2024.10.09
令和6年度第1回講義:小門 晃子さん(H15卒)「変化し続ける市場経済における公認会計士のニーズの高まり」
講義概要(10月9日)
○講師:小門 晃子氏(2003年商学部商学科卒/有限責任監査法人トーマツ 監査・保証事業本部マネジャー・公認会計士)
○題目:「変化し続ける市場経済における公認会計士のニーズの高まり」
○内容:
小樽商科大学を卒業するとき私は、仕事は一生して続けていきたいと思っていた。まず営業職で経験を積み、長く自分を成長させてくれる世界だと確信して、公認会計士をめざした。資格試験は厳しいものだったけれど、その努力が私の人生を変えてくれた。そうした経験を踏まえながら、公認会計士へのニーズが現在の市場経済の中でますます高まっていることを解説したい。女性公認会計士から見た日本企業や、公認会計士の仕事についても話したい。
公認会計士がますます必要とされる、今日のマーケット
小門 晃子氏(2003年商学部商学科卒/有限責任監査法人トーマツ 監査・保証事業本部マネジャー・公認会計士)
まず経験したかった、営業の世界
皆さんは公認会計士の仕事について、具体的にはまだあまり知らないと思います。今日は、公認会計士とはどういう職業なのか、そして近年、公認会計士へのニーズはますます高まっている、といった話をします。また、女性の公認会計士という私の立場で見えることもお伝えできれば良いと思っています。
私は2003年に小樽商科大学を卒業しました。在学中から公認会計士を目指していたかというと、実は違います。それどころか、全く考えていませんでした。一方で、家族やまわりの影響からか、仕事というものを自分は一生するんだ、という気持ちがありました。でも就活の時点では、遠い将来を見通すような進路は見えなかったのです。
そこでまず、一般には難しくて辛いともいわれがちな営業職を、若いうちに経験しておこうと思いました。それと、札幌で生まれ育って札幌と小樽しか知らなかった私なので、東京で働きたいと考えました。そして入社したのが、(株)USEN(現・U-NEXT)です。
USENではIT系の部署で、光回線を法人に売る仕事をしました。全社の中でも新しい事業で、職場には活気がありました。がむしゃらに取り組んでいくと、ハードでしたがとても楽しかったのです。やがて全国で100人くらいいる営業のトップの成績もあげました。
でもだんだん、がむしゃらにやらなくても成績はいつもトップグループにいることがわかります。私はこれではダメだな、と思いました。社会人になってほんの数年で、さほど努力をすることなく生きていける状態になってしまうのは、一生仕事をしようと思っている人間にとっては、受け入れがたかったのです。そこから転職へと進みます。
さて、ではどうしよう。
家族やまわりにはいわゆる士業の人たちがいました。そこでやはり、一生の仕事ならば資格をとって士業に就こう。そう考えました。商大で学んでことをベースに考えると、税理士か公認会計士です。私は、税務に限らず、自分がまだ知らない、けれども興味深いであろういろんなことをしたいと思いました。そこで公認会計士を目指すことにしたのです(公認会計士の資格を取得すれば、税理士として登録することもできます)。
まさかの失敗。そして最後のチャンスに
公認会計士の試験は、4科目からなる「短答式試験」が年2回実施されます。科目は、財務会計論、管理会計論、監査論、企業法です。これに合格すると、年に一回実施される論文式試験にのぞみます。こちらは、会計学、監査論、企業法、租税法、そして選択科目(1科目)の計5科目。これは3日間にわたり、会計学だけで3時間を要するハードなもので、気力と体力も必要です。晴れて論文試験に合格すると、3年以上の実務経験および週一回程度の実務補習を経て、必要な単位を取得して修了考査に臨みます。これに合格すると、公認会計士として登録することができるのです。
論文試験は年に一度ですから、これに不合格だとまる一年、また足踏みしなければなりません。十分に準備をして、直前にあった答案練習でも北海道で1位をとった年、私は自信を持ってのぞんだ論文試験に、なんと落ちてしまいました。敗因は、よくわかりません。そこから、ああ自分の人生はどうなるんだろう、と眠れない日がつづきました。
