2024.10.30
令和6年度第4回講義:中山 康弘さん(H7卒)「公務員を元気に国民を幸せに〜北海道で働く国家公務員〜」
講義概要(10月30日)
○講師:中山 康弘 氏(1995年商学部経済学科卒/人事院北海道事務局総務課長)
○題目:「公務員を元気に国民を幸せに〜北海道で働く国家公務員〜」
○内容:
私が人事院で働きはじめてから30年近くが経った。この間日本も職場も時代のさまざまな波に洗われたことは言うまでもないだろう。後輩諸君の進路選択の一助となるように、国内外の変容に対応して近年さまざまに変わりつつある国家公務員の仕事について解説したい。その中で、国家公務員のウェルビーイングは、つまるところ国民のウェルビーイングと直結しているものであることを強調したい。
変化の時代の国家公務員の職場とやりがい
中山 康弘 氏(1995年商学部経済学科卒/人事院北海道事務局総務課長)
激動の年に卒業
私が卒業した1995(平成7)年は、1月に阪神淡路大震災、3月にはオウム真理教による地下鉄サリン事件など、日本が激動に見舞われた年でした。地下鉄サリン事件では中央官庁が集まる霞ケ関駅でたいへん悲惨な被害が出ましたが、のちに職場で知り合った人たちの中には直接被害を受けた方々もいました。どこか漠然と、一抹の不安を抱えながら私の国家公務員としてのキャリアが始まりました。
生まれ育ちは岩見沢で、小樽商大に入ると、硬式テニスに熱中しました。テニスは大学から始めたので選手としての戦績は誇れるものではありませんが、部のマネージメントの仕事を楽しく続けました。ゼミは、島田陽一先生の労働法。舟見坂の下宿に暮らして、ときどき三角市場の魚屋さんでアルバイトをしました。
現在の家は東京にあり、いまは人事院北海道事務局の総務課長として札幌で単身赴任生活です。歌舞伎や野球を観るのが好きなのですが、今年のプロ野球ドラフト会議では、小樽商大出身で北広島市役所に勤めた経験もある早川大貴投手が阪神に育成枠3位で指名されました。ぜひみんなで応援しましょう。
今日は皆さんに、国家公務員の仕事について広く知ってほしいと思います。そして、社会の変容に応えていま公務員の世界も変わってきている、ということをお伝えします。そこには、皆さんがイメージしている公務員の世界とは違う世界があるのではないか、と思います。
まず、私が30年近く働いてきた人事院とはどんな役所かといえば、国家公務員の人事行政を担当する中立的な第三者機関です。
人事院のホームページにはこういう説明がされています。
「公務員は、憲法で『全体の奉仕者』と定められ、職務の遂行に当たっては中立・公正性が強く求められます。このため、国家公務員法に基づき、人事行政に関する公正の確保及び国家公務員の利益の保護等に関する事務をつかさどる中立・第三者機関として、設けられたのが人事院です」。
国家公務員の仕事とは
さて、大きく捉えて国家公務員の仕事とはどういうものでしょう。
国家公務員は人々の生活を豊かにするために、内外のさまざまな声に耳を傾けて必要な政策を見つけます。そして、政策や法令を具体的に立案(法整備)して政策を実現させるためにいろいろな調整を行います。3つ目に、政策を実施します。つまり直接国民への行政サービスを行うのです。
「人々のニーズを探る」。その上で「必要な政策の実現のための調整」をする。そして「国民へ行政サービスを届ける」。これが国家公務員の仕事です。広く捉えれば、国民がより幸福になるために国の業務に従事する仕事です。
国家公務員は、いわゆるキャリアと呼ばれる「総合職」と、私のような「一般職」があります。法整備の仕事はほとんどがキャリア官僚が担いますが、私のような一般職でも携わることができます。私は、「国家公務員の自己啓発等休業に関する法律」(2019年施行)という、国家公務員が大学で学んだり国際貢献活動に従事する際の休業制度を定めた法整備に関わりました。
公務員の仕事にはどんな特徴があるでしょう。
一般には、民間企業が自社の利益のために仕事をするのに対して、公務員は公益のために仕事をする、と言われます。コストパフォーマンスが悪くても、広く公共の利益にかなうものであれば、税金を使って行われます。しかし、例えば社会インフラを担う土木会社の仕事を思い浮かべればわかるように、公共のために仕事をするのは、必ずしも公務員だけではありません。
公務員にはどんな人が向いているか—。
