2013.10.30
平成25年度第4回講義:「ドラッカー経営理論の評価、及び理解と実践の仕方」(2013/10/30)
講義概要
・講 師:増岡 直二郎 氏/昭和36年卒
・現職等:nao IT 研究所代表
・題 目:「ドラッカー経営理論の評価、及び理解と実践の仕方」
・内 容:
Ⅰ.メインテーマ
1.ドラッカーの思想
ドラッカーの根本にある思想を理解することにより,経営を実践する者にとって,
経営に関する信念を持ち,心の拠りどころを持つことができる。
2.マネジメントとリーダーシップ
(1)マネジメントとリーダーシップの違い。
(2)ドラッカーによるマネジメントの定義と補足すべき点。
3.企業は営利組織ではない。
「利益確保のためには,人殺し以外のことは何でもやれ!」という経営現場の実態。
4.マネジメントの役割
(1)経済的成果を上げる。
①企業の目的は「顧客創造」である。
②企業の基本的機能。
ⅰ マーケティング
ⅱ イノベーション
ⅲ 生産性
(2)われわれの事業のうち何を捨てるか。
(3)働く人たちを生かす。
①仕事を仕事の論理で編成するのではなく,仕事を人に合わせることである。
②労働組合こそが,マネジメントの力に対して特異にして例のない政治的拮抗力である。
(4)社会的責任を果たす。
①社会的責任の意味が変わった。
②経営者をプロフェッショナルに昇格させよ。
5.マネジメントのスキル
コミュニケーションとは知覚である。
Ⅱ.サブテーマ「就活について」
1.就活時期の繰り下げをどう思うか。
2.面接試験の準備。
- 講師紹介
昭和10年北海道室蘭市生まれ。昭和36年本学商学部卒業後、株式会社日立製作所、八木アンテナ株式会社を経て平成15年naoIT研究所設立。経営コンサルタント。著書『IT導入は企業を危うくする』『迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件』『閉塞の時代の経営―ドラッカーの批判的な読み方、使い方』。千葉県習志野市在住。
読書と議論がもたらすクリエイティブ・シンキング。
急場しのぎの就活テクは身につかない
「ドラッカー経営理論の評価、及び理解と実践の仕方」と題した講義の事前資料として著書『閉塞の時代の経営―ドラッカーの批判的な読み方、使い方』をなんと聴講生300人分提供してくださった経営コンサルタントの増岡直二郎さん。「就職面接試験への臨み方」という気になる話題で口火を切り、「私が面接官だった経験から実際にダメだと思った応募者の例を挙げるので他山の石としてください」、学生たちの注意を一気に引きつけます。「よくある“部活が楽しくて充実した4年間でした”ではガックリ。そこから何を得たのかを聞きたかった」と話し、「卒論のテーマをわかりやすい言葉で簡潔に話してください」という質問に冗長な説明を返してきた例にも大きくダメ出し。「こちらが知りたかったのは“わかりやすい言葉で簡潔に話す”力」と種明かしをし、「要するに小手先や急場しのぎで就活テクニックを身につけようとしてもダメ。日頃から良識と問題意識をもって過ごせば、その積み重ねが自分磨きになり学科試験も面接も恐くなくなります」。日常生活にこそ就活の原点があると語り、学生の意識改革を促しました。
上に行くほど仕事が面白くなる
日立製作所時代、文系出身ながら入社4年目の早さで工場主任になり、後に工場長にまで昇格した増岡さんは「上に行くほど仕事が面白くなる」ビジネスマンの醍醐味を知る一人。学生にも「社会に出たらぜひ上位を目指して」と背中を押す一方で、「誤解しないでほしいのは必ずしも地位や企業名が人生を決めるわけではない」と言葉を続けます。
ドラッカーが「肉体労働者」は仕事に対して「成長の糧」を求めず「生計の資」を求めるだけ、と記述していることを「大変な誤謬」といい、「仕事に生き甲斐を求めるのは皆同じですし、働きがいのある企業が大企業とは限りません」と主張。就活前の学生に向けて広い視野をもって企業と対峙するよう呼びかけました。では、上位を目指しながらも危険な利益至上主義に陥らないためにはどうすればいいのか、そのヒントはやはりドラッカーの中に。増岡さんの話は「マネジメントを正しく理解すること」の重要性へと進んでいきました。
