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エバーグリーンからのお知らせ

2022.10.12

令和4年度第1回講義:立花 保昭さん(H2卒)「自らを進化・成長させる手法〜日本企業の働き方改革支援を通じて得たもの〜」

講義概要(10月12日)

 

○講師:立花 保昭氏(平成2年商学部商学科卒/コクヨ株式会社ファニチャー本部ワークスタイルイノベーション部ワークスタイルコンサルタント)

 

○題目:「自らを進化・成長させる手法〜日本企業の働き方改革支援を通じて得たもの〜」

 

○ 内容:

2010年代の末から、政府によって「働き方改革」が進められてきた。その動向によって顕在化した日本の企業の課題は少なくない。「働き方改革」は、日本の社会と、働く人々ひとりひとりの人生に深く関わっている。企業の「働き方改革」を支援する仕事を通して、私自身が気づき、学び、成長できたことを伝えたい。

 

 

人は、仕事によって大きく成長できる。

 

 

立花 保昭氏(平成2年商学部商学科卒/コクヨ株式会社ファニチャー本部ワークスタイルイノベーション部ワークスタイルコンサルタント)

 

 

 

 

採用面接での究極の質問を編み出す

 

 

「働き方改革」という言葉は、みなさんもしばしば聞くと思います。厚生労働省はこれを、「働く人の個々の事情に応じて多様な働き方を選択できる社会を実現して、一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすること」と定義づけています。つまりこれは、日本社会のあり方を深みから変えていこうとする改革です。
こうした社会動向の上で、私は現在、コクヨ(株)でワークスタイルイノベーションの仕事をしています。肩書きは、ワークスタイルコンサルタント。日本企業の働き方改革を支援する日々です。

 

今日はふたつのことを皆さんにお伝えしたいと思いますが、その前にまず、働くことは単に生活の糧を得る手段であるに留まらず、「人を成長させるプロセスそのものなんだ」ということを前提に置きたいと思います。
そしてお伝えしたいことのひとつは、「自分を進化・成長させるためには生産性高く学び、働くことが必要」だということ。ふたつめは、「自分を進化・成長させるためには適切なコミュニケーションが必要」ということです。どちらも、社会人になっても、そして学生時代の今も大切なテーマだと思います。

 

本題に入る前にまず、私自身のことを少しお話しします。
1967年、道南の七飯町の大沼に生まれました。高校は函館中部高校で、部活ではサッカーに熱中しました。この時代に得たものは、自律的な行動の意味や価値です。1年生2年生のとき、私は練習がきつくて辛かったのです。でも3年生になったとき、仲間と話し合い、最後は納得のいく戦いをしようと決めました。練習も自分たちで考え直しました。それは、実は1年2年生のときよりもさらにキツイものだったのです。でも私は、キツイとは思いませんでした。自分たちで考えて自分たちで決めたからです。そして部の戦績も、3年間でいちばん良い結果が出せました。他人事ではなく、自分事として考えて行動すれば、人は大きな力が出せるんだ。そう実感したことを今でもよく覚えています。

商大では、中部高校の大先輩でもあった久野光朗先生の会計学ゼミで学びました。学生が二人しかいない厳しいゼミで、毎週発表がありました。会計学はもちろん、人としてのあり方から始まってたくさんのことを教えていただきましたが、「社会人では10 年周期で物事を考え、大きな成果を出せ」と繰り返し言われたことを覚えています。また、数え切れないほど3分間スピーチの場を与えられました。どんな内容でも、それを3分間にまとめて自分の言葉で人に伝える訓練です。これは社会人になってからとても役立つことになりました。

 

コクヨ(株)に入ったのは1990年。就活の時期は日本経済が絶好調で(のちにバブル経済などと呼ばれます)、学友の半分くらいは金融に進みました。でも私は、数字ではなくオリジナルのモノを具体的に作るメーカーに入りたくて、コクヨを選びました。最初の配属は、文房具の営業部門の内勤でした。外回りの営業をバリバリしたかった自分としては、拍子抜けの感がありました。少しして営業をやりたい!と直訴して、大手の販売店向けの営業担当になりました。厳しくも楽しく、誰よりも数字を上げようと夢中で働きました。
2001年に三井物産に出向して、中国でのビジネスを経験しました。このとき、商社にはビジネスの境界がないことを実感しました。あらゆるモノやコトがビジネスになるのです。ならばコクヨにしても、文房具やオフィス家具という境界線を越えてもいいじゃないか、と強く思いました。最近、コクヨでは野菜を作ったり、それを材料にレトルトカレーまで作ったりしています(ショールームのノベルティです)。

