2013.12.18
平成25年度第11回講義:「 社会で求められる人となるために~夢を描ければ何だってできる!」(2013/12/18)
講義概要
・講 師:三神 仁美 氏/ 平成7年卒
・題 目:「社会で求められる人となるために~夢を描ければ何だってできる!」
・現職等:三神仁美税理士事務所(税理士)
・内 容:
公認会計士を志しての小樽商科大学への入学でしたが、大学卒業後は広告代理店にて営業職に就き、社会の厳しさを思い知らされました。税理士としての独立開業の夢を描きつつ、仕事・勉強・出産・育児・家事に没頭した日々、そして開業が叶った今もなお夢中になれる税理士という職業について、実体験をもとに自分に与えられた使命を踏まえてお話しします。たとえ回り道をしたとしても人生において無駄なものは何一つなく、困難にぶちあたったとしてもそれを乗り越える力は誰もが持っているということ、人も企業も「生きる力」を持たなければならないということ、そして一般的な既成概念に捉われることなく自分次第で運命は切り開けるということを感じていただきたいと思います。
- 講師紹介
昭和47年兵庫県伊丹市生まれ。平成7年本学商学部商業学科卒業。広告代理店を経て、平成11年札幌市南区の税理士事務所に入所。翌年長男を出産。平成17年税理士試験官報合格、平成18年8月北海道税理士会に税理士登録、自宅で開業。2カ月後に次男を出産。現在は事務所を南区のマンション1階に移転。全国女性税理士連盟北海道ブロック長。札幌市在住。
目の前の困難を乗り越える力が、〈生きる力〉。
月次巡回監査や税務申告、セミナー講師も
「学生時代に受けていたエバーグリーン講座にまさか自分が出ることになるなんて」と、講義冒頭で感慨を口にした税理士の三神仁美さん。「社会で求められる人となるために 〜夢を描ければ何だってできる!」という力強い講義テーマと兵庫県生まれのほがらかな関西弁があいまって華やいだ雰囲気の中で授業が始まった。学生の主な関心は三神さんが税理士になるまでの道のりと事前質問でも多かった「どういう仕事なのか」、そして女子学生は特に気になる「家庭・子育てとの両立」について。まずは自己紹介を兼ね、窓に大きく「三神仁美税理士事務所」と書かれたオフィスの画像が映った。
「平成18年に自宅で独立開業しましたが、翌年には自宅と子どもの小学校のちょうど中間くらいの場所に事務所を移転しました。主な仕事内容は顧問契約を結んだ法人・個人のお客様を定期的に訪ねて帳簿を確認し、経営者様のご相談に乗る月次巡回監査、決算書に基づいた税務申告。単発で相続税や贈与税に関する案件も扱っています」。他にも消費税改正に関するセミナー講師や各地で開かれる会合出席で多忙な日々を送っている。
“おかあさん税理士”の私が見えた
「最初から税理士を目指していたわけではないんです」と打ち明ける三神さの実家は自営業。小さい頃から周囲に「大きくなったら公認会計士になってお父さんの建設会社を手伝ってや」と言われて育ち、高校の担任に「会計を学ぶなら小樽商大」と勧められて本学へ。初めての北海道暮らしや体育会・卓球部の活動、「化粧っけがないうえに食べ物が美味しすぎて一時は71kgの激太り」という豪快な学生ライフが楽しすぎて、気がつけば会計士の目標もどこへやら、卒業後は広告代理店の営業職に就いていた。ところが入社2年目に結婚し、今後の出産・育児と不規則な仕事の両立に不安を抱えていた三神さんの背中を押してくれた人がいた。「実家に帰ったとき、昔から親の会社にいる従業員さんが“仁美ちゃん、公認会計士になるんじゃなかったの? 会計士じゃなくても税理士っていう選択肢もあるんだよ”と教えてくれたんです」。調べてみると、公認会計士が上場企業を対象とするのに対し、税理士はまさに実家のような中小企業の税務会計を見る仕事。「しかも個人で開業できるということは、子どもたちが学校から帰ってきたら私は家で仕事をしていて…と、税理士になった自分の姿がものすごく楽しくイメージできた。これだ!と思いました」。目標が定まった。
ピンチをチャンスに変えた事務所移転