勉強に集中するために就職をせず、貯金を切り崩して生活していました。それも不安になってきて短期の派遣で働いたのですが、それはたまたまUSENの孫会社でした。本体でトップ営業だった自分が今はこういう境遇か、と切なくなりました。この状態は長くはとても続けられないので、受験はあと一回で最後にしようと決めました。
その最後の年、前年にったく予想外の結果を経験したこともあり、手応えはよく分かりませんでした。発表までふた月ほどありますから、落ちた場合に備えて就職活動も始めました。でも、希望する会計の分野で良い求人はありません。営業職ならたくさんの求人があるのですが。
発表はネットでも見られます。その当日、最後のワンクリックをするときのとてつもない緊張感は、今でもありありと覚えています。それまでの人生で一度も体験したことのないものでした。幸い合格だったので、今日私はこの教壇に立っています(笑)。
そこから、人生が大きく変わりました。試験勉強中は、無職で、社会的には何もできない人間です。しかし公認会計士の資格を得たことで、たくさんのクライアントや上司や同僚が、私を必要としてくれています。ダイナミックに動き続ける市場経済の最前線では、毎日学ばなければならないことがたくさんあり、そのことが今現在も私を成長させてくれています。苦しいときもありましたが、私には、公認会計士をめざして本当に良かった、という強い思いがあります。
「資本市場の番人」として
ここから公認会計士について解説していきます。
公認会計士は、医師、弁護士と並ぶ3大国家資格の一つです。会計および監査の専門家であり、「監査」は公認会計士だけができる独占業務なのです。私たちの仕事は、監査・会計の独立した立場の専門家として、財務書類やその他の財務に関する情報の信頼性を確保することにあります。それによって、社会の公正な経済活動を守ります。
具体的な例として、皆さんもよく知っているドラッグストアを運営する、(株)ツルハホールディングスさんの有価証券報告書を見てみましょう。この夏に開示されたもので、誰でもインターネットでアクセスできます。
ここでは140ページくらいにわたって、売上高や経常利益にはじまり、たくさんの数字が並んでいます。また、会社にいまどんな課題があり、それらにどう取り組んでいるのか、といった説明もあります。投資家はこれを読み込むことで投資の判断をします。
となれば、これらが正確な数字に基づいていなければならないのは言うまでもありません。各企業が恣意的に数字を操作していたなら、投資家は正しい判断ができずに不利益をこうむってしまうでしょう。
公認会計士が担う代表的な仕事である監査とは、高度な知見をもつ独立した第三者として、これらの報告書の「経理の状況」に投資家の判断を誤らせる重要な間違いないがないことを保証するもので、公認会計士は、クライアント企業の取締役会に監査報告書を提出します。
またもうひとつ、同じ趣旨で、会社が作成した内部統制報告書の信頼性を保証する、内部統制監査報告書を提出します。こうした仕事を担うことで、公認会計士は「資本市場の番人」と呼ばれるわけです。
金融・資本市場のグローバル化にともなって日本の企業もグローバル化が進んでいますから、公認会計士の仕事もグローバルになっています。私もちょうど先週、メキシコに出張していました。メキシコに海外法人をもつ日本企業の会計上の問題を解決するために、内部統制を再構築する仕事でした。
公認会計士の仕事はほかに、税務の分野があります。さきほど少しふれましたが、公認会計士は税理士登録をすることで、税務業務を行うことができます。
そして公認会計士には、アドバイザリー業務という分野もあります。私も現在はアドバイザリー業務を行っているのですが、これは事業計画や事業の再編、M&A、IPO(株式新規上場)、リスク管理など、企業活動にともなうさまざまな分野でコンサルティングを行うものです。粉飾決算を起こしてしまった企業を支援することもあります。公認会計士は監査の仕事で、たくさんの企業活動の深いところまでを広く見ています。ですからクライアント企業に、的確なコンサルティングができるのです。
