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教員インタビュー 多木誠一郎教授

  • <担当授業>
  • 商法II(商法総則、商行為法)

多木 誠一郎 教授
TAKI Seiichiro


協同組合は私たちに身近な組織です。

 私の研究分野の中心は協同組合についての法律関係です。一言で言うと協同組合法といってもよいかと思います。

 協同組合といっても皆さんはピンとこないかもしれませんが、意外と私たちの身近なところで活躍しています。例えば農協(JA)、生協、漁協(JF)というと聞いたことがある、知っている、あるいは利用しているという方も少なくないのではないでしょうか。これらはそれぞれ農業協同組合、消費生活協同組合、漁協協同組合という協同組合です。

 協同組合の統治・運営(ガバナンス)の仕組みは、代表的な企業形態である株式会社とどのような共通点・相違点があるのか。それはどのような趣旨によるものなのか。定められている仕組みを逸脱した場合にはどういうことになるのか。海外の協同組合と比べるとどのような特徴があるのか。そのような特徴は協同組合の組合員=利用者にとって歓迎できるものなのか。こんなことを日々考えています。

大学卒業後の就職先での実務を通じて興味を持ちました。

 私は大学法学部を卒業して農協組織で働いていました。農協を巡る色々な法律問題が全国から持ち込まれて、それに回答するようなこともする部署に配属されました。しかし回答しようにも参考にする文献がほとんどありませんでした。それもそのはずで、わが国ではこれまでほとんど研究されていない分野だからです。明治以降の法学の歴史の中で、協同組合法を専門的に研究してきたのは、私の知るところでは1名だけです。それも1960年代前半までです。このように実務を通じて協同組合法の研究の必要性を痛感して、私は研究の道に入りました。

 研究の成果は主として図書や論文といった活字によって表します。多くの方々に目を通していただくために執筆するのですが、なかなかそう上手くいきません。そのような中でも「この前出たあの論文読みましたよ」といって、よい点だけではなく改善すべき点を対面やメールで率直に話をしてもらえることが嬉しいことです。あるいは他の方々がそれぞれの論文でこのような点を活字にして言及してくれるとなお嬉しいわけです。学問の進歩に1mmでも貢献しているという実感を持てるとともに、これらの点を踏まえて次はもう一段アップグレードするぞという気になります。

北の大地特有の問題もあります。

 研究対象である協同組合は日本全国津々浦々どころか、世界中どこにいっても活動している経済組織です。全国規模あるいはグローバルに展開している協同組合もありますが、地域社会に根ざしてそこに住む人々とつながって活動している場合が多いです。本学の教育理念の一つである「グローカル」な存在といえます。

 このような存在ですので協同組合を巡っては世界的規模、全国規模だけではなく各地域特有の法的問題点もあります。例えば協同組合はメンバーシップ(組合員制)を基本にしており、組合員ではない者による協同組合事業の利用には法的制限があります。北の大地でこのような考え方はどこまで推し進めてよいのでしょうか。北海道の田舎町に行くと、ガソリンスタンドやスーパーといったお店が協同組合が運営する一つしかなく、株式会社が運営するお店に行こうとしたら何キロも先の隣町まで行かなければならないという状況もあります。法律を作る東京だけで議論していても、このような状況を頭ではわかっていても肌感覚として実感が伴わないかもしれません。北海道から独自の意見を発信していく必要性は大いにあるのではないでしょうか。

コツコツあるいは要領よく

 学部授業ではここ数年商法II(商法総則、商行為法)という科目を担当しています。研究分野は協同組合法ですが、残念ながら日本中のどこの大学にも協同組合法を本格的に取り上げる授業はありません。それゆえ大学では協同組合と同じく経済組織で、その代表格である株式会社が主体となる取引を巡る法律関係についての授業をしています。

 本学の学生さんの授業態度についての印象は、静かに聞いている学生さんが多いということです。赴任して20年が経ちますが、この点について変わりはありません。本学というより地方国立大学法人の学生さんに共通しているところかと思います。裏返していうと授業中もう少し元気のある学生さんがいてもよいのではないかと思います。別の言い方をすると、よい意味で授業をかき回してくれる学生さんということです。

 このように静かですので筆記試験前になると、果たしてちゃんと答案を書けるのだろうか、と心配になることもあります。しかし普段からコツコツと勉強している学生さんも多いし、あるいは(推奨はしませんが)要領のよい学生さんもいて、試験にはしっかりと臨んでいるという印象です。

一緒に考えてみませんか

 日本の協同組合は「実務先行、研究後回し」というのが現実です。つまり協同組合理論に裏打ちされた拠るべき指針が確立されていない中で、事業遂行がなされているといってよいでしょう。

 協同組合関係者の皆さん、自分がやっている仕事あるいは組合員としての利用が、協同組合のそもそも論に照らすと、望ましいことなのか、このまま続けていって問題ないのか。このような疑問を持っている方も少なくはないでしょう。この日常の流れに対して疑問を持つことから学問は始まります。

 このような疑問を持ってください。自問自答してみてください。そしてより深く、協同組合理論に基づいて考えてみたいと思った方は、私の研究室の戸をたたいてみてください。大学に入学するのは少し敷居が高いかもしれません。小樽キャンパス、札幌サテライトあるいはオンライン教室で協同組合について一緒に考えてみませんか。

 

韓国の企業法も熱い

 もう一つの私の研究分野について一言だけ触れておきます。韓国の経済組織に関する法の研究です。このうち韓国の協同組合法についてはもちろんですが、同法に影響を与えている商法(会社法)も副次的に取り上げています。商法は、韓流ブーム絶頂の昨今私たちがよく耳にする大手芸能プロダクションを組織し、規整している法律でもあります。あるいは三星・現代・SKLGといった超グローバル企業も皆この法律に依拠しています。外国法というと主として英米独仏法と考えてきたわが国の企業法学界ですが、韓国の経済発展に伴って、韓国の経済社会のプレイヤーを規整する法律に目を向ける時が来ていると思っています。


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