 

2005年にコクヨは、中国の上海で事務用品のカタログ通販の会社を立ち上げました。私が責任者で、3人で始めて社員100名くらいの規模の会社にしましたが、中途採用の人材をたくさん採用しました。あるときは400名の応募者の中から書類選考で200名にしぼって、ひとり30分の面接をしました。たいへんな時間が必要ですし、30分の面接ではその人の能力をどこまで見極めることができるか、つねに疑問が残りました。やがて私は、採用業務の生産性を高める「究極の質問」を考え出して、これを問いかけることにしました。
それは、「あなたがコクヨに入って成長できることを、この場で証明してください」、というものです。これはどんな就職マニュアルにもない、立花オリジナルの質問でした。その中でこちらが納得できる答えをすぐ返してきた人材が200名中4名だけいました。当然採用。そして彼らはみな、まぎれもなく優秀な人材でした。

 

 

 

「働き方改革」を深掘りする

 

 

ここから、「働き方改革」をテーマにします。
なぜこのことが日本の課題になってきたのか。背景にはまず、少子高齢化からくる労働力不足があります。日本の人口は2016年には約1.27億人で、これが半世紀後の2065年には3割減になる見込みです。さらに危惧すべきは、生産年齢人口(生産活動に従事できる年齢、15才以上65才未満)に限れば、これが4割減となることです。
そして働き方改革で問題にされているのは、世界の中で日本の生産性がとても低いということです。日本の労働生産性は世界の中で22位。G7(日本、アメリカ、カナダ、フランス、イギリス、ドイツ、イタリア)の中では一貫して最下位で、アメリカの65%程度にすぎません。単純計算でいえば、2065年の日本がアメリカと同等の生産性を持つには、生産性を2.5倍にしなければなりません。

 

近年「エンゲージメント」という言葉に注目が集まっています。いろいろな日本語に訳される言葉ですが、働き方の文脈では、いわゆる「やりがい」、「働きがい」のことです。アメリカのギャラップ社の有名な調査では、日本企業はエンゲージメントの高い社員の割合が6%くらいしかなくて、これはアメリカの31%と比べて大幅に低いのです。さらに139カ国中、なんと132位です。やりがいをもって生き生きと仕事ができている人がここまで少ないと、当然、生産性も上がりません。
「エンゲージメントが高まると、それにつれて業績も上がる」。そのことに気づいている日本の大企業もあります。企業のエンゲージメントは、売上や利益といった指標では捉えられない、いわゆる「非財務指標」です。これをどこまでどのように上げられるか。全社をあげて取り組んでいる企業もあり、私の仕事は、それを支援することでもあります。業績を上げるにはまず、やりがいが持てる働きやすい会社でなければならない。「働き方改革」の本質はそこにあるのです。

 

厚生労働省のレポートでは、エンゲージメントは少なくとも3つの項目に対して影響を与えていると報告されています。ひとつは、「生産性の向上」、そして「離職率の低下」、さらには、「自発性の向上」です。要するに、すべての企業が働き方に課題を持っています。
どんな企業でも仕事の内容は、大きくふたつに分けられます。「作成・調整・商談」といった「定型的ワーク」と、「思考・討議・提案」といった「創造的ワーク」です。皆さんはまだビジネスの現場を知らないのでリアリティがないと感じるかもしれません。でもいま話していることは、学生生活でも役立つことですし、いまのうちからこういう考え方を理解しておいてください。
業務を効率化して無駄を排除するためには、まず定型的ワークの質を上げることが求められます。そこから新たな時間を生み出して、「創造的ワーク」に当てることで、ビジネスでは新しい価値を生み出すことができます。ここで気づいて欲しいのは、生産性を高めること自体が目的ではないということです。生産性を高めることによって成果(価値)を最大化することが目的なのです。そのためには、企業は目指す姿、ビジョンを明確に設定しなければなりません。そこに至る方法として、働き方があるのです。

