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エバーグリーンからのお知らせ

2017.11.29

平成29年度第7回講義:「広告マーケティングは面白い!」

概要

 

○講師:山岸紀寛氏(昭和57年商学部管理科学科卒/株式会社電通執行役員 兼 電通イージスネットワーク中国CEO)

 

○ 題目:「広告マーケティングは面白い!」

 

○内容:ボート部に熱中した商大時代。広告マーケティングの世界に飛び込み、20代で広告の現場を知った。30代でシンクタンク、40代で経営企画の世界に踏み込み、50代でグローバルビジネスの最前線へ。デジタル化によって急速に変容している社会の基盤と、一方で変わることのない広告マーケティングの原点にふれながら、誰もが持っている可能性の価値について講義したい。

 

デジタルエコノミーの最前線、中国社会のいま。人の心を動かすことを仕事にする

 

今日は、僕がいま中国で取り組んでいることを中心に、広告マーケティングのことを話します。
広告マーケティングとはなんでしょう? ひとことで言うと、「モノやサービスといった商品を人々に購入してもらうための行動全般」のこと。広告とは、商品を多くの人に知ってもらうための方法のひとつです。僕は、広告マーケティングという仕事の本質は、人の心を動かすことにあると思っています。広告にはいろんな種類があります。テレビCMや新聞・雑誌広告、そしてポスターや屋外看板、そしてウェブサイトやメールやフェイスブックなどインターネットを媒体にした広告、さらには映画とタイアップした広告(ハリウッド映画に自動車メーカーの車を登場させたり)や、スポーツイベント自体が巨大な広告の場所と機会にもなります。
 
広告の世界にはどんな職種があるでしょうか。例えばCMプランナー、グラフィックデザイナーやコピーライターといったクリエイター、Webデザイナーやインターネットの技術者、イベントを企画・運営する人たち、映像や音響の専門家たち(例えばパフュームのパフォーマンスを支えているようなスペシャリストですね)、市場分析をする人たち、あるいはアニメを企画・制作する専門家や、オリンピックなどスポーツイベントを支えるスタッフなど、実にさまざまな職種があります。
 
商大時代、僕は部活に熱中していました。ボート部です。正直言って、ゼミや講義よりも部活が中心でした。ではなぜ広告マーケティングの世界に進んだのか。実は深い考えはありませんでした。特段、興味があって勉強していた、というわけでもありません。就活の中でめぐりあって、面白いかもしれない! と思ったのがはじまりです。
(株)電通に入って最初の勤務地は札幌。社内にはずいぶん自由な人が多くて驚きました。個性的で優秀な先輩ばかりの中でどう生き残っていけるか、考え込んでしまいました。はじめはクリエイター部門で働きたかったのですが、ほどなくして自分には無理だな、とわかりました。
札幌に6、7年ほどいて、東京に異動になりました。20代後半で、電通総研という電通グループのシンクタンクに出向しました。ここでは、いま日本と世界で何が問題になっているのか、これから世界はどんな進路を歩むのかといった大きな問題について毎年レポートをまとめる仕事をしました。『日本の論点』といった本がありますが、あのようなレポートです。経済学や社会学から自然科学まで、内外の一流の研究者に直接会ってヒアリングをするという貴重な機会を与えられ、楽しみました。
例えば、ポール・クルーグマン氏、レスター・サロー氏、日本でいえば山口昌男さん、浅田彰さんといった人々です。当時はニューアカデミズムという言葉がメディアを賑わせ、学際的な知が活発に生まれる潮流もありました。この仕事を通して、いわゆるリベラルアーツ(人文科学・社会科学・自然科学の基礎となる人間としての基礎教養)の重要さを痛感しました。学生の時にもっと勉強しておけば良かったと思いましたが、当時は分からなかったのでしょうね。
 
