇会社を徹底して知ること、社内から信頼を得ること
〇外の感覚を磨くこと、社内に外の風を送り込むこと
〇議論のプロセスを大事にすること
〇業務改革、人材育成に取り組むこと
〇心身の健康を第一に

 

最後に、私が尊敬する経営者である稲盛和夫さん(1932-2022)の言葉を紹介します。稲盛さんは、経営者として貫くべき経営12カ条をまとめていて、その中に次のような一節があります。
○なぜこの事業を行うのか、事業の「目的」を明確に示せているか
○事業の目的には「大義名分」があるか、それは公明正大なものか
○「従業員の幸せを実現する」という揺るぎない信念を持っているか
○全社員が使命感を抱き、やりがいを持って仕事に邁進しているか

 

冒頭の自己紹介の中で少し申し上げましたが、これらはチームプレーに通じるものといえます。また近年、従業員エンゲージメント(仕事へのやりがいや誇り)の重要性が叫ばれますが、そこにも深く関係してくるものであり、大切にしています。
現在の私が強く意識している以上のことをお伝えして、今日の講義を終わりにしたいと思います。

 

 

 

 

<石出伸一さんへの質問>担当教員より

 

Q 1990年代初頭、就活の時期は学生の売り手市場で、内定を受けた商社と北電かで迷ったとおっしゃしました。北電に決めたいきさつをもう少し聞かせていただけますか?

 

A ゼミで貿易論を学んでいたこともあり、海外ビジネスをする商社にも強く惹かれました。でも当時から付き合っていてやがて結婚する同級生の彼女(ボート部のマネージャーでした)のこともあり(笑)、最終的に北海道の会社を選びました。24時間365日電気を作ることで北海道に直接貢献できる仕事をしたい、という思いもが強かったのです。
最初の赴任地は函館と言いましたが、休みなどで札幌に帰るとき、電気を各地に送り届けるために延々と繋がる送電線網を見ると、ああ自分はこういう仕事をしているんだ、と誇りと責任と、何かワクワクするようなものを感じたものです(現在の送配電を担っているのはグループ企業の北海道電力ネットワーク株式会社)。

 

 

Q 2018年9月の北海道ブラックアウトの際、石出さんは職場でどのような対応をしたのでしょうか?

 

A 私は釧路支店に単身赴任していました。寮暮らしです。釧路では地震の揺れは震度2くらいの弱いものでしたが、午前3時すぎに、社用の携帯電話に次々に停電の情報が入ってきました。たいへんなことが起こっている、と直感的にわかりました。札幌の自宅に電話を入れると、札幌でも停電しているといいます。ともあれ支店にかけつけました。北電ではこういう場合は指示がなくても関係社員はすぐ集まります。
そしてほどなく全道がブラックアウトになってしまいます。本店とやりとりをしながら、お客さま対応のために部下たちに指示を出し、私も自治体や大口のお客さまを訪ねてひたすら謝罪行脚です。釧路管内はそれほど揺れてもいないのに、なぜこんなことが起こったのだ?という声を受け止めるのに必死でした。完全復旧に45時間ほどもかかってしまったのですが、復旧の過程で、道路の向かいは点いたのにウチはまだか、など、変電所や配電との関係で差が出てしまう理由を説明するのにも苦慮しました。

 

 

<石出伸一さんへの質問>学生より

 

Q 小樽商大からも石狩湾に建てられた風力発電の風車群が見えますが、発電の分野で海が持っている可能性はどのようなものでしょうか?

 

A 洋上風力は今後さらに着実に発展していくでしょう。洋上風力には着床式と浮体式があります。現在の石狩湾にあるような着床式では、漁業との兼ね合いや景観など、懸念される面もあります。一方で、より風が強い沖合遠くに設置できる浮体式ではそうした影響が緩和されるので、政府は日本のEEZ(排他的経済水域)にも設置できるように法律の整備に取り組んでいます。本格的な実用化にはまだ技術的なハードルがありますが、北電でもプロジェクト参画への検討を進めています。そのほか、例えば、波の持つエネルギーを活用した波力発電の研究もありますが、エネルギー効率等の課題が大きく、実用化には至っていません。

 

 

Q 北電社員には転勤がつきものだと思いますが、石出さんの転勤歴を教えてください。

 

A 私はこれまで、函館、泊、札幌本社、釧路支店、そして東京への出向(電気事業連合会)を経験してきました。6割くらいが本社勤務です。近年は転勤のない職場が学生さんに好まれる傾向があるようですね。かつて新入社員はまず、札幌以外の地方の事業所に配属されたものですが、今は最初から本店配属の新人たちもいます。会社として、大学で学んだことをすぐ活かせるような人員配置も考慮するようにしています。

 

 

Q 広報の仕事はご自身の希望通りだったのでしょうか?広報部のやりがいや難しさはどんなところにありますか?

