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エバーグリーンからのお知らせ

2017.11.15

平成29年度第5回講義:「キャリアパスと事業の見方、考え方」

概要

 

○講師:萬 慎吾氏(平成15年商学部社会情報学科卒/株式会社みずほ銀行 釧路支店支店長)

 

○題目:「キャリアパスと事業の見方、考え方」

 

○内容:メガバンクに入行して性格のちがうふたつの支店を経験すると、さらに新たな分野に挑戦したくなった。選んだのがグループのベンチャーキャピタル企業。次にその経験をもとに法人営業の課長となり、2016年には最年少で支店長になった。社内の公募制度に思い切ってチャレンジした結果だった。皆さんの進路選択のヒントになることを期待して、仕事を通して自分で練ってきたキャリアパスの作り方や、銀行や投資会社が企業をどのように評価しているかについて話したい。

 

企業も自分も、挑戦するから成長できる。まず5年先を見据えてキャリアパスを考えてみる

 

中学・高校と私は道東の中標津でサッカーに夢中でした。商大に進んでも、部活はもちろんサッカー。フットサルも楽しみました。フットサルで優勝して全国大会に出場したことが良い思い出です。
2003年にみずほ銀行に入りました。メガバンクを志望したのは、仕事の幅が広くて、いろんな優秀な経営者に会えると思ったからです。去年(2016)の4月に釧路支店長になりました。メガバンクで史上最年少支店長ということで、注目を集めたようです。北海道では、ほぼ同い年である夕張の鈴木直道市長と並べられることもありました。今日は、私のこれまでのキャリアと、銀行や投資会社が企業をどのように見ているかという話をします。
入行すると新人研修があります。同期は300人くらい。みな有名大学出身で、話をするうちに、彼らの金融の知識や、それまで読んできた本の質と量に驚きました。私の商大生活はサッカーが中心でしたから、これはマズイ、と気を引き締めました。入行してから勉強をはじめたのです。学生時代の勉強ははやり「やらされている感」がありますが、社会人の勉強はおのずともっと主体的なものです。
 
最初に配属されたのは、東京の浅草の千束町支店。中小企業の法人営業を担当しました。がんばってそれなりに評価されて、3年目に大阪支店に異動になりました。今度は大企業ばかりの法人営業です。性格の違うふたつの店を経験して、私はさらに別の世界を知りたいと思いました。
それまではもっぱらお金そのものをめぐる評価の世界ですが、それ以外の世界、ビジネスモデルであったり経営者の人となりや、ビジネスを動かすビジョンといったことに触れたいと思ったのです。そこで、行内のジョブ公募制度に応募して、みずほキャピタルという、グループの投資会社に行くことにしました。まだ利益を出すには至っていないけれど優れた技術力や商品力があるとか、伸びしろの大きな若い経営者が率いるベンチャー企業を見定めて、将来の上場をサポートする仕事です。職種名でいうと、インベストメントマネジャー。取り組むのは、堅実な融資ではなく、戦略的な投資です。移ったとき27歳。行ってみるとまわりはみな一回り以上年上で、ベテランのスペシャリストばかり。最初の年は歯が立たず挫折を味わいました。そこで、自分の得意な領域を持とうと、顧客のターゲットをIT分野にしぼりました。社内でその分野に強い先輩がほとんどいなかったのです。また、毎日の仕事のほかに、中小企業診断士や証券アナリスト、IPOプロフェッショナル、ファイナンシャルプランナーの資格を取りました。学生時代の何倍も(笑)勉強したのです。
 
そうして5年ほどがんばって、ある程度実績をあげることができました。まだ続けたかったのですが、みずほ銀行銀座通支店の法人営業課長の辞令が出て、銀行にもどりました。いまのギンザシックスのとなりですから、銀座のど真ん中です。32歳。当時そんな若い課長はいませんでした。そのころテレビドラマの「半沢直樹」がちょうど話題を呼んでいました。銀座で3年弱キャリア積みましたが、次のキャリアを考えたとき、行内の支店長公募に思い切って挑戦してみようと思いました。そして昨年春に釧路支店の支店長になったのです。

 

 

