2015.10.21
平成27年度第2回講義:「地域メディアとしてのローカル放送局の役割」
講義概要
○講師:佐藤 司 氏(平成25年 小樽商科大学ビジネススクール修了)
○現職等:札幌テレビ放送(株)総務局人事部長
○題目:「地域メディアとしてのローカル放送局の役割」
○内容:STV札幌テレビ放送の「過去」「現在」「将来」の放送事業活動を通じて、地域メディアとしてのローカル放送局の役割や存在意義を理解してほしい。テレビメディアの現在と近未来を見通すことでメディアリテラシーを高め、合わせて北海道のビジネスを支えるフロンティア人材像を考察してもらいたい。
講師紹介
1963年旭川市生まれ。1986年明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業。同年札幌テレビ放送(株)入社。営業局、東京支社、総務局を経て、現在総務局人事部長。同社勤務のかたわら2013年小樽商科大学大学院商学研究科アントレプレナーシップ専攻修了。
STV札幌テレビ放送とは
STV札幌テレビ放送は1959(昭和34)年4月に開局しました。特長としてまず上げられるのが、ラジオとテレビの兼営局であること。テレビでは、地域に密着した報道やドキュメンタリー、スポーツ中継などに力を入れてきました。また、美術展などの一般事業にも積極的に取り組んできました。私たちにとって、開局が先行したHBC北海道放送(1952年開局)はつねに追いつき追い越せの目標でした。万年2位の座から脱することができた原動力は、地域密着の大型ローカル番組「どさんこワイド」でした(1991年スタート)。ローカル局が、視聴率不毛地帯と呼ばれる夕方に2時間のワイド番組を制作することは前代未聞のことでした。ここではラジオで経験を積んだアナウンサーたちの実力がものを言いました。ラジオでは映像がありませんから声としゃべりだけで伝えたいことを表現しなければなりません。そのため、キー局のワイドショーのキャスターはたいてい存在感のあるタレントが務めますが、私たちは自前のスタッフで地元のワイドショーを作ることができたのです。
北海道民の命と財産を守る報道
放送事業者が担う大きな役割のひとつが、報道です。私たちは公共的使命を重く受けとめながら、「道民の生命と財産を守る」という大きなテーマのもとで、北海道をめぐる正確で迅速な報道を行っています。例えば東日本大震災の報道(2011年3月11日〜)。私たちは東北の状況よりも、津波などによる北海道各地の被害や影響を徹底的にカバーしようと、詳細なレポートを続けました。その結果、従来この種の報道ではNHKが観られますが、私たちは時間帯によってはNHKを超える数の皆さんにチャンネルを合わせていただけたのです。また昨年秋、道東に大雨特別警報が発せられ際にも、臨時サービスという新しい手法(電波の伝送帯域を低減して、そこで生まれた余裕帯域で緊急報道を行う)を駆使しながら、現地の状況を正確にお伝えしました。
大きな変化の時代の中で
ローカル放送局はいま、大きな変化の渦中にあります。まず、若者のテレビ離れがあります。必要なコンテンツはパソコンやスマートフォンで得るという人も多いでしょう。インターネットとモバイル端末がテレビのあり方を根底から変えているのです。また、人口減、少子高齢化といった社会潮流の中で、産業力や消費力に代表されるエリア(北海道)のパワーが落ちてきていることも否定できません。エリアパワーの低減は、北海道での広告媒体の価値が低下していることを意味します。コンテンツの伝送路と、それを受け取る端末がどんどん多様化しているいま、キー局はインターネットを軸にした新たなビジネスモデルの開発に取り組んでいます。
それはどのようなものか? ひとつは、「マルチデバイス化」です。そして、テレビがスマホのアプリのひとつになるような「スマートTV化」。また、放送日時の枠を越えていつでも見られる「タイムシフト化」。さらに、テレビ番組のまわりにSNSなどによっていろんな言説が集まる「ソーシャル化」があり、4K、8Kのように端末が進化していく「高画質化」もある。
今日においてテレビとは、受像器のことではなく放送コンテンツのことにほかなりません。放送コンテンツにふれる手段がテレビ受像器に限らないという流れを、「テレビファーストからモバイルファーストへ」ととらえることもできます。しかし今後の議論は、コンテンツ提供の手段ではなく、あくまでも顧客である視聴者へ向けた「視聴者ファースト」で展開するべきです。
ローカル放送局の存在意義とは
キー局はすでに、地上波、BS、CS、ネット配信と伝送路のマルチ化を進めています。では、地上波という1本の伝送路しか持たないローカル局はどうするか? ローカル局は、キー局からの番組配信を受けて広告を収益の柱とするビジネスモデルを、50年以上にわたって維持してきました。その仕組みが21世紀のビジネスにそぐわなくなってきているのは事実です。ローカル局も、自社コンテンツを軸にした番組販売やネット配信、放送外事業の展開に取り組んでいます。
ローカル局の存在意義はどこにあるでしょう。それは、地域にとって欠かせない存在となり、地域の幸せや豊かさのために貢献していくこと。これに尽きます。放送局は、日本で最も経験と実績のあるコンテンツプロバイダーです。手法は変わったとしても私たちの原点と針路はそこにあります。北海道の各地域の日々のニュースや、生命財産に関わる非常災害時の報道は、北海道の放送局でしか担えません。さらに、地方創生が叫ばれる近年、北海道のことを全国やアジア、そして世界に効果的に発信していくことは、北海道の放送局ならではの大切な仕事です。北海道のすみずみの営みを我が事として考え、そのために行動してくことは、キー局には絶対にできないからです。
いま求められる人材とは
ローカル放送局がいま大きな潮流変化と新たな可能性のただ中にあることがおわかりいただけたと思います。さてそんな中でこそ求められる人材とは。人事部長の立場から述べてみましょう。ひとことで言えば、「ビジネスリーダーとなるポテンシャルを有する人材」ということになります。しかし注意してほしいのは、ここでいうリーダーが、拳をふりあげてメンバーを引っ張っていくような人間とは限らないこと。
例えば対立する議論の中から新しい針路を作り出していくといった、創造力や協調能力も重要です。さらには、メンバーひとりひとりとじっくりと向き合いながら、個人の力を伸ばしていけるような人間も、すばらしいリーダーと言えます。もう少し具体的にいえば、「物事をいつも肯定的に見ること」。できない言い訳がまず口をつく人がいますが、それでは何もはじまりません。
そして「自ら提案して実行する勇気と行動力があること」。仕事現場に評論家はいりません。
3つめに、「縁の下の力持ちの姿勢」。プロジェクトを見えないところでしっかり支えることができる。そんな気持ちを自然に持てるかどうかも大切です。これらの行動指針を持った社員が揃った会社は、とても力のある会社だといえます。