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教員インタビュー 柴山千里教授

  • <担当授業>
  • 国際経済学
  • 国際貿易理論
  • 国際経済と現代
  • 研究指導(ゼミ)

柴山 千里教授
SHIBAYAMA Chisato


アンチダンピングについて研究しています

アンチダンピングは、日本も含めた世界164の国および地域が加盟する世界貿易機関(WTO)において規定されている貿易救済措置の一つです。

WTOは貿易自由化が各国および世界の所得を増大させるという考えのもと、これを推進している国際機関です。加盟する国および地域は、WTOやその前身の関税貿易一般協定(GATT)の貿易交渉で約束した関税引き下げを着実に実行しなければなりません。ところがこのWTOの規定の中で、関税を引き上げても良いという規定が存在します。それが貿易救済措置で、具体的にはアンチダンピング、補助金相殺関税、セーフガードです。

これらの措置は、輸入急増により輸入国の国内産業が損害を受けるかその恐れのあるときに、ある条件のもとで一定期間関税を引き上げても良いとされています。その中でもアンチダンピングが世界で最も頻繁に用いられている措置です。

私は、なぜWTOにアンチダンピング措置の規定があるのか、そもそもダンピングとは何か、アンチダンピング措置によって各国および世界は利益を受けるのか、世界や日本のアンチダンピングの利用状況はどのようなものか、なぜ日本はアンチダンピングをあまり用いなかったのかなどを経済学の立場から研究しています。

日本は不公正貿易の国なのかという疑問から研究が始まりました

私が学生時代を送った1980年代の日本は、欧米諸国と頻繁に貿易摩擦を起こしていました。日本は失業を輸出している、不公正貿易をしていると世界中から非難されていました。全米自動車労働組合の人たちが日本車を叩き壊している映像がテレビのニュースで流れているのを観て、日本はこんなに憎まれているのかとショックを受けたものです。

日本の貿易摩擦を調べていると、日本の欧米への主力輸出品が軒並みアンチダンピング税を課されていることがわかりました。そして、GATTのアンチダンピングに関する規定を読むと、輸入国産業に損害を与えるダンピングは「非難すべきもの」と書かれていることを知り、ダンピングは悪いことなのか、日本はダンピングをするから悪い国なのか、そもそもダンピングは経済理論的にはどういうもので、ダンピングの何が悪いのかと調べ始めました。1980年代は、欧米諸国がアンチダンピング措置を急増させた時期で、それに合わせて研究も盛んになり始めていました。私は共同研究者や先行研究の助けを借りて、自分の疑問を解き明かしてゆきました。

アンチダンピングの研究は、大きく分けて、ダンピング発生のメカニズムと課税などのアンチダンピング措置による経済効果の理論的研究と、現実に行われているアンチダンピング調査や措置に関する様々な側面からの実証研究に分けられます。あわせて国際経済法や国際政治学にも関わり、多様で奥深い研究分野であることが魅力です。

輸入によって国内産業が被害を被っている場合は貿易救済措置が適用できるかもしれません

安価な輸入品は、それを使って生産する企業やそれらを販売する業者や消費者には利益をもたらしますが、一方でその輸入品と競合する製品を作っている生産者にとっては脅威となることがあります。もし安価な輸入品の急増により、競合する製品を作っている生産者が大きな損害を被っている場合には、政府への申請によりその輸入品に対し4年(セーフガード)ないし5年(補助金相殺関税、アンチダンピング)の関税引き上げが実現するかもしれません。経済産業省のウェブページにはこれらに対する詳しい解説と相談窓口があります。

今から10年以上前に日本が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に参加しようとしたとき、北海道も含めた日本国内で反対運動が巻き起こりました。いったん貿易自由化したが最後、輸入により損害を受けた産業はそのまま市場から撤退し、日本の産業は弱体化するのではないか、という不安が人々の中にあったように見えました。そこで、私は2014年に『日本人だけが知らない「貿易救済措置」』(小樽商科大学出版会刊行)という一般の方向けの啓蒙書を、国際弁護士の手塚崇史氏と上梓しました。貿易自由化は一方向にしか向いているのではなく、輸入急増により損害を受けた場合は一時的に関税を引き上げることもできること、それはどうしたら実現できるのかをお示しした本です。ご興味がありましたら、読んでみてください。

経済学は人生を豊かにする大切な教養です

重力の法則が物理の必然であるように、市場の法則は経済の必然です。市場の法則をしっかり理解することで、経済の視点から社会を深く理解することができるのです。また、行動経済学を学ぶと意思決定の際に人が陥りがちな非合理な行動を知ることができますので、人生においてより良い選択を行う可能性が拓けます。文系の学生のみならず、理系の学生も、経済学を学ぶことで人生を豊かする大事な教養を獲得することにつながります。

経済学では少なからず数学を使いますが、少なくとも学部レベルの経済学で用いる数学は、それほど難しいものではありません。数学が苦手な人こそ大学で経済学を学ぶことをお勧めします。なぜなら、大学を卒業してから改めて独学で経済学を学ぶのはかなりハードルが高いからです。わからなければ教授に質問したり、ゼミで学んだり、友達と一緒に勉強したりして克服すれば、効率的に習得できます。社会人になってからも経済と関わって生きていかなければならない私たちですから、大学である程度の経済学の知識や考え方を身につけることは有益だと考えます。

国際経済学でアカデミックな作法を学び青春の記念碑としての卒論を残そう

柴山ゼミナールは、国際経済学を用いてアカデミックな思考と作法を修得することがテーマです。学生が自分の言葉で経済学を説明し、議論する力を身につけることを目標にしています。通常のゼミでは、国際経済学のテキストをレポーター方式で報告してもらい、理解を深めるために議論し、演習問題をみんなで解いています。また、年に2回、ゼミ内でディベートを行い、「為替レートは1ドル100円がいいか170円がいいか」といった経済学テーマや「一生住むなら都会か田舎か」などの面白テーマで議論を戦わせます。

本学では、卒業後就職する学生がほとんどであるため、卒論は多くの学生にとって人生最初で最後の学術論文であり、今までの人生で獲得した知識をアウトプットする学生時代の集大成でもあります。歴史ある本学においては、100年以上前からの卒業論文が全て大学図書館に大事に保管されています。卒論は永遠に残る青春の大事な記念なのです。それゆえに、卒論のテーマは国際経済学にとらわれず、学生が最も追及したいことを自由に選んでもらうようにしています。そして、テーマの絞り方、資料収集の仕方、アカデミックな思考方法と書き方、引用の仕方、図表や参考文献の記述の仕方などを丁寧に指導し、学生が完成度の高い会心の論文を書くお手伝いをしています。

学生の就職先は、製造業、公務員、金融機関、IT、マスコミなど様々です。


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