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- <担当授業>
- 韓国語Ⅰ
- 韓国語Ⅱ
- 外国語コミュニケーション(韓国語)
- 上級外国語(韓国語)
- 言語文学特別講義(言語学)
權 恩熙 准教授
KWON Eunhee
言語と言語が出会うところ、そこで生まれるダイナミックな言語変化
言語と言語が接触した際にどのような変化が起こるかについて関心を持っており、そういった関心の延長で「朝鮮学校コミュニティおける在日コリアン・オールドカマー3世以降の朝鮮語使用」についての研究を行っています。
在日コリアン・オールドカマーのうち、朝鮮総連を中心とするコミュニティの場合、関連団体の公式行事や学校内を中心に小さな朝鮮語使用空間が形成されており、朝鮮学校を通して5~6世にまで朝鮮語が継承されています。しかし、本国が北と南に分かれて休戦中であることの影響を受け、長らく本国との交流が断絶されたまま独自に変化を遂げているという点で、興味深い言語事象を見せています。例えば1世の97%は現在の韓国地域出身で、その中でも慶尚道と済州道という南部地方出身が約8割を占めているので、家族内での親族呼称や食べ物の名称などには渡日当時の地域方言の影響を感じられます。しかし、朝鮮学校の教科書は北朝鮮(DPRK)のものの翻刻であるため、学校内で使用される言葉は平壌文化語の影響が見受けられます。また、インターネットの普及と海外旅行自由化、韓流などによって最新の韓国の言葉の影響も受けつつあります。もちろん彼らが生まれて初めて習得する言語(第1言語)は日本語であるため、住んでいる地域の日本語の影響も多大に受けていて、日本語の直訳式表現が定着していたり、ピジンのように単純化された文法が使われていたりという現象も観察されます。こういった社会的な事柄と彼らの言葉がどのように結びついているかを明らかにしようとしているのが、私の研究だと言えます。
ちなみに、近々文学作品と映画記録を通して、植民地朝鮮における朝鮮語と日本語の二重言語使用様相について研究を進めたいと思っています。
社会言語学に惹かれて
大学1年生の時、ある団体が主催する「在日同胞遺跡地踏査および朝鮮学校交流訪問団」に参加し、福岡朝鮮初級学校と九州朝鮮中高級学校を訪問したことがあります。そこは、四方八方が日本語に囲まれている中にある、朝鮮語だけが飛び交う大変異質な空間でした。しかし、そこで聞こえる朝鮮語は韓国生まれの私が使うものとはどことなく違う、不思議なことばでした。韓国に帰ってから、もっと詳しく知りたいと思って色々な書籍や番組を探りながら勉強しました。そして言語学関係の院に進むと決めて「韓国語学」を副専攻として履修し始めた3年生の時、あの時接した在日コリアンのことばのような現象を研究する分野が「社会言語学」であることを知りました。 それによって私の人生がガラっと変わってしまいましたね。
元々頭の中でだけ考えた理論よりは生身の人間に直接かかわる学問のほうが好きで、国際通商学を専攻してた学部生の頃もゲーム理論と行動経済学にハマっていたので、社会言語学に惹かれたのは必然だったのかもしれません。今、現に生き動いているダイナミックな言語変化を真横で観察できるのが、この研究の一番の魅力と面白さと言えます。
「変化」する「ことば」への理解が、人間と社会に対する理解につながる
人は常に「移動」する存在で、それは必然的に自分とは異なる個人または集団との「出会い」をもたらします。そういった「出会い」は時折「衝突」を起こし、それによって「変化」が生まれます。そういった「変化」は多様な領域において起こり得ますが、そのうちの一つが「ことば」です。異なる特徴を持った言語を話す共同体との出会いは、必然的にお互いの「ことば」に変化をもたらします。ことばへの理解が、我々人間と社会に対する理解につながるのは、そういう関係性とのつながりがあるからです。
またこういった考え方のもと、2027年まで「日本の民族的マイノリティの言語・音声・アイデンティティをめぐる分野横断的研究」を、名大の音声学専門の先生と京大の社会心理学専門の先生と一緒に進めていく予定です。移民やエスニック・マイノリティが主流社会に適応していく中で、言語・音声とアイデンティティの関係を探ることが目的です。
グローバルな人材を育成し、経済にも触れる言語学の授業
商大では、韓国語と言語学を教えています。韓国語科目の場合、女子学生が割合の8~9割を占めているのが特徴的で、第一志望で来た人ばかりで熱心な学生さんが多く、会話練習の時も和気あいあいと楽しい雰囲気です。嬉しいことに、最近は韓国への短期留学やワーホリなどを考える学生さんが着実に増えてきていて、皆さんがどんどん視野を広げてグローバルな人材に育ってほしいなと思っています。
言語学授業の場合、少数ではありますが一定数「言語オタク」気質の学生さんが来るのが特徴的です。いつも前列を死守し目をキラキラさせながら集中して話を聞いてくれるので、大変やりがいを感じます。また、自分が学部生の頃の専攻が経済関係だったので、理論言語学と社会言語学の違いを理解させるために行動経済学やプロスペクト理論の話をしたり、形態素という概念を知ることがAI技術とどうつながっているかなどの話をしたりする時がありますが、一気に集中度が上がるのを見るとさすが商大生だなと感じます。もっと経済関係の話を混ぜながら言語学の授業ができたらなと思っています。
虎に翼を
今はこうして言語学者として生きていますが、学部時代の専攻は「国際通商学」で経済学やマーケティング、地域学関係の科目をたくさん履修しました。その時に身に着けた経済に関する知識や実用的思考は、今も人生を生きていく上で大きな武器となっています。まだ自分の可能性を知り尽くしていない状態で、自分の将来を広げることができる最高の選択は「商学」であり、さらに外国語能力が備わると「虎に翼」でしょう。どこにでも思うがままに羽ばたいていけるように、ぜひ小樽商科大学を目指していただければと思います。
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