これも一般のイメージでは、社会に貢献したい人、コツコツと地道に努力できる人、規則やルールへの意識が高い人、そして、安定した環境で働きたい人、というところでしょう。しかし、具体的にはこれからの話で触れていきますが、いまは公務員の世界にも、こういうイメージだけに留まらない変化が起こっています。
北海道で仕事をしている国家公務員
地方公共団体で仕事をしている地方公務員と合わせて公務員はいま、全国で335万人ほどいます。そのうち国家公務員は約59万人。多いな、と思われるかもしれませんが、このうち30万人くらいが特別職といって、自衛官や裁判所の職員、国会議員など。そしてこの30万人のうち9割ほどが自衛隊(防衛省)の職員です。
一般職は、引き算した約29万人。そのうち北海道では、16,000人くらいが仕事をしています。内訳はグラフにあるように、全道各地に展開する北海道開発局が中心の国土交通省の職員が約42%(6,700人ほど)で、法務省が約20%(3,200人ほど)。次に財務省、厚生労働省、農林水産省、とつづきます。法務省の職員が多いな、と思うかもしれません。これも北海道が広いことに起因していて、各地の刑務所の刑務官などが含まれます。財務省も同様で、30を数える税務所の職員が中心です。
ちなみに人事院の北海道の陣容は、15人。全道にいる国家公務員一般職に閉める割合は0.1%程度です。
日本には公務員が多すぎるのではないか、といった意見を聞いたことがあるかもしれません。でも実はこれは、事実とは全く違います。このようにグラフにすれば一目瞭然ですが、人口千人当たりの公務員の数は、フランスでは90人、イギリス71.3人、ドイツ64.1人、アメリカ62.2人に対して、日本は37.9人です(内閣人事局の2021年データ。フランスは2020年のデータ)。
北海道には、国家公務員が働く国の役所が37機関あります。道外にあって北海道を支える仕事している機関を含めると、その数は全部で40です。
北海道警察を支えている事務官や技官がいる北海道警察情報通信部(警察庁)、札幌高等検察庁や札幌法務局(法務省)、道内各地のハローワーク(厚生労働省)、同じく各地に出先のある、北海道森林管理局(農林水産省)や気象台(気象庁)、小樽とも縁が深い海上保安庁(国土交通省)などがまず思い浮かぶでしょうか。
机に向かって黙々と働いているのが事務系の国家公務員の仕事だと思うかもしれません。しかしそれだけではありません。業務をめぐって外に出て住民の皆さんから話を聞いたり、あるいは逆に説明したり、今日の私は、外に出て広報のような役割を果たしているわけです。
技術系の仕事では、気象の予報や、国道の維持管理、国有林の管理などが思い浮かぶでしょうか。各機関とも主力は技術系の職員からなるチームですが、事務系の職員も配置されています。
ちなみに私が前回の札幌赴任時代に、胆振東部地震(2018年)がありました。厚真町などで甚大な被害が出て、送電システムが不全を来したために全道がブラックアウトになってしまったあの地震です。私は月寒の公務員宿舎で暮らしていたのですが、午前3時すぎに地震が起きてほどなく、近くのコンビニに水を買いに行ったのです。そのとき同じ宿舎に暮らす開発局の技術系職員さんたちが、厳しい表情で何台かのタクシーに分乗して出かけていくのを見ました。災害時にその回復が真っ先に求められる、交通インフラの復興に駆けつけるために出勤したのです。道が寸断されていては、自衛隊の本隊が救助に入ることもできませからね。今年(2024年)の能登半島地震のインフラ復興にも、北海道から応援部隊が向かっています。
インフラ整備から国有地や国有林の管理、国土防衛や治安維持、さらには福祉に関わる申請受付などなど、社会生活のありとあらゆる局面で国家公務員の業務が機能しています。人事院は「官庁ガイド」という広汎なポータルサイトを運営していますから、興味を持った分野をぜひ覗いてみてください。きっと役に立つはずです。説明会の案内なども発信しています。
国家公務員の職場環境と人事院の役割
国家公務員の給与はどのくらいか。皆さん興味があると思います。
大卒一般職の初任給は、202,000円で、これに定期券相当の通勤手当、住居手当が28,000円まで、ボーナスが年間約4.5カ月分となっています(令和6年1月現在)。
そこからキャリアを積んでいくとどうなるか。