また、大企業には社員として務める公認会計士もいます。企業組織内の仕事をする公認会計士です。
公認会計士への高まる市場ニーズ
冒頭で、公認会計士へのニーズが高まっている、と話しました。どういうことかを説明します。
世界の市場経済はつねに流動的に変化をつづけています。ですから投資家をはじめ、社会が企業に求めるものも変化しているといえるでしょう。企業はそうした動向に対応を迫られるなかで、公認会計士への期待が寄せられています。
具体的にここでは3つの要素をあげます。
まず「リース会計基準の改正」。
企業の財務情報の開示をめぐって、日本には主に3つの会計基準が併存しています。従来からの「日本の会計基準」。そして「国際会計基準(IFRS・イファース)」。さらに「米国会計基準」です。これまでの日本におけるリースに関する会計基準は国際会計基準等と重要な点で異なっていて、国際的な比較が正確にできないリスクが懸念されていました。これでは投資家が業績比較をしづらいので、現在進められているのが、この秋(2024年)に公表された、基準のコンバージェンス(統合)を進める改正です。これは大規模なもので、多くの企業が大きな影響を受けます。
例えば小売業での店の賃料は費用で処理されてきましたが、これからは、その店を使う期間をもとに資産計上しなければなりません。2028年3月期から適用されるので、公認会計士への相談が増えています。
2つ目は、この4月(2024年)から適用となった、内部統制基準(J-SOX)の改訂。
内部統制とは、簡単に言うと企業活動のプロセス全体を管理して、さまざまなリスクに対応するための仕組みや手順のことです。「内部統制報告書」は、上場会社等が「有価証券報告書」と併せて内閣総理大臣に提出しなければならない報告書で、公認会計士か監査法人の監査証明が必要になります。この分野も、近年の不正の増加やサイバーリスクへの対応を反映して、今年4月から改訂が適用されました。
一般に企業の会計に不正が発生する要因には3つあるといわれます。
まず、不正行為を実行しようとする心理的な原因である「動機」。そして不正行為を実行できる環境である「機会」。加えて、不正行為を都合よく理由づけて容認する「正当化」です。正当化とは例えば、こんなにきつい残業が続くのだから、これくらい横領しても良いだろう、といった心理ですね。
不正の多くは、この3つの要因がそろったときに発生するわけです。
動機や正当化は、企業の組織風土や社員個人の内面に属する問題ですが、「機会」は内部統制によって確実に減らすことができます。経理責任者がずっとひとりしかいない状況に、必ずもうひとりの目が入る仕組みを作る、といったように。
改訂内部統制基準には4つのキーポイントがあります。詳しくはここでは説明しきれませんが、まず、全社の統制の中で「不正リスク」を当初から含める「不正リスクの評価」。そしてクラウドやリモートアクセスなどITをめぐる外部委託業務などに対応する「サイバー対応」。
3つ目は、企業組織をとりまくリスクを特定してそれらを正しく評価するための「評価範囲の見直し」。最後に、内部統制報告書の内容を広げる「報告書の拡充」。
それぞれの正しさを証明する監査に、公認会計士の高度な知見が求められています。
公認会計士に対して高まっている市場のニーズの3番目は、「サスティナビリティ情報の開示」です。
サスティナビリティ情報とは、企業が持続可能な社会の実現に貢献するために行っているいろいろな取り組みを知らせることで、温暖化や生物多様性といった大きな問題からはじまって非常に多岐にわたります。
これは2025年3月までに最終化して、27年3月期から適用が義務付けられる見込みです。海外に合わせる必要がある企業は、すでに準備に取り組んでいます。
また有価証券報告書等の「従業員の状況」の記載では、女性活躍推進法に基づく女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差といった多様性の指標に関する開示も求められることになりました。