自分がどんなキャリアを積んで、どんな人生を歩みたいのか。その道筋のことをキャリアパスと言います。皆さんもいまの時期からそのことをしっかり意識すると良いでしょう。まず問われるのは、「仕事観」。ビジネス社会を経験しながら過去から現在まで、自分は何のために仕事をしているのか—。基盤になるそのことを定めます。お金がほしい。自分を成長させたい。幸せな家族をもちたい。人とのつながりを作りたい。社会の役に立ちたい—。いろんな考えがあるでしょう。そして自分の強みはなにか。さらに、10年後20年後にどんな自分でいたいのか。将来のイメージが持てるなら、そのために今足りないもの、しなければならないことはなにか、と考えることができるでしょう。
 
これは会社の経営やアスリートの競技キャリアにも共通しますね。キャリアパスは、5年くらいがひとつの区切りになると思います。一日8時間働くとしておよそ1万時間。これは、中学・高校・大学と10年間同じ部活をつづけたのと同じくらいの時間。それだけの時間ひとつのことに取り組めば、たいていの人はその分野で一人前になれます。そして5年くらい同じ仕事をすると、仕事に慣れて楽にこなせるようになる。しかしそれは一方で、成長するスピードが遅くなることでもあります。
だから自分のキャリア形成を計画的に進めるには、5年くらいで変化を起こすことが重要なのです。10年先の社会や自分のことをイメージするのは難しいでしょう。でも5年ならなんとか考えられと思います。今回皆さんに事前課題を出しました。「ビジネス界において将来必要とされる人材像についてあなたの考えを述べてください」、というものでした。2015年12月に野村総合研究所とオックスフォード大学の共同研究で、「10年後、20年後に必要とされる人材像」というレポートが出ています。そこでは、日本の労働人口の約49%が就いている職業はやがて、技術的には人工知能などで代替可能だという推計結果が得られています(代替される、と断定しているわけではありません)。
AIにとって代わられるのは、窓口業務のように、ことさらに特別の知識やスキルが求められない職業、ルーティン化された職業。代替が難しい職業は、創造性や高度な知識・スキルが要求される職業。そして対人関係・属人性が求められる職業です。医者や教員、映画監督、タレント、経営コンサルタントといった分野に代表されるでしょう。キーワードをあげると、人間力、行動力、知的能力。私はこの三つの要素を使って「ビジネスIQ」という三角形の図を作ってみました。「人間力」「行動力」「知的能力」を角にして、この三角形の面積が大きいほどビジネスIQが高い人材です。人間力とは、人から好かれる力、共感できる力。行動力とは、勇気、体力、好奇心。知的能力とは、知識、情報を収集して活用する力、発想力、などといえます。「○○型人材」という言い方がされます。横に広い知識をもつゼネラリストだったら、一型。専門に深く強いスペシャリストならば縦のI型。両者がハイブリッドされたのがT型(広い知識とひとつの深い専門性を持つ)、さらには、自分の専門とほかの人の専門を横棒でつなぐH型という人材もいます。
 
「クロスSWOT」、そして「バリュープロポジション」というマーケティング用語をご存知ですか? これを自分のキャリア形成に応用することができます。クロスSWOTは、商品の強みと弱み、そして機会と脅威(英語の頭文字をとってSWOT)を内部環境(自分自身)と外部環境(社会情勢)からマトリックス化します。そこから、「強みを伸ばすこと。機会に着目すること。強み弱みを変化させていくこと」といった戦略が立てられます。自社(自分)が顧客(会社)に提供できる価値群は何か。それを整理するバリュープロポジションでは、三つの円を描きます。それは、「競合他社(同僚)が提供できる価値」「自社(自分)が提供できる価値」「顧客(会社)が望んでいる価値」。自分が提供できる価値と職場が望んでいる価値が重なる部分が、自分のバリュープロポジションになります。みずほ銀行には、「みずほvalue」という、全社員が共有する価値観・行動軸があります。「お客さま第一」「変革への挑戦」「チームワーク」「スピード」「情熱」の5つからなります。これをもとに私が心がけていることがあります。特別なことではありません。それは、約束を守る・時間を守る。愚痴は言わない。笑顔でいる・仲間に感謝する。チャレンジする。変化を楽しむ。他人の力を借りる・他人を助ける。勉強する。いろいろな人(仕事関係以外)と会い話をする。オフを楽しむ、といったことになります。

 

 

変化できるものだけが生き残れる

 