一般職大卒の35歳の係長となると、年収は4,638,000円。40歳の係長では5,039,000円。50歳の課長では6,761,000円となります。
「人事院勧告」という言葉はニュースなどで聞いたことがあると思います。
国家公務員の給与水準を民間のそれに合わせることを基本として、国会や内閣に、公務員の給与をこれくらい上げるべきです(あるいは下げるべきです)と勧告するものです。令和6年度(2024年度)で人事院は、一般職大卒の初任給を2万円程度、ボーナスを4.5カ月から4.6カ月へとアップさせることを勧告しています。承認されれば、少なくとも北海道の大企業と遜色のないレベルになるでしょう。モデル年収で言えば、一般職大卒の35歳の係長の年収は4,875,000円。40歳の係長では5,198,000円。50歳の課長では6,874,000円となります。
なぜ人事院が、国家公務員全体の給与について勧告するのかを説明しましょう。
それはまず、公務員の労働基本権に制約が課されていることに由来します。総務省のホームページには公務員の労働基本権について、「公務員の労働基本権は、その地位の特殊性と職務の公共性にかんがみ、以下のような制約がなされ」、とあります。以下の制約とはわかりやすく言えば、憲法28条で認められている労働三権のうちの団体行動権、つまりストライキを行うことです。そしてストライキを行わない代わりに、人事院による給与勧告等の代償措置が取られているのです。
最初のところで説明した、公務員は中立・公正性が強く求められるため、「人事行政に関する公正の確保及び国家公務員の利益の保護等に関する事務をつかさどる中立・第三者機関」として設けられた人事院が、この代償措置を行うのです。人事院は、人事制度の調査研究や人事施策を展開する、人事行政の専門機関なのです。
勧告・報告の手順とラスパイレス比較
国家公務員の給与を民間の給与と合わせる、と言いました。それはどのような手順で進められるのでしょう。
人事院は4月分の給与について、まず国家公務員全員分を調べます。次に民間の事業所1.1万カ所くらいに電話でお願いをして、職員の方の4月分の給料を教えてもらいに行きます。両者を比較して、今年であれば民間の方が11,183円(2.76%)高かったので、国家公務員の方も1万円ちょっと上げてください、と勧告をします。内閣がそれを国会に提出して、承認されれば上がる、という仕組みです。逆に公務員の方が高くなれば、人事院は下げましょう、と勧告します。
人事院が直接給与額を決めれば良いのに、と思われるかもしれません。しかし給与法定主義という原則があり、公務員の給与は法律に基づいて決められることになっているのです。ですから毎年内閣は、給与法の修正案を国会に提出する手続きを踏みます。
では具体的にどうやって比較するのか。その方法が、「ラスパイレス比較」というものです。ごくポイントだけ説明します。
まず公務員と民間ともに、役職によってグルーピングをします。そして東京か小さなまちか、といった勤務地、そして学歴と年齢、この4つの指標でグループを分けて、その中で比較をしていきます。それから、民間の給与の総額を国家公務員の人数で割ります。ここがポイントです。
国家公務員と民間では、役職の人員構成が違います。この構成を揃えて、役職の土俵を一緒にして比較するのがラスパイレス方式なのです。民間の総額を国家公務員の人数で割るのは、そのためです。
ちょっと分かりづらいかもしれません。例をあげてみます。
小学校4年生の私、中山家の隣に、小島家という仲良しの家族がいるとします。小島家には、私と同級生であるユナちゃんという娘がいました。両家は子どもに与えるお年玉に共通のルールを作っています。小学校低学年は3,000円、高学年5,000円、中学生は1万円です。中山家には一年生の妹がいますから、私の5,000円と合わせてふたりのお小遣いの平均は4,000円になります。
一方で小島家は小一、小四、中一という兄弟構成で、中一のお兄ちゃんは1万円もらっています。子どものお年玉の平均は、総計18,000円を3で割った6,000円になります。なので私は両親に、小島さんの家の平均は6,000円なのだから、うちも平均で6,000円になるようにアップしてよ、と言います。でもこれに根拠はないですね。当然却下です。ユナちゃんのお年玉は私と同じ5,000円なのですから。