これらも決算同様に、独立した第三者による保証などが求められるため、今後さらなる開示が求められている中で何をどのように開示するのかを含めて、公認会計士へコンサルティングを依頼するケースが増えています。市場がグローバルに変化し続けていく経済環境の中で、公認会計士の仕事はますます重要性を増しているのです。
女性公認会計士から見える世界
日本の企業では役員の女性比率がとても低いのが現状です。OECDの2021年の国際比較データでは、フランスが45.3%、イギリス37.8%、アメリカ29.7%に対して、日本は12.6%でした。ではせめて管理職ではどうか。独立行政法人労働政策研究・研究機構の今年のデータでは、管理職に占める女性の割合が、アメリカでは41%、フランスで39.9%、イギリスでは37.2%ですが、日本はぐっと下がって12.9%。管理職の層でこれほど女性が少ないのですから、役員では推して知るべしでしょう。
私自身も管理職ですが、クライアント先の役員への報告会などでは出席者の中に女性は私一人というようなケースが多いのです。例えばクライアント先の役員とこちらの監査法人の合計20名程の会議の場などでも、女性は私だけ、ということもあります。先方にひとりくらい女性役員がいても、それはたいてい非常勤の監査役で、その多くは外部の弁護士や公認会計士です。
今年の株主総会では総じて、女性役員のいない企業に対してかなりいろいろな批判の声が上がっていました。日本の企業社会では、子育てをしながら管理職、ましてや役員の仕事をこなすことにはかなり高いハードルがあります。しかしこれは、優れた人材が順調にキャリアを伸ばしていけないことを意味しています。それは、ひいては企業の大きな損失でもあるでしょう。そこを解決していく環境づくりを、市場の方からも強く求めているわけです。
さてでは公認会計士の世界で女性の比率はどうでしょう。
比率は増加傾向にあるものの、まだまだ低いのが実態です。1990年ではわずか2.5%でした。2010年になってようやく1割を超えて11.9%。2023年で15.4%(日本公認会計士協会「女性会計士活躍推進協議会の取組について」)。昨年の会計士試験合格者は20%を超えています。
女性の公認会計士は、出産と子育てで数年間現場から離れても、公認会計士として復職することができます。出産とともに監査法人を辞めて、独立する形で復職する人もいます。ですからキャリアプランが立てやすいのです。これは女性に限りませんが、定年まで監査法人で働いて、そのあとで独立する人もいます。いくつになっても自分の人生を自分で決まられるのって、すてきだと思いませんか?
また公認会計士の世界には、基本的に男女差がありません。女性だから、と先入観で見られないのです。監査法人の中でも、階層は違っても上下関係を意識することはあまりありません。上位者も下位メンバーも「さんづけ」です。ポストの前に、みんなひとりの公認会計士としてお互いを尊重しています。
そしてその上に先ほど説明した、「サスティナビリティ情報開示」の一環で、社外取締役に代表されるように、女性の起用には追い風が吹いているのです。
努力は人生を変えてくれる
今日は皆さんに、公認会計士の仕事を知ってほしいと思っていろいろお話ししてきました。先に述べたように、苦しんだのちに試験に合格できて、私の人生は変わりました。あの努力が人生を変えてくれたんだ、と思っています。会社を辞めて、不安をかかえながら毎日勉強に打ち込んでいたあの辛い日々を思えば、いま仕事で少しくらい苦しくても、私は幸せでいられます。
私は1年半ほど前に、監査の仕事からアドバイザリーの仕事に移りました。自分ができることの幅を広げたい、という思いからの異動でした。このあと、3年後5年後の自分をどう作っていくか—。具体的なイメージはまだありません。公認会計士という大きなフィールドの中で、年齢に関係なく新たに出来ることはたくさんあります。その意味で、いまのポジションを守るために何かを犠牲にするとか、ある程度の歳になりこの先の進路が限られてきた、といったことはありません。皆さんも、進路選択のひとつに、公認会計士の道をどうぞ考えてみてください。
<小門晃子さんへの質問>担当教員より
Q 小門さんの現在の仕事はアドバイザリー業務が軸になっているというお話でした。監査の仕事とアドバイザリーの違いをもう少し説明していただけますか?