電通総研ではほかに、新しい事業の立案や立ち上げについてのコンサルティングの仕事もしました。40代に入って、経営企画部門に移りました。M&Aの担当です。この時代も自分の至らなさを痛感しました。理由は、ファイナンスの知識不足です。もちろん大学時代に一応は学びましたが、足りませんでした。ここでも、もっとちゃんと勉強しておけば良かったな、と思ったのです。日本の証券会社や投資ファンドの人々に教えを乞いながら、毎日必死でした。グローバルに仕事をしている人たちの仕事ぶりに感銘を受けました。
例えば夕方に打ち合わせをすると、次の日の午前中にはぶ厚い資料と詳細に整理されたレポートが上がってきます。エッ、いつやったの? 日本での打ち合わせ内容にもとづいてアメリカの専門部門が、日本の夜のあいだ(向こうの勤務時間)に取り組んで送り返し、翌朝日本側がそれを仕上げて持ってくるのです。電通は2013年、英国に本拠を置く大手広告業イージス・グループを4000億円ほどで買収しました。これで海外の売上比率が4割に跳ね上がったのですが、僕はその担当者として仕事をしました。
M&Aは、単なる数字の交渉ではありません。相手の経営者がいっしょに事業をしたいと心から思ってくれなければ成功しません。ですから、ファイナンスは議論の基盤になりますが、大切なのは、信頼やビジョンを誠実に共有できる人間同士のコミュニケーションにあるのです。
 
ここまで話してきたことと、これから話すことを含めて、今日僕が皆さんにいちばん伝えたいのは、こういうことです。まず、「自分のキャリアは地層だ」ということ。経験を積みながら、ひとつひとつ地層が積み重ねられます。ぶ厚くなっていくその地層をどのように活かしていくかが問われます。そして、「人間には自分が考える以上にチャンスや展開がある」こと。商大時代の僕は、いまの僕を決して想像できませんでした。でも目の前のひとつひとつのことに取り組むうちに、想像でもできなかった展開が実現していった。皆さんも就職や転職において、そのことを肝に銘じておいてください。
 
現在の(株)電通について簡単に説明します。145 の国と地域で、グループ全体で5万5千人ほどの社員がいます。日本では1万5千人ほど。海外に4万人以上いるわけですが、そのほとんどは、幹部を含めてそれぞれの国の人です。僕のように海外の電通グループで働いている日本人は、全体で150人ほどしかいません。営業エリアは大別して3つ。北南米、ヨーロッパ・中東・アフリカ、アジア・パシフィックです。多国籍で多様な人たちからなるグループなので、国外では社内の共通語はおのずと英語になります。
僕はいま上海で、電通イージスネットワーク中国(日本以外のグローバル本社はロンドン)のCEOを務めています。中国では、23の会社に4千人ほどの社員が働いています。国籍は10以上で、社員の多くは中国の人々です。また、およそ6、7割は女性です。中国では、仕事現場でジェンダーの差はほとんどありません。社員の内訳は、クリエイティブやソーシャルの専門家(SNS関連)、アクティベーション(イベント関連)、ビッグデータ分析やコンテント関連などです。文系理系を問わず実に多様な社員がいますから、彼らをどう活かしていくかを考えるのが僕の重要な仕事のひとつで、近年は「ダイバーシティ(多様性)からインクルージョン(包摂)へ」ということを強く意識するようにしています。
さらに、M&Aを進めて自社のポートフォリオに加えていくといった、投資を行うことも仕事です。国内外をまわることも多いので、月の半分から三分の一は出張です。先の話にもどりますが、商大で学んでいたころ、いまのこんな自分は決して想像することができませんでした。自分の未来は自分の想像をはるかに超えるのです。

 

 

中国にある日本の近未来

 

中国での事業の舵取りを担うリーダーシップチームは、私以下10~20名。うち日本人は少数です。いま取り組んでいる一番大切なことは、急速に進化しているデジタルエコノミーに追いついていくためのビジネスサポートをすること、と言えます。中国におけるデジタルエコノミーの進化のスピードは、日本の比ではありません(主に沿岸部の都市圏)。
例えば上海などではシェア自転車があっという間に普及しました。QRコードをアプリで読めば課金されて、気軽に乗り捨てられる。ラストワンマイルの移動に大人気です。不正があるのじゃないかとか懸念はありましたが、とにかくまずやってみて、問題があるところは直していけば良い。そうした思い切った施策が日本ではまだ実現していませんね。
 