 

ビジョンを設定する際には合わせて課題を抽出します。このとき、表面的な課題の抽出では本質的な課題は洗い出せません。課題をしっかりと深掘りしなければなりません。
例えばオフィスの動線が悪いとか、IT環境が時代遅れといった、「場」をめぐる課題があるとします。それらを一新すれば問題が解決されるかといえば違います。「場」は、それを使うためのルールや仕組みといった「型」と、個々人の意識やスキルといった「技」があってはじめて機能します。課題を深掘りして、それに対して「型・場・技」を連動させた解決を図らなければ、良い成果は生まれません。

 

 

 

生産性向上は小さな気づきから

 

 

働き方改革を支援する仕事は、私自身の生産性向上に繋がりました。私もまた、働き方改革によって成長できたと思っています。メールのやりとりから、資料の作成、情報整理、会議の方法、在宅での仕事術など、私が示している生産性向上のための仕事術は500以上になります。
少し具体的にいうと、小さなことですが例えば、パソコンで文章を書くときに「単語登録」をうまく使うと、効率性が全く違ってきます。私のPCでは、「いつも」、と入力すると「いつもお世話になっております」と変換され、「お」と打つと「お疲れ様です。コと打つと「コクヨ」と出てくるようにしているのです。決まり切った定型の文章をどんどん単語登録しておくと、時間の節約になり、さらに誤字脱字をなくすこともできます。これはスマホでも同様です。皆さんも、1日3回くらい同じフレーズを入力しているな、と気づいたら、すぐ単語登録しておきましょう。

 

ビジネスメールは、ていねいに書いているつもりでも実は読みづらくてひどいメールがあります。ダラダラと文章が長く、改行や行間をあけることができていなくて、読みづらい。これは相手の貴重な時間を浪費させてしまう残念なメールです。簡潔に整理されて読みやすいメールだと、すぐ理解してもらえるし、理解の齟齬もありません。

 

 

 

 

相手を知るための「ソーシャルスタイル診断」

 

 

また、相手によってかける言葉やアプローチの姿勢を変えるとコミュニケーションの質が上がります。自分がコミュニケーションする相手がどんな人なのか。人を大きく4つのタイプにわける「ソーシャルスタイル診断」という手法があります。自己主張をするか、あるいは逆に人の話を聞くかの志向を横軸に。感情表現が豊かかクールかの度合いを縦軸に、4つのタイプを設定します。
(1)Analytical理論型。正確性・整合性にこだわって順序立てて事実を整理していくタイプ。

(2)Driving行動型。事実をもとに自分でものごとをスピーディに決めていくタイプ。

(3)Amiable友好型。和を重んじて戦いを好まない。まわりの意見を尊重してまとめていくタイプ。

(4)Expressive感覚型。楽しいこと新しいことが大好きで、自律的に周囲に影響を与えたいタイプ。
スマホで簡単に自己分析できるサイトがあるので、これを皆さん、いま本気でやってみてください。
(※その場で自己診断。その時間を経て)

 

さて集計してみると、ここにいる皆さんに一番多いのは(3)Amiable友好型ですね。41%。実は日本人の6割がこのタイプだと言われています。(4)Expressive 感覚型も多いですね。33%。
戦国武将に例えると、(1)Analytical理論型は、明智光秀。(2)Driving行動型は織田信長。(3)Amiable友好型は徳川家康。(4)Expressive感覚型は豊臣秀吉、などと言われています。

 

タイプによってかける言葉を変えるべき、という話をしました。例えば仲間に対する褒め言葉だとどうなるでしょう。
(1)Analytical理論型の人には、「体系立てた話がすごく分かり易かったよ」。

(2)Driving行動型には、「スピード感のある対応で目標が達成できたね!」。

(3)Amiable友好型の場合は、「あなたがいたからチームがまとまった。ありがとう!」。

(4)Expressive感覚型だったら、「こんなことができたら商大で初めてだよ!」、なんていう具合です。

 