A 視点や立場がちがいますね。監査では、クライアント企業と議論になることも少なくありません。例えばクライアントはがこれくらいの資産計上をしたいと考えていても、監査の目からはそれは無理です、という判断を出すことがあります。だから経理部からは、監査は疎まれる存在になることもあるのです。一方でアドバイザリー業務はクライアントに寄り添って、リスクを避けたり収益性を高めるためのコンサルティングになります。
でも監査の仕事でも、大きな事案を解決して無事その期を乗り越えたといったときには、社長や取締役会の皆さんからたいへん感謝されることがあります。そういう機会は、仕事へのモチベーションをさらに高めてくれます。
Q いまのお仕事にたいへんやりがいを感じている、とおっしゃいました。あえてお聞きしますが、その中でも辛いな、と思うことはありませんか?
A 公認会計士は、単に資格があるからずっと仕事をしていられるわけではありません。クライアントの担当者もまた経理のプロであり、世界の経済はダイナミックに変化し続けますから、資格に加えて毎日、一生、勉強を続けなければなりません。それが厳しくて辛い、と思われるかもしれません。でも私自身は、それこそが自分の仕事だと思うので、辛いとは全く思いません。
辛いなと思うのは、単純に忙しい時期があることでしょうか(笑)。内外で会計監査の重要性はますます高まり、第三者として独立性を堅持した私たちの仕事は増え続けています。
また少し話はズレますが、この独立性をめぐって、監査法人に所属する公認会計士はほとんどの株式の取引が禁止されています。直接のクライアントではなくても、利益相反になる可能性があるからです。
<小門晃子さんへの質問>学生より
Q 私は公認会計士も進路に考えているのですが、その場合は海外の仕事に興味があります。やはりUSCPA(米国公認会計士)の資格を取った方が良いのでしょうか?
A 外国企業だけで仕事をするのならば別ですが、グローバルに事業を展開している日本企業での仕事を想定すれば、基盤になるのは日本の会計基準ですから、やはりまず日本の公認会計士の資格を取ることをおすすめします。例えばトーマツでは、米国法人をもつ日本企業の場合、アメリカ分の監査をUSCPAを持っている会計士が担当します。
またIFRS(国際会計基準)を取り入れている大会社でも、有価証券報告書のほかに必要な内部統制報告書は日本の会社法に基づいたものになりますから、やはり日本の資格が基盤になります。もちろん、広い意味で公認会計士の仕事にグローバルな観点が必要なことは言うまでもありませんが。
Q AIの進化によって会計士の仕事はやがてなくなる、という話も聞きます。公認会計士の近い将来像はどのようなものになりますか?
A 同様の質問をときどき受けます。答えとしては、記帳代行などの仕事であればやがてAIが担うにせよ、公認会計士の仕事はAIに取って代わられることはありません。現実として私たちはすでに日常的にAIの力を駆使しています。過去に不正があった企業の膨大な事例をAIに学ばせて、こういう傾向が出ている企業には不正のリスクがある、といった判断の端緒を得ます。でも、あくまで判断するのは私たちです。
公認会計士は、例えば取締役会の議事録など企業の相当に深いところまで見ています。そこでM&Aが議論されていたとして、それが外部にもれると株価が大変動を起こしてしまうでしょう。そういうレベルです。経営するのは人間ですから、監査するのも人間でなければならないと思います。だからAIと公認会計士はちがう役割を担っていて、その構造は今後も変わらないと思います。
Q 監査の仕事は、数字では見えない部分を数字から探っていく仕事ではないかと思います。そこをどういう見方を持ってお仕事に臨んでいるのか、教えていただけますか?