税理士として働くには必須科目・選択科目の合計5科目(三神さんの場合は財務諸表論・簿記論・法人税法・消費税法・相続税法)の試験に合格し、2年以上の実務経験が求められる。代理店を辞めた三神さんは1年間専門学校に通った後に札幌市南区の税理士事務所の門を叩いた。約6年の勤務時代は入所の翌年に生んだ長男の育児と試験勉強、仕事、家事のフル稼動。「最初はどうやって両立しようか悩みましたが、できるわけがない(笑)。そう思ったら少しラクになり、ご近所や保育園、冷凍食品、いろんな人・モノに頼り始めてどうにかやっていくようになりました」。勤め先が夫婦で営む小規模事務所だったため、月次巡回などの実務を経験できたこともやりがいにつながった。そうして平成18年8月、自宅開業した三神さんのもとに半年後残念な知らせが届く。「父の会社が経営破綻しまして、疲れきった両親を私のところで引き取ることになりました。親の会社を助けようと思って目指した税理士でしたが、こうなったら前に進むしかない。開業2カ月後に次男が生まれたので“面倒を見てくれる人が来たやん”、そう思って自分を奮い立たせました」。無理のない範囲で始めるはずの事業計画を一度白紙に戻し、思いきって自宅だった事務所を移転。職員も増やしたところ仕事が増え、企業融資など税理士の仕事に密接に関わる金融機関の関係者も気軽に立ち寄ってくれるようになった。持ち前の行動力でピンチをチャンスに変え、怒濤の開業期を乗り越えた。
〈素直な耳〉と〈感謝する心〉を大切に
税理士とは「独立した公正な立場において」(税理士法第1条、以下引用同じ)、すなわち税務署側にも納税者側にも偏らず、「納税義務の適正な実現を図る」ことを使命とする。国税庁発表の黒字申告割合によると、ここ数年、黒字申告は25%前後を推移している。「ということは10社のうち7社が赤字経営、お金がないんです。企業は従業員を抱えている以上、存続しなければなりません。じゃあ、赤字経営から抜け出すために自分の会社の決算書をきちんと読み解き、融資を頼みたいときも今後の事業計画を明確に語れる経営者になりましょうよ、そう気づいていただくのが私たちの使命。そのお手伝いをさせていただくために税務の専門家である私たちがいる、ということなんです」こうした熱い仕事トークの次に映し出されたスライドは、なんとAKBコスプレをした女性税理士たち。「センター、私です、スミマセン(笑)。これは全国女性税理士連盟とかのいろんな会への参加をお伝えしたくてご紹介させてもらいました。こんな形でも業界を盛り上げるお手伝いができればな、という気持ちでやっています」講義の終わりに「“求められる人”となるためには素直な聴く耳と感謝する心が大事」と語る三神さん。「皆さんが将来、先輩や上司がウザイと思っても、“これは自分の成長のために言ってくれているんだ”と思って感謝してみてください。社会に出るといろんな局面で壁や困難にぶつかります。それを乗り越える力が〈生きる力〉。皆さんにも、どんなことがあってもその困難を乗り越える力をつけてほしいと願っています」
世のため、人のためになる仕事は生き残る
中小企業が多い北海道で税理士の役割はますます重要になってきている。「経営者様が家族にも従業員にも明かせない悩みを言えるのが、税理士だと思うんです。会社の数字も家庭環境も何でも知っている〈ビジネスドクター〉のような役割です」。三神さんの開業とほぼ同時に新規開業・顧問契約を結び、「一緒に育ってきた」会社がある。小さな家族経営が今では上場準備の真っ最中。
「すごく嬉しいです」と笑顔を見せた。
開業から8年。さまざまな会社を見てきた三神さんが思う「いい経営者」像を聞くと、「従業員のことをちゃんと考えている社長さん」と即答した。「“企業は人”ですから働いている本人たちにきちんと還元している会社は、やはり社内に活気があります。よく思うのは、どんな業種でも世のため、人のためにならない職業は続かない。相手に利益が出てはじめて、自分もその恩恵をこうむることができる。私もその思いでやっていますし、そう思える人じゃないと社会に求められないと実感しています」