2014.11.16
平成26年度第6回講義:「アセットマネジメント(資産運用)ビジネスとその使命〜日本に長期投資は根付くのか〜」
講義概要
・講 師: 田中 康浩 氏(H17年卒/H19年OBS修了)
・現職等:DIAMアセットマネジメント(株)投信部門商品企画部 課長
・題 目:アセットマネジメント(資産運用)ビジネスとその使命〜日本に長期投資は根付くのか〜
・内 容:
当講義は、資産運用や資産運用業界に対する理解を深めると共に、受講者自身の今後の資産形成やキャリア形成における考察の一助となることを主眼に置いて行なう。 投資において、必ず儲かるといったフリーランチは世の中には存在しない(仮にそのような話があれば、私は誰にもその話をしないであろう)。資産形成においては、投資に対するリスク を認識した上で、自身のライフサイクル等を勘案し、いかに自己の効用を最大化させるかが重要である。
日本人は欧米諸国と比してリスク回避的な思考を持つと言われる。バブル崩壊、リーマンショック等により長期のデフレを経験し、投資での成功体験が殆ど無い若年世代ほどその傾向は強い。しかし、仮にアベノミクスが成功し、「失われた20年」からの脱却が実現した場合においても、リスク回避的な行動(自己の資産を全て預貯金で運用)は正であろうか。講義では、以下の3テーマを取り上げ、資産運用会社が社会にどのように貢献しているのか、その醍醐味と共に説明する。
○テーマ1:アセットマネジメント(資産運用)会社とは
○テーマ2:日本における年金システム
○テーマ3:失われた20年とアベノミクス
- 講師紹介
旭川市出身。平成17年小樽商大企業法学科を卒業後、小樽商科大学ビジネススクール(OBS)に入学。平成19年OBS修了後、興銀第一ライフ・アセットマネジメント株式会社に入社。平成20年に社名がDIAMアセットマネジメント株式会社へ。商品企画部にて勤務。
資産運用の業態について
最近は経済ニュース番組などを見ていると、ラップ口座やNISA(小額投資非課税制度)などのCMを見かけることがあるでしょう。日本でこの資産運用(アセットマネジメント)業態が拡大したのはここ15年くらいのことで、1998年に橋本龍太郎内閣が「金融ビッグバン」を打ち出し、98年の12月から銀行で投資信託が買えるようになりました。2005年からはゆうちょ銀行でも取り扱いを開始し、このあたりから急速に広がりを見せています。
投資の基本は「安く買って高く売る」ですが、これはどのビジネスでも共通の話です。資産運用ではさらに、「どのタイミングで売買するか」も大事になってきます。アベノミクス前や10月末の黒田日銀総裁の金融緩和前に、先読みして株を買った人はどれだけいるでしょうか。人間は欲深く、「上昇トレンドが続いているからまだ上がるはずだ」と考え、せっかく得た利益が吹き飛んだり、「下落トレンドが続いていたが、そろそろ反騰するはずだ」と考え、いつまで経っても損切りできずに、損失が膨らんだりもするわけです。こういった投資家の心理を研究する行動ファイナンスという分野もあるくらいです。
また、株価などの相場チェックも時間がないとできません。我々は、こういった資産運用のニーズに対し、個人や企業などの資産を運用して、プロとしてその価値を高めることが仕事です。我々のビジネスは、大きく分けると「投資信託ビジネス」と「投資顧問ビジネス」があります。
投資信託ビジネスの概要と投資信託のメリットとは
投資信託ビジネスでは、個人の投資家から銀行などの販売会社を通じて申込金をいただき、ファンドを作って金融市場で資産の運用を行い、分配などを通じで投資家に収益の還元を行ないます。私たちは個別株そのものを売っているわけではなく、株式や債券など様々な金融資産をパッケージにして「ファンド」として組成し、投資家に買ってもらっています。投資信託のメリットとしては、少ない金額で購入できることが挙げられます。たとえば、個人が「日経225」(日経平均株価とも呼ばれ、東京証券取引所市場第一部上場する銘柄のうち、市場を代表する225銘柄の株価指数)に連動する運用を行なうためには、現在の相場で8億円くらいの自己資金が必要です。我々がファンドを作って、皆さんのお金を集めて大きな資金にすることで、投資家は1万円から「日経225」の商品を買うことができるようになります。また、「株式や債券などに分散投資できること」、「専門家として個人で買えない商品を買うことができること」もメリットです。日経新聞などで、投資信託各社の基準価額が公表されるという高い透明性もあります。