ラスパイレス比較とはこのように、同じ条件の人同士を同じように扱おうとするものです。
次に務め終わったときにもらう退職金ですが、国家公務員では退職金が2千200万円弱、プラス、共済年金分が月に2万円程度上乗せされます。退職金における民間との比較の調査は、平成18(2006)年からこれまでに4回行われているのですが、私はそのうち3回で、調査の企画設計に携わりました。ですから全国の企業の退職金はだいたい頭に入っているのですが、大手の銀行や総合商社はとても高いのです。しかし北海道の大手企業と比べれば、この数値は悪くないレベルだと言えます。
ちなみに、何度か調査に関わるうちに私は、統計調査が自分のキャリアの軸になっていることを意識するようになりました。
勤務時間は
働き方の目安となる勤務時間はどうでしょう。
1日7時間45分。8時半から17時15分。土曜日日曜日、祝日などの休日は休みです。これが基本ですが、いまは勤務時間を弾力的に自分で調整することができます。9時半から18時15分まで、と時差通勤をしたり、曜日によって始業時間を変えるフレックスタイムも利用できます。
私の場合、岩見沢に高齢の両親がいるので、週末にかけては岩見沢の実家で過ごすようにしています。それに伴って、木曜日はフレックスで15時にあがり、バスで岩見沢に向かいます。バスが空いている時間帯に移動したいのです。そして金曜日の勤務は実家でテレワークになります。また、木曜日には早く上がる分、ほかの日には30分早く出ます。部下たちが出社する前のこの30分は、静かに集中できるので仕事がはかどります。
こういうように、柔軟に働けるということを知ってください。
年次休暇は、年間20日。翌年に20日まで繰り越すことができます。またどの職場でも一時間単位で取れるのは公務員ならでは、と言えるでしょう。これは、急に保育園から呼び出しが来ても有休を使って帰れるなど、子育て世代にはとくに好評です。実際にどれほど活用されているか、人事院の調査によれば、全体で16.2日というデータがあります。
病気休暇は、90日までは同じ給与が支給されます。さらに長引けば、1年目は80%、2年目3年目は無給となりますが、仕事を失うことはありません。実は私は30代で大病をして、長期療養の時期がありました。そのときこの制度があるから大丈夫だ、と精神的に支えられたのでした。
育児や親の介護に関わることでいえば、大企業でもいろいろな制度が整えられていますが、重要なのはそれが萎縮せずにちゃんと使えるか、ということだと思います。国家公務員は民間への範を示す意味もあって、その点はしっかりしています。出産を期に仕事を辞めた女性を、私は職場で見たことがありません。男性の育児休暇の取得も着実に増えています。
詳しくは人事院のホームページにたくさん紹介されていますから、興味のある人はぜひ調べてみてください。
最大の関心事?転勤について
国家公務員は2〜3年で転勤になって遠くに行くことを強いられる—。皆さんの中にはそんなイメージを持っている人も少なくないと思います。国家公務員には興味があるけれど、やはり転勤があるから二の足を踏んでしまう、と。しかしこれは事実ではありません。今日はそこを理解していただきたいと思います。転勤の有無や頻度、移動する距離は機関によって大きく違うのです。
例えば会計監査院では、勤務地は東京の霞が関だけでずっと動かず、そのかわり全国に出張を重ねる日々です。私が属する人事院や、あるいは行政評価局などは、北海道では札幌でのみ働く機関です。これらの機関は2、3年は東京勤務を経験して、また札幌に戻るパターンが多いのです。遠くに転勤になるのではなく、道内や管区内の異動が中心の国家機関もたくさんあります。それぞれSNSなどで情報発信もしていますから、皆さんどうぞ調べてみてください。
ちなみに私はいま、両親のそばにいたいという希望を出して、4回目の札幌勤務を経験しています。そうした希望も、ある程度は叶えられるのです。
また転勤をめぐっては、私が経験したこういう例もあります。国家公務員では、係長になるタイミングで他省庁に赴任することが多いのですが、私の場合は2008年から3年間、カナダのトロントにある日本国総領事館に出向して、総務・政務の仕事をしました。最後の年には東日本大震災があり、日本にいたカナダ人の安否確認などで緊張がつづく日々を過ごしたことを思い出します。
国家公務員になるには?