みなさんにもうひとつ事前課題を出しましたね。「あなたが思う良い会社を1社あげて、その理由と良い会社の要件を述べてください」というもの。「良い会社」の定義は何でしょう。人それぞれの立場(社員や取引先、あるいは融資・投資企業など)で違うでしょうし、人それぞれの価値観(歴史・安定性重視、規模重視、将来性重視など)でも違うでしょう。銀行員とベンチャーキャピタリスト、それぞれが事業を評価するときの考え方も少しちがいます。融資を行う銀行員はキャッシュフローや収益力、内部留保・自己資本、事業計画・経営計画といった項目を重視します。対して投資を行うベンチャーキャピタリストは、ビジネスモデルや商品力、そして収益力や経営者・経営陣の魅力などを重視します。
 
私はこれまで千人以上の経営者と会ってきましたが、低い評価となるタイプははっきりしています(笑)。それは、ヒトの意見を聞かない。新しいことを学ばない。少しの成功で過信する。プライドが高すぎる。変化しようとしない。決断が遅い。軸がない。業績不振を外部要因のせいにする、といったタイプです。そして競合はいない、と言う経営者にも要注意です。狭い意味の競合はいなくても、例えばいまユニクロの競合はメルカリと言えるかもしれません。経営にはそういう広い視座が必要です。
さらに3つ目の事前課題について。「(株)スタートトゥデイと(株)三越伊勢丹ホールディングスについて、どちらに投資をしたいか、就職したいかを述べてください」というものでした。「三越伊勢丹ホールディングス」の創業は1673年(三越)。売上は1兆2000億円以上。年間入店客数は2億人以上で、従業員は約2万5千人。一方で、日本最大級のファッションショッピングサイトZOZOTOWNを運営する「スタートトゥディ」の創業は1998年。売上は764億円。従業員数は800人ほど。会社の規模も歴史にも大きな差があります。しかし、株式の時価総額(株価×発行済み株式数)ではどうでしょう。「三越伊勢丹〜」が約5000億円なのに対して、「スタートトゥディ」は約1兆円。そうなるとどっちに投資するのが良いと思いますか?先ほどもふれましたが、銀行が重視するのは、収益性や安全性。これに対して投資家が重視するのは、成長性や経営の効率性です。1992年から2016年へ。
内外の有名企業の株式評価額の変化の表を見てもらいます。1992年の日本では、NTTやトヨタ自動車、そしてメガバンクに再編される前の大手都銀などが上位にいます。これが2016年になっても、それほど大きな変化は見られません。では世界で見るとどうでしょう。1992年の世界ランク25位までには、日本企業9社がランクインしています。でもそれが2016年には、なんとゼロ。2016年の世界ランクでは、アップルやグーグル、アマゾン、フェイスブックなどの新興勢力が上位に並び、その下にはテンセントやアリババをはじめとした中国企業が4社入っています。この変化には多くのことを考えさせられます。
 
こうした大きな変化に、企業はどのように対応していけば良いでしょうか。一言で言えばそれは、変化を見越して自ら積極的に変わっていかなければならない、ということになります。例えば90年代も現在も日本のトップ企業であり続けている任天堂はもともと花札やトランプのメーカーでしたし、Softbankはソフトウェア販売からはじまり通信事業者となり、いまでは投資会社のような性格をもっています。トヨタも、大正末の創業時は織機のメーカーですし、新しいところでは、世界最大のSNS企業フェイスブックのはじまりは、女子学生の身分証明写真を採点するサイトでした。
これからの銀行も、お客さまから預かったお金を融資して金利を稼ぐ従来のビジネスモデルに留まるばかりでは生き残れません。顧客の事業や資産管理のコンサルティングが軸になっていきます。銀行の支店長の仕事も、かつては複数の新聞を隅から隅まで読んで、稟議に上がってきた書類に判を押すというようなイメージだったでしょうが、私は積極的に顧客を回って、法人・個人の経営や資産管理のコンサルティングをしています。「ゆでガエル」と「ファーストペンギン」の話があります。カエルがいる水槽の水温が、ある日突然上がったのならカエルはびっくりしてすぐ逃げ出すでしょう。でもほんの少しずつだとその変化に気がつかず、知らないうちにゆであがってしまう、というもの。実際にそんなことは起こるはずのないたとえ話ですが(笑)、東芝やエアバッグのタカタの例に見るように、市場の変化が緩慢だと企業は変わるべきタイミングを失ってしまうことがあります。
両社に限らず、例えば人口減やデフレといった長くゆっくりした社会の変化が、そのことを正しく自覚していない企業を弱らせていくわけです。これに対して、群の中で真っ先に状況を打開しようとするファーストペンギンのたとえ話は、そこにどんなリスクがあるか完全にはわからなくても、思い切って飛び込んで状況を変えてみることの価値を考えさせます。とくに自分のキャリアパスの上では、ときにはこういう挑戦も必要でしょう。ペンギンだともしかしたらシャチに食べられてしまいますが、ビジネスやキャリアの上での挑戦のリスクは、失敗しても別にいのちに関わるものではないのですから。
 