投資顧問ビジネスの概要
「投資顧問ビジネス」では、上場企業などに、オーダーメイド型の商品を提供しています。これはファンドを介すのではなく、お客さんと個別相対で対話を行い、企業年金などの資金を運用する業務です。
資産運用会社の具体的な業務内容
「ファンドマネージャー」は、様々な経済/企業分析をしてどの銘柄に投資を行えばいいかを考えます。たとえば日経平均株価が5%上がった時に、これを上回る6%のリターンを上げるにはどうしたらいいかを考える仕事です。また、投資対象企業の経営者に直接インタビューしたり、製造ラインを見せてもらったりして調査を行うのが「アナリスト」の仕事です。そして、私がやっている「商品企画開発」は、お客様のニーズにあった投資商品を日々考えるのが仕事です。その他、法人のお客様や投信の販売会社である銀行等に営業を行う「マーケティング」の仕事、資産状況のレポートなどを作成する「アドミニストレーション」という業務等があります。
年金ついて考える~①ライフプランに当てはめてみる
公的年金は、20歳過ぎると保険料を払う義務が発生します。一方で、これから就職すれば、多くの人は各企業が独自に提供する企業年金に結果として加入することになります。企業年金は、様々な種類があり、人によっては入社して早々、約40年後の退職を見据えてどの投資信託を買うか(定期預金の選択肢もあります)考えなくてはいけません。優良企業だと思って勤めていても、突然企業年金を減額なんてこともあります。投資や金融への就職は興味が無いと思っていても、実は身近な存在になる可能性があるのです。(図を見せながら)これは、個人のライフプラン例をわかりやすく示したもので、収入面を見ると、退職金をもらって一時的に増えるものの、60歳の退職とともに収入はゼロとなって、年金給付の65歳までは無収入状態が続き、貯金などを取り崩しながら生活しなくてはならないことがわかります。支出面では、住宅資金や子供の教育資金などで、収入を上回る支出が必要な場面も出てきます。現在、日本人の平均寿命は男性80歳、女性86歳であり、「長生きすることがリスク」と言われています。公的年金は「100年安心の年金制度」を維持するためにも、年金の支給開始年齢が65歳から70歳に引き上げられる可能性もあります。
年金について考える~②年金システムの概要
次に、日本の年金システムの外観について説明します。(図を見ながら)自営業者の方は、家の1階部分しかない状態です。国民年金を40年間払い続けていたとしても、支給額は月6万4千円です。不足があると考えれば、これにプラスして国民年金基金に入るなどを自身で検討しなくてはいけません。一方で、殆どの人は会社に入り、2階部分にあたる厚生年金も加わります。現役時代にどれだけ払い込むかによって変わってきますが、平均月10万円くらいの支給になるので、公的年金の支給額合計は月16万円くらいになる計算です。3階部分の年金は、企業や民間団体などが私的に設けている制度であり、勤務先によっては制度がない場合もあります。大きく分けると「確定給付年金」と「確定拠出年金」があります。「退職後にもらえる給付額が予め確定している」のが確定給付年金。「例えば月1万円渡すので(企業の拠出額が予め確定)、どうやって運用するかは自分で考えなくてはいけない」のが、確定拠出年金です。日本の退職金の始まりは、江戸時代にまで遡ります。三井家「現在の三越」で始まった「のれん分け」が 始まりといわれています。お店で丁稚奉公人が奉公し、その後成長し、独立する際の手助けとして「のれん代」を現物支給したのです。その後、永年働いた奉公人への報奨金として現金で支払われるようになったそうです。
時代は確定給付年金から確定拠出年金へ