もとより私はここにリクルートを目的に来ているのではないので詳しくは説明しませんが、採用試験のことも少しふれておきましょう。
国家公務員になるには3つの入口があります。本府省を中心に採用される「総合職試験」(いわゆるキャリア)と、法務や財務、航空管制官など高い専門性をもつ人材を求める「専門職試験」。そして、地方出先機関を中心に採用される「一般職試験」です。それぞれ一次試験、二次試験があり、一次試験ではマークシートで基礎能力試験(1時間50分)と専門試験(3時間)、そして論文試験(1時間)があります。二次試験は個別面接です。
一般職試験は、北海道、東北、関東甲信越、近畿など全国9つの地域に分かれて、それぞれの地で試験と採用が行われて、地域ごとに合格点が違っています。北海道は採用数が多いわりに応募者が比較的少なく、その意味で全国の中で受かりやすい地域になっています。詳しくはぜひ、ネットにある「国家公務員試験採用情報NVI」を見てみてください。
いまは公務員の仕事は、法律でこう決められているからと、慣習やルールを厳格に守るだけのものではありません。ご承知のように近年の国内外の情勢は不安定で、大きな変化にも対応していかなければならないからです。人事院では現在の人事行政の課題と方向性として、行政の経営管理能力を高めて、「公務組織の各層に有為な人材を誘致・育成することが欠かせない」、と認識しています。
もう少し具体的に言うと、民間から専門性の高い人材を誘致する体制作りに取り組んでいす。また、職員ひとりひとりがめざすキャリア像をしっかり持って、そのための主体的な学びを支援します。職員個人の事情を尊重して、フレックスタイムなどより柔軟な働き方を可能にしたり残業を減らして、ひとりひとりのウェルビーイングを実現する環境づくりに取り組んでいます。令和6年の人事院勧告・報告は、こうした方向に沿って行われました。また人事行政諮問会議という、有識者からなる会議が重ねられていて、今年(2024年)5月には中間報告が出されました。
試験制度も見直されました。一次の筆記試験、二次で個別面接という型式は変わりませんが、2025年度の春試験から、一般職試験に「教養区分」が新設されます。この区分では、法律学や化学などの専門試験は課されません。そして20歳(大学3年生など)から受験できます。20歳から受けられることによって早い段階から国家公務員を意識してほしい、という狙いがあります(合格者名簿の有効期間は6年間あります)。例えば3年生のときに一般職に合格して、4年ではさらにステップアップして総合職にチャレンジする、といったこともできるでしょう。
また、とくに志望者を増やしたい北海道では、人事院職員に限らず各府省の若手が横断的に集まって人材開拓チームを作りました。私は担当課長なのですが、口は出しません。彼らは3つの柱からなる提言をあげてくれました。
まず1、2年生への講義などによる情報発信。今日のこのエバーグリーン講座もその一環に位置づけられます。そして転職希望者への情報発信。この9月にはまず4機関で合同のオンライン説明会を開催しました。
3つめが、SNSによる情報発信です。Instagramでは「国のおしごとどさんこNAVI」というアカウントで展開しています。YouTubeでは、座談会や説明会の告知など、短い動画をあげていますから、ぜひ覗いてみてください。これは従来の紙のパンフレットによる訴求ではなく、ビジュアルを軸にした簡潔なコミュニケーションを図る方が良い、という若手の声が動かした取り組みです。
さらに若手職員を対象に、自分のキャリアについて中長期的に考えてもらうキャリア支援研修も行っています。これは機関の枠を越えた同世代の職員同士が交流できる場でもあります。
「働き方改革」進行中
私は国家公務員になって30年近く経験を積んできました。当然ながら、私の新人時代といまの新人たちが置かれている職場環境はかなり違います。パワハラなどはもってのほかで、管理職はそれがないように厳しく指導されます。