私はしばしば競合が複数いる中で、クライアントに対してプレゼンテーションをします。こちらの提案がズバズバと相手に届いているという実感がもてるプレゼンテーションもありますが、どうも刺さっていないな、と感じるときもあります。その場合、相手の多くは(3)のAmiable友好型でした。オフィスをなんとかしろ、と社長に言われて困っているようなお客様なのです。それが見えてくると、ていねいにヒアリングをして、その方の課題を整理し、「その全てに対応できますよ」、とお伝えします。そうすることによって受注率が飛躍的に上がっていきました。いろんなお客様がいますが、私はこの4つのタイプを見極めて、それに合わせてプレゼンテーションの仕方を変えるようにしています。

 

といっても、人間が全て4つのタイプに分けられるわけではありませんし、診断されたタイプはあくまでひとつの目安です。コミュニケーションを深めていく中で相手のタイプを確認していきましょう。さらには、私自身はキャリアの前半では、(4)Expressive感覚型でしたが、社内の人をスピードを上げて説得することが増えた結果、(2)Driving行動型に変わりました。入社したときには新しいこと、楽しいことが大好きだった人間が、周りを巻き込むことに苦労し、タイプが変わったのです。
その後、2008年からコンサルティングをするようになると、それまで以上に理論的な思考が求められるようになり、さまざまなことを必死で学び直しました。そして(1)Analytical理論型に移行しました。でもその先は苦労しました。プレゼンテーションする際に上手くいかないことがありました。その時にソーシャルスタイル診断に出会い上手くいかなかった相手のことを考えてみました。そうすると相手の多くが(3)Amiable友好型であることが分かりました。その結果、私自身が寄り添ったプレゼンテーションをするようになりました。
そしていま、キャリを積んできた55歳の私は、また最初にもどって(4)Expressive感覚型になっています。新しいこと、楽しいことに改めてワクワクしているのです。
新しいこととして、昨年夏から、日本経済新聞社グループと協働で開発した、コロナ禍時代におけるニューノーマルな働き方を支援するプログラムを提供しています(「生産性(テキパキ)×働きがい(イキイキ)upプログラム」)。
そして「ソーシャルスタイル診断」について、これはほとんど言われていないのですが、私自身は、タイプは人の進化・成長につれて変わっていくことがある、と考えています。

 

 

 

 

幸福感は生産性向上に直結する

 

 

マネジメントの話をします。ここでいうマネジメントとは、「資源や資産・リスクなどを管理して経営上の効果を最適化しようとする手法」のことですが、皆さんが学生生活をおくる中で役に立つ考え方でもあります。サークルや仲間との関わりの中で意識してみてください。
何かに取り組むときに、人はどんなことから「満足」を得るでしょうか。アメリカの経営学誌「ハーバードビジネスレビュー」の調査では、とくに重要なものとしてふたつ上げられています。それは、「達成」と「承認」です。人は、満足して幸福度が上がると、良い仕事をしたり良い勉強ができます。それはつまり良い成果を出す、ということです。今日は詳しく触れられませんが、これにはアメリカの行動心理学の研究者らの実証的な研究の蓄積があります(ミシガン大学のグレッチェン・スプレイツァー教授など)。そのための良いマネジメントをするには、何が重要でしょうか。
私は少なくとも3つのテクニックがあると考えています。それは「笑顔」、「傾聴」、「褒める」です。今日はとくに「笑顔」と「褒める」について話します。どちらも日本人が、とくに日本企業の管理職が苦手とするものだからです。

 

「笑顔」はチームの価値・成果を上げることが分かっています。上司が笑顔で接すると、チームメンバーは「受け入れられている」と感じます。人から受け入れられる、つまり「承認」されていると、人は幸福度があがります。そして幸福度が上がれば、生産性が向上します。チームメンバーの生産性が上がれば、チームとしての業績アップに直結するのです。
そして笑顔は業績アップに繋がるだけでなく、本人の肉体的・精神的な健康にも繋がります。そしてその笑顔は作り笑いであっても、健康に繋がることが分かっています。こうなると皆さん、笑顔でいない理由が見つからないですよね。