 

A 大きな組織では、最初から自分が望む部署で働けるケースは少ないかもしれません。私も、希望を出して広報の仕事についたわけではありません。3年目に泊発電所勤務になったことが関係していたと思います。ちょうど3号機の計画が進んでいて、全社的に広報を強化する時期だったのです。その後、本店の原子力広報チームへ異動し、上司が私の適性を評価してくれたのでしょうか、広報部門でキャリアを積むことになりました。
広報部は会社とステ-クホルダーをつなぐ窓口であり、経営陣のスポークスマンです。ですからつねに役員に近いポジションで仕事をします。例えば近年の北電は、地域課題の解決にも繋がる一次産業との連携など、非エネルギー分野の事業にも力を注いでいます。カーボンニュートラルといった新たに挑戦する分野の取り組みと合わせて、そうした新事業をめぐる情報発信も重要な仕事になり、やりがいを感じるところです。
難しさは、やはり原子力発電について道民の皆さまの理解と信頼を得ていくことです。

 

 

Q 非エネルギー分野の事業は将来的に大きなウェイトを占めていくのでしょうか?

 

A 電力の安定供給と脱炭素というエネルギー分野の取り組みが最重要です。まず一番は泊発電所3号機の再稼働。現有の火力発電所の脱炭素化への取り組みも重要であり、講義で触れたように、水素やアンモニア、CCUSといった分野です。
一方でほくでんグループの発展は北海道の発展なくしてあり得ません。基幹産業の一次産業の担い手不足の問題など地域の社会的課題の解決につながる、非エネルギー分野の取り組みも重要で、少しずつ拡充していますが、本業の責任がしっかりと果たせていることが前提の上で行われていくものと考えています。

 

 

Q 広報は社内に外の風を取り込む、とおっしゃいました。そのためには具体的にどういうことをするのでしょうか?

 

A 私から見ると電力会社の社員は、自分の持ち場にとどまる領域で仕事をする傾向があるのも事実です。ですから広報部は社外のいろいろな分野の人たちと繫がりを持つことで、例えば少し耳の痛い話でも、必要とあらば経営陣に積極的にあげていきます。会社組織として、取引先にとどまらないいろいろな人や組織、つまりステークホルダーとコミュニケーションできれば、こちらが訴えたいことが、より効果的に、効率的に広がるでしょう。私たちは、「伝える」だけではなく、「伝わる」ことを重視している、と先ほど申し上げた通りです。

 

 

Q 原子力発電所の再稼働には、高レベル放射性廃棄物の処理・処分の問題の解決が欠かせないと思うのですが、その取り組みの現状や未来はどのようなものでしょうか?

 

A 原子力発電所は、輸入したウランを国内で加工して燃料にし、この燃料を核分裂させた時の熱でタービン、発電機を回して発電するのですが、使い終わった使用済の燃料から再利用できるウランやプルトニウムを取り出す再処理の過程が大切になります(再処理工場は青森県六ヶ所村で建設中)。そしておっしゃる通り、再処理後に数パーセントの割合で残る高レベルの放射性廃棄物が発生しそれを安全に処理・処分しなければなりません。日本では、これを最終的に地層処分(地中深くに埋設)することが計画されています。ガラスと混ぜて地中深くに安全に処分するのです。
寿都町、神恵内村、九州の玄海町で調査が始まりましたが、まだ緒に就いたばかりです。この事業の必要性と安全性をいかに国民の皆さまに理解いただくか。繰り返しになりますが、エネルギーの自給とカーボンニュートラルのために原子力発電は欠かせないものです。再稼働や再処理(サイクル)事業とあわせて、広報活動に取り組んでいます。

 

 

担当教員より

 

Q 小樽商大での学びで得たことなどを、後輩たちへのエールとして総括していただけますか?

 

A 私の商大での軸はアメリカンフットボールにあったといっても過言ではなく、あまりエラそうなことは言えないのですが(笑)、いまの仕事に直結することを学んだのは、森田憲先生の貿易論ゼミでした。当時激動の渦中にあった東欧の経済改革をめぐって、難しい英語の文献を必死に読みこなしながら議論を重ねていったのですが、共有できるものを見出した上で、異なる意見を粘り強く交わしていく時間は、いまに続く糧になっていると思います。また学友たちから得たたくさんの刺激やサポートも忘れられません。学んだ中身よりも、人として学友や先生から得たことの方が強く心に残っています。

 

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