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教員インタビュー 片桐由喜教授

  • <担当授業>
  • 社会保障法

片桐 由喜教授
KATAGIRI Yuki


安心して暮らすために

 私は社会保障法、なかでも医療保障法を研究してきました。みなさんは病院へは必ず保険証(正確には被保険者証)を持っていきますよね? これがあることで医療費負担が軽減されます。そのため、お金がないから治療を受けることができない、あるいは、治療を受けた結果、貧困になるという事態を防いでいます。貧困を防ぐ、これを防貧と言います。防貧機能を果たす医療システムに日本は保険方式を採用していますが、イギリスは国営方式です(つまり、医療費は無料です)。なぜ、国営方式が誕生し、それが持続可能なのかに関心を持ち、イギリス医療保障制度の研究を始めました。

 数年前から住宅保障制度についての研究も始めました。生命・健康は私たちにとって最上位に守られるべき権利です。これらと同等のレベルで住宅が私たちに保障されることが必要です。なぜなら、住宅は生活の基盤だからです。しかしながら、日本は住宅の準備は個々人の才覚に委ねられ、国家の介入が小さいです。これに対し、ヨーロッパ諸国は国家が積極的に関与しています。この点について、諸外国との比較をとおし、日本のこれからの向かうべき方向などを研究しています。

思い出のロンドン

 大学学部時代は労働法のゼミでした。そのゼミを率いる恩師のもとにはフランス、アメリカ、そして、ドイツの社会保障制度を専門とする先輩たちがいて、その中で自然とイギリスの社会保障制度を研究テーマに選びました。

 イギリス社会保障制度の中でも医療保障制度を選んだのは、日本と決定的に仕組みが異なるからです。住民一人一人にかかりつけ医がいて、軽い風邪から重病の手術まですべて無料、一方で患者はかかりつけ医の紹介がなければ原則、大きな病院へ行けないなどです。実は、これらは今、日本が数十年遅れで導入しようとしている仕組みです。なぜ、そのようなことが早くから可能だったのか、大きな不都合が生じているのではないか、なにより、住民たちは満足しているのか、など異国の制度に興味津々でした。研究に大いに役立ったのがロンドン滞在です。最初の滞在は大学院時代に半年、その後、数年おきに2週間程度、ロンドンに滞在しながら、病院、役所、大学・研究所などを訪問し、実際に見て、聞いて、話して、制度や実態を理解してきました。なにより、百聞は一見に如かずを実感しました。滞在の合間に大英博物館やビクトリア美術館を巡ったことも、良い思い出です。

 外国の法律や制度を研究するときは、日本との比較を常に意識しています。そして、その研究の最終的な目的は、日本の状況を今より良くするためのヒント(示唆)を得ることにあります。ヒントを探す旅は今も続いています。

地域・社会の問題解決のために

 国民健康保険や介護保険の運営に都道府県や市町村が深くかかわっています。研究の専門として社会保障法の看板を掲げる私は、ときどき役所から一緒に仕事をしませんかと誘われます。また、役所だけではなく、地域のあちこちで、目には見えなくとも、多くの方々が児童、高齢者、障害者、あるいは、生活に困窮した人など、誰かのために汗を流しています。たとえば、町内会、民生委員、子ども食堂などなどです。そこで働く方々から、相談を受けることもあります。

 社会保障制度は人間、そして、彼らが形成する地域・社会と最も密接な関係を持つ学問の1つです。その意味で、研究者も地域・社会と無縁ではいられません。常に、学んだことを地域・社会に還元し、社会に貢献することが求められています。そして、その行為を通して、私自身、あらためて現実を直視し、法律や制度の課題を認識することができます。この課題認識を研究の萌芽として、再び、机に向かうのです。

伝統墨守と新技術導入

 私のゼミでは主として社会保障関連の裁判例研究を行います。

 裁判例研究では当該判決の結論に対する賛否を報告し、議論します。ゼミ生に与えられる課題には判決文を2000字に要約する作業(通称、「2000字」)、3人一組になって判決に対する意見をまとめる「3人意見」、1人で意見を書く「1人意見」があります。このやり方は30年間、変わっていません。伝統墨守であり、ゼミ同窓会における先輩・後輩の共通言語です。

 以前は上記の提出課題はすべて紙に印刷され、ゼミ室の机上を数十枚の紙が行き交っていました。しかし、今、これらはすべてタブレットやノートPCに格納され、紙はほとんどありません。これが新技術導入です。伝統と新技術がうまく調和し、わいわいがやがやとゼミは進みます。

 卒論のテーマは多少なりとも社会保障制度と関わりがあることを条件にしています。年金制度や生活保護制度は卒論の王道テーマですが、時には「Eスポーツと障害者」、「筋トレと高齢者介護」、「化粧文化と多様性」などをテーマに選択するゼミ生もいます。案外、こういうテーマが面白いです。

来たれ、商大へ

 商大を目指すあなたへ

 商大のセールスポイント3点を挙げます。第1はゼミ室です。国公私立大学全ての中で教員ごとにゼミ室がある大学は聞いたことがありません(もちろん、理系の研究室は別です)。贅沢な空間を大学側は提供しています。ゼミ室をゼミ生たちはゼミ以外の時間でも自由に使うことができます。大学の中で居場所があるということは非常に重要でかつ、貴重なことです。

 第2は留学の枠が比較的広く、多くの学生に機会が与えられている点です。経済的な支援も用意されています。上記2で述べたように外国での暮らしは失敗も含め、人生にとって素晴らしい経験です。

 第3は、小樽という魅力ある都市で学ぶことができるという点です。小樽はかつて北のウォール街と称され、今も歴史的建造物が残り、それらは時には美術館や博物館となって往時をしのばせます。また、国内外から多くの観光客をひきよせ、街並みが日々、進化しています。また、本学は高地に位置し、キャンパス内のどこからでもオーシャンビューを楽しめます。自然豊かな本学で学び、ときに日本屈指の観光地で往時の歴史をひもとく。充実した大学生活となることを保障します。


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