A 膨大な数字を相手にしますから、背景や裾野として、まずその企業が属する業界の分析は欠かせません。例えばコロナ禍で消費が滞った時期、対処する商品を揃えている上に人が密にならない郊外に立地する店が多いドラッグストア業界には、追い風が吹きました。しかしその中で、駅周辺など中心市街地への出店が多かったストアは業績を下げました。駅前にあればこそコスメの売上げが多いことが特徴的でしたが、人の動きがグンと少なくなったコロナ禍では、それがマイナス要因となりました。業界を俯瞰する目はとても重要です。
でも一方で、「このデータは何かおかしい」、という直感的な違和感も重要なのです。これは経験を積むことで鍛えられる目だと思います。
Q 企業会計に国際基準が必要になっていることの背景や理由をもう少し教えてください。
A 投資家は、日本企業と海外企業をつねに比較しています。ですから同じ会計基準が適用されていなければ不都合です。例えば資産計上されているある項目が、日本の会計基準で100であるのにIFRS(国際財務報告基準)では150になっているということが起こります。実態は同じなのに、数字が変わってしまうのです。これでは財務指標を正しく比較することができません。投資家が何を求めているかは、世界の経済を動かす大きな要因のひとつですから、基準のコンバージェンス(統合)は時代の流れだと思います。
Q 公認会計士には、数字に強くてひとりで毎日もくもくと仕事をしている人、といったイメージがあります。公認会計士への適性にはどんなことが言えるでしょうか?
A まじめでコツコツひとりで勉強できる人、ということは言えると思います。それは試験と向き合う経験がそうさせるのでしょうが、公認会計士の登録をしてからも、調べることが毎日ものすごくありますから、自ずとそういう資質に磨きがかけられていくのかもしれません。
でも仕事では、個人ではなくつねにチームが単位です。そのチームもクライアントごとに編成されますから、ずっと同じメンバーで長年仕事をするわけではありません。だから適度に親しく、適度に新鮮なチームワークが発揮される職場だと思います。
Q もし合格しなくてもこれが最後だ、と臨んだ論文試験で小門さんは無事合格されたわけですが、その年と前の年ではなにが一番ちがったのでしょうか?不安で心が折れそうになったことはありますか?そのときはどのように乗り越えましたか?
A 最後にすると決めた年の試験に備えて、精神面をもっと強くしなければ、という気持ちはあって、糧になりそうな本もいろいろ読みました。でもそれらが役に立ったという実感はあまりありません。前年とその年で何が違ったのか。実は自分でもよくわからないのです。
試験勉強には辛いこともあります。でも私は会社を辞めて勉強だけの生活を選びましたから、ひとつのことに打ち込むこんな価値ある生活はいましかできないな、と思っていました。そして辛くても、途中で辞めるという選択はまったくなかったのです。だからこそ、合格したときの喜びは例えようもないものでした。
Q 学生時代にやっておくべきことで、アドバイスはありますか?小門さんご自身は、商大時代にどんなことに熱中しましたか?
A 学生時代にしかできないことをしようと考えていました。勉強のほかに、私にとってそれは居酒屋でのアルバイトでした。いくつかの店で経験を積みましたが、あるとき、私が働いたことのある店の店長から、売上げが振るわないのでなんとかしたい、すべて委せるから力を貸してくれ、と言われたことがありました。それだけいろんなキャリアがあったのです(笑)。私は、経験した繁盛店とその店では何が違うかを体験的にアドバイスしました。マニュアルに書き切れないような、スタッフの動機づけとか心配りについてです。アルバイトだった私に思い切ってそんなリクエストを出したその店長は、やがてそのチェーンの社長になりました。
また、これも学生の特権ですが、自由になる時間を活用して日本をあちこちひとり旅しました。JRの青春18切符を使って。ある友人が、短期留学から帰ってきて急に、日本はここが良くないとか言い出して、違和感を覚えました。ふりかえって、私はそもそもそういうことが言えるほど日本を知らないな、と気づきました。札幌生まれの札幌育ちですから。それで本州以南をいろいろ見にいったのでした。
担当教員より
Q 最後に後輩たちにメッセージをいただけますか?
A 小樽商大生ですから、皆さんの中にはグローバルな仕事をしたいという志向もあると思います。公認会計士の世界に限らず、何か目標を立てて、それを達成するために努力することは大きな財産になります。そして努力が報われれば、一生の価値を生むでしょう。そのためには、回り道をしても良いと思います。公認会計士の試験がうまくいかずに落ち込んでいたとき、ある友人が私に言いました。「回り道してこそ、最高の人生でしょ」。その言葉が、私を深く強く励ましてくれました。