 

そして、「褒める」。
これはとくに日本企業の管理職が苦手なところです。でも褒めることがチームの価値や成果を上げることもまた、明らかなのです。上司が褒めるとチームメンバーは「受け入れられている」と感じ、幸福度があがります。それが生産性向上に繋がり、業績アップに直結する、というパターンです。私もかつて、意識を変えて部下を褒めてみました。最初は「急に褒めだしてどうしたんですか?」「体調悪いんですか?」などと言われ、気持ち悪がられました(笑)。ただこれも続けていけば、上手に褒められるようになっていきます。
褒めるについては、短いトレーニングでスキルをあげることができます。トレーニングとは例えば、ネガティブな言葉をポジティブな言葉に変換することです。「おおざっぱ」という気質を、「おおらか、失敗を引きづらない、細部を気にしない」などと言い換えるように。
皆さん。私がこれからネガティブな言葉を上げていきますから、その場ですぐ言い換えてみてください。行きますよ!
(問い)「自己中心的」→ (学生挙手して答える)「自己肯定感が強い!」。
おお素晴らしい。
(問い)「自己主張が苦手」→ (学生挙手して答える)「謙虚!」。
いいですねぇ。
(問い)「おだてに弱い」→ (学生挙手して答える)「すなお!」。
驚きました。みなさん素晴らしい。ある大企業の管理職セミナーで同じことをしたとき、会場はシーンとしてなにひとつ応えがありませんでした。私は思わず、「本気で考えてますか!?」と言ってしまったほどです(笑)。
ネガティブな言葉をポジティブに換えるということは、モノゴトの捉え方を換えることです。そうすれば感情が変わり、行動が変わります。そしてそれによって「未来が変わる」のです。

 

 

小さな積み重ねこそが目標をかなえる

 

 

最後に「自律」について。
自律とは、「他からの支配や制約を受けずに、 自分自身で立てた規範に従って行動すること」です。人の力を借りずに自分で行動できるのは「自立」ですが、自分で規範を立てて、いつもそれに基づいて行動できる人が、自律した人なのです。高い生産性を発揮できる人は、自律した人にほかなりません。
当社では日本企業のお客様をご案内して、最先端のオフィス環境を整えて独創的な成果を上げている海外企業を訪問するツアーを行っています。さきほど言った「場」と「型」と「技」のうち、単に最先端の「場」(オフィス)に触れることが目的ではなく、「型」や「技」を学ぶことを大切にしています。
ある年は、サンフランシスコに本社のあるゲンスラー(Gensler)という世界的に有名なデザイン会社に行きました。建築・インテリアからプロダクトデザインまで、とても幅広い分野で、世界40数カ国で事業を展開する大企業です。私はいつもそうするのですが、迎えてくれた総務の人ではなく、廊下ですれちがうような人をいきなりつかまえて、御社の強みはなんですか? などと聞いてみます。そのときもたまたま近くにいた方をつかまえてこの質問をしたのです。その人は即答しました。マーケティング力と、多国籍多民族からなる組織としての多様性、そして全社が同じ価値観を共有していることです、と。そして、仕事のスピードが速い中国人スタッフと、正確な仕事をする日本人を組み合わせてチームを作るとこういう仕事ができるとか、半年に一度世界中から幹部が本社に集まってゲンスラーイズムを絶えず共有、ブラッシュアップしています、などとよどみなく話してくれました。さすがだな、と思いました。この企業は、「自律した人間たちが動かしている」のです。同じことを日本の企業で聞いても、私の経験上、反応はまったく違います。

 