皆が恐れた工場長の名マネジメント
ドラッカーが定義するマネジメントの役割は全部で5つ。「経済的成果を上げる」「働く人たちを生かす」「社会的責任を果たす」「時間の要素が介在する」「昨日を捨てる」のうち、増岡さんは「経済的効果を上げる」ための手法「顧客創造」にまつわるエピソードとして同期入社の親友がアメリカ南部で扇風機を売るまでの苦労話を披露。「彼は顧客を見つけ出し成約して代金を回収するところまでやって初めて“売る”という行為が完結することを身をもって学んだと思います」。さらに「昨日を捨てる」行為の延長上にある「明日への投資」の例に、かつての上司だった工場長を引き合いに出しました。「管理が厳しすぎると周囲から恐れられていましたが、私が一番尊敬している人。工場の予算の一部を必ず新製品開発に注ぎ込み、明日への投資を実践しておられました」。ちなみにこの話は前述の著書『閉塞の時代の経営』にも詳しく書かれており、よく読めば件の工場長に手ひどく「気合いを入れられ」、その後一念発起してマネジメントを猛勉強した“某部長”が誰のことかも自ずと見えてくるはずです。最後に増岡さんはドラッカーのマネジメント論に「追加すべき6番目の役割」を提唱します。それは、「変革を成し遂げるために、人と企業文化に働きかけ、既定の組織を超越して人々を結集し、エンパワーメントする」こと。企業経営の現場を知る立場からドラッカー理論を実践するための持論を展開しました。
叱るときは相手の立場を思いやって
講義後「何でも聞いてよ」と気さくに話しかける増岡さんに、次々と手が挙がります。学生生活にマネジメントを用いるには?という質問には「サークルでもゼミでも2人以上集まれば、そこにはマネジメントが生きてきます。お互い成長していくためにはどういうコミュニケーションをとるべきか、考えてみて下さい」とアドバイス。周囲の力を引き出すには「みんなの中に入り込むこと。部下の面倒はとことん見ました」と語り、叱るときのコツは「心の底から怒っちゃダメ」と即答。「人間だから感情的になっちゃうのはわかるけれど、何より大事なのは相手の立場を思いやること。そうすると相手もわかってくれるんだよね」。学生時代はESSに所属し、仲間との読書会を楽しみにしていた増岡さん。「企業に入ってからも自分の意見を述べ、議論する場面はたくさんあります。私が読書を勧める理由はそこにあります。単なる常識論で話すのと本や新聞によるデータをバックグラウンドに話すのでは説得力が全然違う。本を読んで知識を蓄え、周囲の人と議論する。議論をすると新しい発想、クリエイティブ・シンキングがわいてきます。皆さん、本を読みましょう。私からのメッセージです」
[アフタートーク]
“自分にあった仕事探し”は机上の空論
マネージャーやリーダーの適性は先天的な資質か後天的な努力によるものか。「ドラッカーは前者だと言っていますが、それでは話が終わってしまう(笑)。私の感覚では努力で補えることがたくさんあると思います」。そう答えた増岡さん自身、幼い頃から人見知りの性格を変えるため、高校の弁論部に入った努力の人。ものづくりの日立製作所に入ってからも生産現場を志望し、組織の前線に立つことをためらいませんでした。けれども長い会社員人生の中には“辞めたい病”にかかったことも。ある日、辞める勢いで会社を無断欠勤し乗りこんだ電車に偶然上司が居合わせたこと、察した上司と2時間車中で話しこみ、ささくれだった気持ちがおさまったことを思い出し、「“何もかもフィットする自分にあった仕事”なんてものはこの世にないんです。与えられた仕事を一生懸命続けていくしかない。我慢と努力の繰り返しによって、仕事が自分に近づいてくるようになる」。説得力のある仕事論を後輩たちへの置き土産に残してくれました。事前質問が多かった「もしドラ」については「ドラッカーを知るきっかけにはいいですが、できればそこから先に進んでほしい」、ドラッカーの大先輩としても新しい入門者が増えるのを楽しみにしているようです。