ゴールドマン・サックス社が作った2050年の先進各国のGDP予想グラフを見てもらいます(投影する)。2050年めがけて、中国、アメリカ、インドが抜群の成長スピードで圧倒的な数字を描いています(中国のGDPはすでに現時点で日本の倍以上)。中国ではGoogleが使えないなど、ビジネスの成り立ちは大きく異なりますが、ともあれこの3国をマーケットに捉えなければグローバルなビジネスは絶対に不可能です。もちろん、自分は北海道にこだわって仕事したい、日本の中でがんばりたいという人や企業もあるでしょう。そのことを否定することは誰にもできませんが、ひと昔前のルーティン仕事はやがて機械に取って替わられます。そのスピードは、きっと皆さんが想像する以上です。小樽の観光を見ても世界からいろんな人が来てくれている。現在では、公務員の方でもおのずとグローバルな視座は欠かせないのです。
アメリカのフォーチュン誌がまとめる「世界のトップ企業500」。では、2000年から現在までに半分以上が入れ替わりました。世界のトップ企業300のうち10年以内に40%がランク外になるとも言われています。こうした大変化の時代に、自分はどんな人生を歩んでいくか。皆さんは深く考えなければなりません。中国では年に一回、300〜400人の幹部が集まり会議を開きます。そこでは、自分たちはこれからこう進んで行こうというビジョンのイメージを共有するためのカルチャービデオを見ます。
 
今年(2017年)のテーマは、「Transforming the FUTURE」。その一部を見ていただきましょう(投影する)。デジタルエコノミーと今日僕は何度も言っていますが、例えば中国では、ニュースから公私のコミュニケーション、検索などはもとより、ショッピングからさまざまな決済やエンターテイメントまで、スマホのアプリなしではもう暮らせません。僕はキャッシュをほとんどまったく使わなくなりました。ホテルでもタクシーでも出前や小さな個人商店での買い物でも、朝から晩まで、お金を使う手段はみなアプリです。履歴がしっかりとれますから店も客も実に効率的で不正の余地もありません。日本での「Google」「楽天」「Line」が、中国では「百度(バイドゥ)」「Alibaba」「Tencent」です(BAT・ビーエーティと呼ばれます)。メディア・コミュニケーション、ショッピング、決済などの分野で、各社は自分のところで完結させるアプリとプラットフォームのシェア争いで激しく競っています。
 
中国ではケンタッキーフライドチキン(KFC)が大変人気です。KFCはいま中国5千店全店のデジタル化に突き進んでいて、私たちはそのお手伝いをしています。例えば中国のオンラインゲーム会社が作って大ヒットしている「陰陽師」のゲームアプリを使って、キャンペーンを展開しました。ゲームをフックに専用アプリをダウンロードしてもらって、KFC来店前に予約を入れてもらいます。お客さんの希望時間に合わせて店で作っておいて、来店者はテイクアウトに来るだけ。これが進むとオペレーションの効率がぐんと良くなって、ロジスティクス(物流システム)が変わります。モノと人の動かし方がどんどん進化していくのです。AIによる顔認証システムも急速に取り入れられています。スマホアプリも要らずに、その人の顔の認証と電話番号などの入力だけで支払いができています。販売現場でキャッシュのやり取りがないことは、とても効率的です。閉店してレジをしめて端数が合わないで残業する、なんてことは起こりません。働き方(働かせ方)が劇的に変わるのです。
こうして社会全体がデジタル技術によってどんどんドラスティックに変容していく。「Transforming the FUTURE」という私たちの事業テーマには、「デジタルエコノミーにおいてクライアントの変革のベストパートナーになる」というミッションが込められています。
 
ショッピングの話題をもうひとつ。ご存知だと思いますが、中国では11月11日(ダブルイレブン)は「独身の日」。いろんなセールが企画されて、独身の人はショッピングしましょう!と盛り上がります。アリババがおこなっているEコマースサイトのこの日一日の売り上げは、2.9兆円。日本全国のセブンイレブンが一年で売り上げる数字がたった一日で実現してしまいます。開始して1分の売り上げがなんと100億円。9割がモバイルからの注文です。日本でも独身の日は浸透していくかもしれませんね。
 