皆さんも、自分のこととして考えてみてください。
自律した人になるためには、必要なプロセスがあります。まず「自らの目指す姿(ビジョン)を明確にする」。次に、「目指す姿実現に向けて現状課題を洗い出す」。三つ目に、「目指す姿実現のため、現状の課題解決のためにすべき行動を決める」。そして、「決めた行動のうち 優先度の高いものから実践する」。その上で、「行動に対して目標設定して、それを測定・管理する」。
もっとも、これがすらすらできたら苦労はしません。ビジョンを立てて、現状の課題を洗い出し、すべきことを整理しても、特にその先の具体的な行動は容易ではありません。
それは目の前の業務が忙しくて、決めた行動を実践する時間がつくれないからです。特に日本企業の管理職が、そういう時間を作ることは難しいでしょう。ですからまずは生産性をとことん高め、時間を生み出すことが重要です。

 

大リーガー大谷翔平選手が高校1年生の12月に、監督(花巻東高校野球部佐々木洋監督)に提出した目標達成シート(マンダラート)のことは、聞いたことがあるのではないでしょうか。これは、目指す姿を明確に描いて、そのためにすべきことを8つに分け、さらにそこから深掘りする小さな目標を書き込んでいきます。
大谷選手は、「ドラ1・8球団」という目標を真ん中に書きました。プロ野球ドラフト会議で8つの球団から1位指名を勝ち取る、という大目標です。当時も今も、高校生でこの数の指名を受けた選手はいません。
まわりのマスは、この大目標をかなえるために必要な、「カラダ作り」、「スピード」、「メンタル」、「人間性」、「運」など、8つの目標。そしてその8つをかなえていくためのさらに小さな目標を8つずつ配置していきます。それは例えば「運」のチャートでは、「ゴミ拾い」、「道具を大切に使う」、「あいさつ」、「本を読む」などとあります。

 

私は体験的に、人が成長していくのに、早道はないと思っています。成長してもっと自律した人間になりたいと願っても、なにかひとつができたならその夢がかなう、などという抜け道はありません。だから小さなことをコツコツ積み上げていくしかないのです。そして、積み上げる行動には終わりはありません。
大谷選手がアメリカで、球場に落ちているゴミを拾っている、ということがニュースで紹介されたことがあります。つまり彼は今でも、「運」を高めるために「ゴミ拾い」を実践しているのです。すごいですよね。
前半でパソコンやスマホで単語登録をしましょう、という話をしましたが、小さなことの積み重ねとは、例えばそういうことです。

 

私の講義も最後を迎えました。
今日主にお話したことは、私が50歳からの5年くらいで仕事を通して得た観点や、深めてきた考えです。50歳からだって、いろんなことが学べて、自分を成長させることができます。よく社会人の先輩たちが、学生時代にもっと勉強しておけばよかった、などと嘆いています。それはそうかもしれません。でも、勉強なんていくつになってもできます。勉強したい、成長したい。本気でそう思ったときに始めればよいのです。そうです。人は何歳からでも成長できます。そんなことを頭の片隅に入れておいてください。
今日は私の話をこんなに熱心に聞いていただき、本当にありがとうございました。

 

 

 

 

<立花 保昭さんへの質問>担当教員より

 

 

Q せっかくですので、コクヨ(株)がどんな会社であるか、あらためて少しご説明いただけますか?

 

 

A ありがとうございます。企業情報はネットでいろいろ見られますから、ちがう観点からひと言説明しましょう。最近当社の社長が、コクヨの強みは「誠実なユニークさにある」、と発言しています。文房具からオフィス家具、事務機器など、私たちは実にさまざまな製品を製造販売していますが、ユニークなものもたくさんあります。角がたくさんある「カドケシ」とか、動く座面で体幹が鍛えられるワーキングチェア「ingチェア」などです。創業は明治38年ですが、最初の製品は帳簿でした。表紙を含めて100ページあるのが当時の常識でしたが、これを中味だけで100ページ、「正百枚」を売り物にしたのです。よそがやらない商売をする、というのが企業文化として生きていると思います。

 

 

Q 「ソーシャルスタイル」はキャリアを経て変わっていくものだ、というお話が印象的でした。ご自身を振り返ってみて、変わっていった局面に共通するきっかけのようなものはありましたか?