私が支店長の公募に応募したとき、実は迷いもありました。でもこんな言葉に背中を押されたのです。「チャレンジして失敗を恐れるよりも、何もしないことを恐れよ」(本田宗一郎)「うまくいかなくても、やったことは全部、将来の自分のプラスになります」(孫正義)「成功は必ずしも約束されていないが、成長は必ず約束されている」(アルベルト・ザッケローニ)企業も人も、変わるべきときには変わらなければならないのです。進化論のダーウィンはこう言っています。「最も強いものが生き残るのではなく、最も賢いものが生き延びるでもない。唯一生き残るのは、変化できるものである。」 (チャールズ・ダーウィン)最後に、かつて迷っていた自分に言い聞かせた言葉を皆さんにも贈ります。「今の生き方を変えないとしたら、今の自分と今から5年後の自分の姿に、あなたは満足できるでしょうか」

 

 

<萬慎吾さんへの質問>担当教員より

 

Q 先日(2017.10月)、みずほフィナンシャルグループがこれから10年間で約1万9千人分の万9千人分の業務量を減らす方針であることが大きく報道されました。銀行の近未来、そしてご自身のこれからのキャリアをどのようにお考えですか?

 

A 例えばIBMはいま、コンピュータ企業というよりもITのコンサルティング企業ですね。銀行業務の軸もコンサルタントに移っていきます。世の中のキャッシュレス化がどんどん進みますから、決済もキャッシュレスになり、するととうぜん機械化できる分野も増えて、人員もおのずと減らされていくでしょう。これは、いまいる社員をカットしていくこととは違います。これからはすべての業種でテクノロジーが重要な鍵をにぎります。個人的には、ベンチャーキャピタルにいた時代に経験したことを糧に、フィンテック(ファイナンステクノロジー)の分野の経験やノウハウを深めていきたいと思います。また、小さくても社会に大きな価値を提供できるような会社を財務の面から支援していくことにも興味を持っています。

 

Q 三越伊勢丹ホールディングスとスタートトゥデイの比較がありましたが、もしも萬さんがいま転職するとしたら、どちらを選びますか?

 

A おもしろい質問ですね(笑)。私が新卒の学生ならスタートトゥデイ社の方に興味をもつと思います。でも現在の私の年齢やキャリアであれば、ITやファッションの第一線で通用する専門的なノウハウが少し足りないと思います。だから三越伊勢丹ホールディングスの方が、これまでの経験を活かした仕事ができると思います。そして新たな経験を何年か積んで、そこからまた次にやりたいことを見つけると思います。

 

<萬慎吾さんへの質問>学生より

 

Q まだやりたいことが見つからず、5年先の自分がイメージできません。どうすれば良いでしょうか?

 

A 学生時代の私も、やりたいことがはっきり見えていたわけではありません。絶対この業界のこの会社で働きたい、というものはありませんでした。とりあえず少しでも興味を引くものがあれば、それをやってみる。するとそこから何かが見え始める。それしかないと思います。やりたいことが見えない、ということにあまり真剣に悩むべきではありません。人生にどうせ答えなんてないのですから。

 

Q 学生時代にもっとやっておけば良かったと思うことはなんですか?

 

A いろんな分野の読書ですね。私がすごい勢いで本を読むようになったのは、自分の世界を広げることが急務となったベンチャーキャピタルにいた時代からです。人間は、きっかけさえあれば本を読むようになります。一方で、最初にも言いましたが私の商大生活の中心は、一にも二にもサッカーでした。それはゼミや読書よりずっと優先順位が高かったのです。サッカーに熱中するあまりほかのことをやる時間があまりなかったのですが、でもそのことを後悔はしていません。今でも釧路でフットサルのチームに入っていますが、サッカーをしないで読書すれば良かったかというと、それは違います(笑)。

 

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