デジタルエコノミーはいま、私たちの社会の底でとてつもなく大きな変化の潮流を起こしています。それは、今日よりも明日が少し便利になるといった表面的な変化ではありません。皆さんは、現代のテクノロジーとその変化の本質を深くしっかりと見すえなければなりません。さて、ではこうした大きな変化の潮流の中で、これからの広告マーケティングが担うことはなんでしょう。僕は、やはり広告マーケティングの原点である「人の心を動かす」ことだと思います。どんなにすごい技術があっても、問題はそれをどのように使うか、にあります。「人の興味を引いて心を動かすこと」。その仕事こそがいつの時代も広告マーケティングの仕事です。
私たちは、「Content」「Technology」「Data」、この3つの領域のイノベーションを強く志向しています。Contentひとつをとっても、エンターテイメントやスポーツなどとても幅広い分野があり、テクノロジーによってそこにマーケティングの機会を新たに見いだしていくことをめざしています。単に面白いCMを作ってメディアに流すだけでは、もはや広告マーケティングとは言えません。電通は世界のスポーツとの関わりを30年以上にわたって深めてきました。放送や選手のいろいろな権益をめぐることから大会運営や競技団体の支援、競技のPRなど、スポーツにおける広告マーケティングもまた、とても幅広い分野に及びます。欧州のスポーツの多くは、もともと貴族の文化に根ざすものです。スポーツを通して、いわばヨーロッパ文明の本質にふれることで得られた国際社会とのつながりやコミュニケーションのノウハウは、私たちの大きな財産になりました。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでも私たちは存分に力を発揮できるような取り組みを進めています。
 
最後に繰り返します。皆さんがいま想像するよりも、皆さんの可能性は大きいのです。そして企業や人にとって、大きな変化のさなかにある現在の世界には、これまでとは次元のちがうたくさんの機会が存在しています。そこをしっかり見すえて、自分にとってどれが最適なチャンスであるのかを選択するのは、ほかの誰でもない、皆さん自身です。

 

 

<山岸紀寛さんへの質問>担当教員より

 

Q CEOとして忙しい日常をおおくりだと思いますが、仕事内容をもう少し具体的に教えていただけますか?

 

A ジョブディスクリプションという、やるべき仕事の内容と一年ごとに達成すべき目標が上司から与えられます。売り上げを何%上げよう、M&Aを何件やろう、○○広告賞を取ろう、といったものです。これに基づいて業務を進めていきます。お客様に会うこともありますし、自社の幹部社員の採用や削減も重要な仕事です。日本では離職率は5、6%程度だと思いますが、中国では30~40%ぐらいです。海外ではだいたいこの水準で、日本だけが特別ですね。自分の次のキャリアを求めて動く人が多いのです。日本では「上司は選べない」などと言いますが、中国やほかの国では上司も選べるのです(笑)。

 

Q 広告マーケティングの世界で活躍できる人材とは?

 

A かつては、というか今でも体育会系の人が良いのだろうと考えられているかもしれません。しかし、この多様性の時代に、単一の物差しはありえません。ある種の鈍感力やタフネスは必要な要素かもしれませんが、繊細さも必要です。自分が好きなことを常に探したり、いろいろなことを面白い!と思える感性をずっと維持できる人が良いと思います。私も仕事以前に自分自身として、面白そうだから行ってみたい!この人に会ってみたい! 仕事の対象にそんな気持ちをいつも持っています。

 

<山岸紀寛さんへの質問>学生より

 

Q デジタルエコノミーが消費やビジネスを大きく変えていく中で、北海道の企業はこれからどうすれば良いとお考えですか?

 

A 北海道の多くの企業は、かつては北海道の市場から東京で自社ブランドを売りたい、どのように売るべきか、と試行錯誤していたと思います。いまそんな東京のマーケットが持っていた可能性を、例えば中国市場が持っています。国内市場だけではなく海外市場まで考える時代が来ています。デジタルエコノミーがそれをより容易にしていきます。そうした発想に立つことが重要だと思います。

 

Q 英語はどのように学びましたか?

 

A 使えないと仕事にならないのだから、やるしかない。それだけです(笑)。商大時代からこつこつ勉強していた、ということはありませんでした。本当に伝えたいこと、伝えなければならないことがあれば、英語はなんとかするしかありません。そして、少なくても商大生ならなんとかなります。

 

Q 大きな変化の時代に、広告代理店のビジネスモデルも変わっていくのでしょうか?

 

A 「Content」「Technology」「Data」。この3つの領域のイノベーションのことにふれました。3つの領域を掛け合わせてビジネスをしている企業や、そこから事業を起こそうと思う人はいっそう増えていきます。そこにおいて広告マーケティング会社が担う役割は大きいと思います。将来的には、いまは想像もできない世界が大きなマーケットになっているのではないでしょうか。テクノロジーで世界はどうなるか、ではなく、テクノロジーで世界をどうしたいか、と自分を主語にして考えることが重要だと思います。

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