 

 

A どの場合でも、困難にぶつかったことがきっかけでした。セールスでがんばってトップ営業になりましたが、次のステージに困りました。私にはまわりを動かす力が弱かったのです。そのとき「コーチング」を学んで、相手の立場になって相手から言葉や行動を引き出すことに取り組みました。コンサルティングの仕事に移ったときも、プレッシャーがあって当初は苦労しました。暗闇の中を進みながら、たくさんのことを一から必死に学び直したのです。スタイルが一周することで、人の思いがより見えやすくなったと思います。

 

 

 

Q 中国で会社を立ち上げたご経験も、学生諸君には刺激になったと思います。中国語や英語はどのように習得されましたか?

 

 

A 実はそれほど猛特訓をしたという経験はありません。どちらもほどほどです。会社の考えもあると思いますが、外国でビジネスをするために必要なのは、やはり語学の前に人としてのあり方と、ビジネススキルです。いくらネイティブみたいに外国語が使えても、それがないとビジネスはできないでしょう。私の場合、信頼できる通訳を得ました。それでも重要な契約などでは、最後には自分で業務フローを起こして、それをもとに綿密に確認するプロセスは欠かしませんでした。

 

 

 

<立花 保昭さんへの質問>学生より

 

 

Q 私は、自分が興味をもつものにしか集中できなくて、勉強の面ではそこがネックになっているとも思うのですが、何かアドバイスをいただけますか?

 

 

A 興味をもつもの、熱中したくなるものがあるということは、素晴らしいことです。それがまだない人も多いでしょう。いまはあなたの志向のままに、進んで行けば良いと思います。どうぞ自信をもって好きな分野を深掘りしていってください。

 

 

 

Q 上海での面接試験での「究極の質問」が気になります。立花さんが高く評価した人は400人中の4人しかいないということでした。その人たちはどんなふうに答えたのでしょうか?

 

 

A やはりこの質問が来ましたね(笑)。でもこの質問には、答えないようにしています。皆さんには自分で考えて欲しいからです。そしてもちろん、正解はひとつではありません。ヒントだけは伝えましょう。私をうならせた答えには二つのパターンがありました。理論的に整然とした答えと、熱く抒情的な答えのふたつです。もしあなたが、ほかの皆さんでもかまいませんが、自信が持てる解答を思いついたと思ったら、どうぞ私にメールをください。私から、「合格!」、「不合格!」のどちらかを返信させていただきます(笑)。

 

 

 

Q いま振り返ってみて、商大時代に得た成長の根や芽はなんですか?

 

 

A やはり恩師との出会いですね。ゼミを軸に、久野光朗先生と濃密に過ごした2年間は、さまざまな意味で私の土台になっています。久野先生は、一途で剛直に学生のことを大切にしてくださり、とても人間臭いところはいまの皆さんには別世界の先生かもしれません(笑)。でもかけがえのない時間や経験を私にくださいました。

 

 

 

Q 1年生ですが、私はまだまだ将来の自分が見えません。これをしたい、と強く思えるものもありません。どうすれば良いでしょうか?

 

 

A 1年生のときの私もそうでした。心配しないで大丈夫です。ただ私には、自分の人生をこうしていきたい、という柱のようなものはあったと思います。それはいまにも通じている、「どんなときも楽しく生きたい」、「いまこの時間を楽しくしたい」、ということ。そうしたポリシーのようなものを意識して作ってみるとどうでしょうか。また、少しでも面白そうだな、と思えるものがあれば、まずやってみましょう。そして、やっぱり違うかな、と思ったら方向転換すれば良いのです。そんなことを繰り返すと、何かが見えてくるのではないでしょうか。

 

 

 

<担当教員より>

 

 

Q 最後に後輩たちにエールをいただけますか?

 

 

A 「ネガティブ」 な言葉を「ポジティブ」に言い換えてください、と私が言ったとき皆さんは、もじもじせずにパッといろんな意見をぶつけてくれました。今日はそこがいちばん印象的で、うれしかったのです。それができない大企業の幹部の方々をたくさん見てきましたから(笑)。生産性向上で重要なのは、笑顔で褒めること、と強調しましたが、皆さんはその土台がすでにちゃんとできています。自信をもって、これから勉強に就活に取り組んで、小樽商大でかけがえのない学生生活をおくって欲しいと思います。本日はありがとうございました。

 

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