また同期で仲良く横並びで昇進していったり、自ら進んで残業をしてがんばっている人が出世することが多かったと思いますが、いまはどちらも違います。適正に働いて、休むときはちゃんと休む。そのことで心身のウェルビーイングを保つことが重要なのです。ひいてはそれが、仕事を通して国民を幸福にすることにつながります。今日の講義の「公務員を元気に国民を幸せに」というタイトルは、そんな考え方を掲げたものでした。
変化していく社会への対応として人事院では「MVV」というスローガンを設けています。それは「Mission」、「Vision」、「Value」の略語です。
組織の使命や任務を意味する「Mission」は、いま言った「公務員を元気に国民を幸せに」、ということ。ミッションを実現していくための里程標となる「Vision」には、「多様な才能が集い磨き合う活気ある公務へ」、という中長期的なゴールがあります。そして具体的行動を指す「Value」としては、自由に「異見」を言い合い、ユーザー(国民)目線でさまざまな国家公務員の実情を理解して施策に活かします。また自己研鑽を重ねるプロフェッショナルとして、失敗を怖れず困難な課題にも積極的に挑戦することをめざします。
最初の方で国家公務員の仕事とは、と整理しました。
まず「人々のニーズを探る」。その上で「必要な政策の実現のための調整」をして、「国民へ行政サービスを届ける」、と説明しました。
変化していく社会のニーズを探るには、公務にも変化が必要です。政策の公共性を重視しながらも、当然、効率やコストパフォーマンスが求められるでしょう。行政サービスの基本は法令遵守や社会倫理ですが、ルールを杓子定規に当てはめるだけでは不十分です。また公務員には安定した職場環境があると言いましたが、人事評価が年2回あり、能力実績主義が取り入れられるようになっています。
公務員は、与えられた仕事をこつこつこなしていけば安定した人生が約束される、といった昔からのイメージに固まった人には、逆に厳しい世界かもしれません。私の同期には、東京の本省で課長を務めている人もいます。回りから見ても、彼は若いときから仕事への意欲があってすばらしく優秀でした。
人事院の「MVV」というスローガンについて考え、そして今日皆さんに話す内容をまとめていく中で50代に至った私は、小樽商大時代にふれた言葉を改めて思い出しました。それは、硬式庭球部で、うれしい時、悔しいとき、悲しい時にいつも歌った応援歌、「若人逍遥の歌」にある一節です。
「俗世の安楽冥利とは大海に漂う塵の如し 我等その塵に何ぞ命を託さんや 今こそ悪夢より覚醒出でて 打ち寄する荒波の如き熱き血潮を持って杯をかかげん 春宵の暁にいざいざいざ歌わんかな我等が命を」—。
大海に浮かぶ小さな塵に一喜一憂するのではなく、プロフェッショナルとして国や国民という大きな存在のためにいつも変わらず仕事をすること。それが国家公務員の仕事であると思います。
<中山康弘さんへの質問>担当教員より
Q 人事院の幅広い仕事を紹介していただきましたが、中山さんご自身がとりわけやり甲斐を感じた仕事をひとつ挙げるとすれば、どんなものになりますか?
A 自分のキャリアの軸は統計調査の企画・実施・編成にありました。人事院勧告による公務員給与の仕組みは古くからできあがっているものですが、私は2006(平成18)年に一から始まった退職金と年金の調査とスキーム作りに参画しました。給与のように官民比較する場合、どうすれば良いのか。難しかったのは、複利計算でできている年金の複雑な扱いです。苦労しましたがいまそれが機能して、多くの人の退職後の生涯にわたる退職金と年金のベースを整えたことは、とても責任とやり甲斐を感じさせてくれる仕事でした。このあいだその調査が新たにあったのですが、私はまだ関わっています。
Q ぶしつけの質問になって申し訳ありません。学生諸君が興味を持つことのひとつに、失敗をどう乗り越えたか、というテーマがあります。中山さんの場合はいかがだったでしょうか?