(図を見ながら)企業年金で、年間どのくらい利回りが上がってきたかの推移を見ると、90年台はプラスなものの、2000年以降はマイナスの利回りが多く見られ、リーマンショック時はマイナス17.8%です。昔は生命保険会社が5.5%の利回りを保証してくれたので、生命保険会社の商品である「一般勘定」を持っていれば高い利回りで運用できましたが、金利がどんどん下がるなか生保も5.5%を維持できず、今は1.25%くらいまで落ちています。企業年金はだいたい2~3%くらいの利回りを目標にするので、足りない部分は株や外貨建ての資産で埋めていかざるを得ない状況です。企業年金の退職給付債務(将来払わなければいけない年金や退職金の現在価値)を見ると、特に大手の製造業は抱えている従業員が多いので、将来の年金をたくさん運用しており、支払わないといけない負債もたくさん抱えている状況です。そのような企業ほど年金を維持することは難しく、大企業でも確定拠出年金の導入を決めるところが増えてきました。
失われた20年とアベノミクス
バブルが崩壊してから、株価はずっと下がり続けています。昔は国債を持っていれば6~7%の利回りが稼げましたが、今では10年債の金利で0.4~0.5%という状況です。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は10月末の時点で、国内株式と外国株式が12%くらいの割合だったのが、それぞれ25%まで資産構成割合を上げると発表しました。130兆円あるうちの50%である65兆円を株につぎ込みましょうということですが、これを皆さんはどう思いますか。民主党を中心に国会では批判も出ていますよね。私個人としては、確かに株価対策の側面もあるとは思いますが、バブル以降の「失われた20年」で閉塞感が続いたなか、「アベノミクス」による政策で初めて期待がもてる状況になったのではと考えおり、期待をしています。
学部生活とOBS時代を振り返って
大学に入って、最初の3か月ぐらいはテニス部でした。今考えると続けておけばよかったと思うこともありますが、やめて簿記の勉強をしていました。当時、簿記二級はすぐに取れましたが、簿記一級を取るのに1年かかりました。企業法学科でしたが、簿記をやっていたので籏本先生の会計ゼミに入りました。ここでは、いろんな視野で幅広く物事を考えるということを教わり、その影響もあって単位に関わらず経済学や経営学等いろんな講義を受けました。
商大のいいところは、大学がひとつのビジネスの縮図のようなところなので、興味さえ持てばいろんなことにチャレンジできることです。今の業界で身近な法律は「金融商品取引法」ですが、学生時代に民法・商法(現在の会社法)などを読んでいてよかったなと思います。社会に出てから初めて六法を読めと言われても引用だらけで慣れるのに一苦労すると思いますので、学生時代に慣れておいてよかったです。
大学3年の時には、自腹で東京ビッグサイトの就活イベントに行きました。東大生は一学年で何千人もいますので、そういったイベントに行けば必ず遭遇するわけです。正直、最初はかなりビクビクでした(笑)。小樽で学んでいると、ライバルも少ないのである意味のびのびと育つことができて、それがいい所でもあるのですが、そういう経験もしておくと怖気づかずに済むかなと思います。
学部卒業後、もう少し勉強をしたくてOBSに行きました。OBSでは、企業の社長さんや大企業でマーケティングをしていた方など、いろんな方に出会えて様々な価値観を教えてもらえたことがよかったです。
「北に一星あり 小なれどその輝光強し」を胸に
これは、本当に素晴らしい言葉だと思います。事前質問のなかで、「何を頑張ればいいでしょうか?」という内容もありましたが、なんでもいいので、これを頑張ったと言えるものを作ってください。商大生ならではのいいところがたくさんあるはずなので、自分の強みを見つけて自己アピールをしてほしいと思います。あとは、商大出身というだけで会ってくれる先輩達がたくさんいます。私もそういったネットワークを活用してこの業界に入りました。自分の行きたい業種に限らず、さまざまな業界のOB・OGに話を聞いて、自分の知らない世界を教えてもらうということも大事だと思います。一度就職してしまうと業界が固定されてしまうので、いろんな観点で話が聞けたりチャレンジできたりするのは今だけだと思います。ぜひいろいろと挑戦してください!
<質疑より抜粋>
Q.この業界に向いている、向いていないタイプなどがあれば教えてください。
A.向いている向いてないは、あまり考えなくていいと思います。とにかくこの業界に行きたいと思ったらとことん夢中でやるしかないと思います。自身の適正を向いている向いてないだけで判断せずに、視野を幅広く持って、色々な業界を探訪してみることをお勧めします。自分の気付かない所で出会いはあるものです。