A 幸い、目も当てられないほどのしくじりはしていません(笑)。ですが人事給与のシステムを刷新する仕事をしたとき、高度な技術をもつ専門企業に入っていただくのですが、私たちと技術者の皆さんのコミュニケーションがうまくいかず、結果として計画の納期を過ぎてしまいました。そのとき私の残業時間はいまの時代ではとても公表できないくらいのものだったのですが(笑)、長く仕事をしていると、どうしてもうまくいかないことはあるものです。チャレンジした結果ですから、前向きに受け入れるしかありません。失敗を怖れずにチャレンジすることも重要です。
いまの質問で、私が人事院で29年間仕事をしてきた中で、一番怒りを覚えたある先輩の言葉を思い出しました。若い私がちょっと仕事でつまずいたことがあり、そばで見ていたその人が言ったのです。「バカだなぁ、がんばるから失敗するんだよ。俺みたいにいつもがんばらなければ、失敗なんて絶対しないのに」—。人にとって仕事ってなんだろう、と考えさせられますね。
<中山康弘さんへの質問>学生より
Q 新人時代は、時には厳しい指導も受けたのではないかと想像します。自分が社会人になったときを想定してお聞きしたいのですが、そんな場合に新人としてどんな心構えが必要でしょうか?
A まず逆に、いまの私は指導する立場なのでそこから話しますが、リーダー層を集めた近年のマネージメント研修では、アンガーマネジメントがよくテーマになります。たとえ部下が大きな失敗をしたとしても、感情的に頭ごなしに「怒る」のではなく、理路を説明して「叱れ」、と言われます。そして相手の考えや言い分を「傾聴」せよ、と。指導する側とされる側のあいだの信頼関係を重視するわけです。これを若者の側から言えば、たとえ上司の叱りに100%納得できなくても、まず良いと思うところだけでも傾聴していけば良いのではないかと思います。
Q 教員の場合結婚すると同じ学校には勤務しないと聞きますが、国家公務員の場合、職場内の恋愛や結婚はNGですか?
A 同じ課で夫婦が机を並べるのは当人たちもまわりもやりづらいでしょうし、さすがにそうならないように配慮されます。でも基本的にもちろん、職場恋愛が禁止されているわけではありません。以前、私の部下同士が結婚したこともあります。
Q いま振り返って、大学時代にもっとこれを勉強しておけば良かった、ということはありますか?
A 実は私は最初から公務員志望ではなく、民間企業に就職しようと思っていました。ですからなおのこと思うのですが、統計学とその周辺をじっくり勉強しておけば良かったな、とは思います。現場に入って猛勉強せざるを得なかった私からのアドバイスです。
Q 中山さんが考える「優秀な公務員」とはどんな人でしょうか?
A 俗にいう地頭がやわらかい人ですね。時代と共に変わっていく現実を受け止めながら、そこに学び、対応してグランドデザインを上書きできるような。昔は出身大学で公務員人生のレールが決まっていたかもしれませんが、いまは違います。良い仕事をすればそれが正当に評価される土壌があります。
Q 公務員の不祥事がもとで公務員バッシングが起こることがあります。中山さんはどうお考えでしょうか?
A 言うまでもなく、ほとんどの公務員は誠実に仕事と向き合っています。ごく一部の人間の良からぬふるまいが、残念ながらそうした空気を作ってしまうことになります。広報の部署にいたとき、私もそういうバッシングを直接受けたことがあります。私がバッシングを浴びせられる部下の上司なら、批判は組織に対してであって、決して君個人を問題にしているわけではないんだよ、と寄り添います。だからひとりで悩まないでほしい、と。
担当教員より
Q 最後に後輩たちにメッセージをいただけますか?
A 残念ながら近年、国家公務員を志望する人が伸びていません。この要因には、転勤が敬遠される状況があると考えられます。ただ、国家公務員にはたくさんの部署がたくさんの土地に配置されています。例えば職場でどうしても合わない人がいたとしても、転勤によって救われる場合があるでしょう。国家公務員にはほんとうに幅広くいろいろな仕事があるので、ぜひ興味を持って調べてみてください。惹かれる仕事がきっとあるはずです。皆さんの進路のひとつに国家公務員を考えていただければ、先輩としてもうれしい限りです。