- <担当授業>
- 意思決定論I
- 意思決定論II
- 計画数学II
- 研究指導(ゼミ)
- 社会情報入門
片岡 駿准教授
KATAOKA Shun
グラフ上での正しい確率推論を目指して
確率的グラフィカルモデルとよばれる構造をもった確率分布からの効率的な推論方法の開発や確率的グラフィカルの信号処理への応用について研究しています。
確率分布からの推論問題は基本的には関数の最大化問題なのですが、実はこの問題は現代のコンピュータがどんなに高性能になっても絶対に解くことができない問題の一つとして知られています。
例えば、図1のような状況を考えてみます。これも確率的グラフィカルモデルと呼ばれるものの一種であり、図の丸印はX1、X2、X3、X4の4つの変数に対応し、線でつながれた変数同士が何らかの関係をもっています。このとき、各変数が0または1の2値をとるとして、4変数関数(X1、X2、X3、X4)を最大にする変数の値を探すという問題を考えてみましょう。
この問題は各変数に実際に値を代入すると、図2のとおり16通りをすべて計算し、関数値が最大となるものを選ぶことで簡単に解くことができます。
では変数の数を4個から100個や10,000個に増やして同じ問題を考えるとどうなるでしょうか?実はこのように変数の数を増やすだけで、この問題はもうコンピュータでは解けなくなります。原理的には先程と同じように 2100通りや210000通りをすべて計算すれば解くことができるのですが、この計算をおこなうためには数万年や数億年の時間が必要になり、原理的には確かに解けるが現実的には時間が足りなくて絶対に解けないという状況に陥ります。
この現象は計算量爆発とよばれており、計算量爆発の問題を抱える確率分布からの推論問題を(ある程度の誤差を許容したとしても)何とかコンピュータで解けるようにするにはどうしたらいいのかについて研究しています。
数理の力で不可能を可能に
大学での授業で、世の中にはコンピュータを使っても解けない問題の方が多いということを知ったのがこの分野に興味を持ったきっかけです。それまではコンピュータを使いこなせばどんな問題でも解けると思っていたので、コンピュータを使いこなすために様々なプログラミングスキルを習得することが重要だと考えていました。コンピュータがあっても大体の問題は解けない、この事実を知ってからは、こういった問題を何とか解決するための数学の勉強を重点的に行うようになりました。
この研究分野の魅力は何といっても「不可能を可能にする」の言葉に尽きると思います。コンピュータの高い計算能力をもってしても解くことができない問題を、自分の考えたアイディアがあれば解くことができるというのがこの研究の魅力です。世の中の多くの問題は単純にコンピュータを使うだけでは解くことができません。自分のアイディアで不可能を可能にし、新しい世の中を切り開いていく感覚を味わえるのがこの研究の面白いところです。
曖昧さや組合せの問題は実社会でも身近な問題
現在の世の中では様々な情報が簡単に手に入るようになりましたが、それでも物事の判断に必要な情報が完全に手に入ることはまずありません。このような状況下では、わからないことに対しての不確実さを考慮したうえで、適切な判断をおこなう必要があります。
確率・統計はこのような状況下で適切な判断を下すための道具であり、確率や統計的な考え方を習得することで、不確かな状況下でも合理的に物事を考えられるようになります。
また、計算量爆発の問題は実はかなり身近な問題で、確率分布からの推論問題だけでなく、世の中の様々な分野で現れます。
例えば、各営業先への効率的な訪問ルートを考えて移動費や移動時間を最小化する問題や、一度に運搬する輸送量を最大化して往復回数や必要な運搬車の数を最小化する問題などです。これらの問題も真面目に考えると計算量爆発を起こしてしまうため、多くの現場では「勘」や「経験」をもとに訪問ルートや輸送量を判断しているのが現状です。しかしながらこの方法では本当はもっと短い時間で訪問できた、本当はもっと少ない輸送数で運べたなどの問題が簡単に起こってしまい、知らない間に余計なコストを払っていたという状況が簡単に起こってしまいます。計算量爆発を抱える問題への取り組み方を知っていれば、このような不必要なコストを少なくすることができます。
数理の成果は数理を知らなくても使えます
情報不足による不確実さの扱いや計算量爆発の問題は、我々の生活でも身近なありふれた問題でありながら、これらの問題を真面目に考えるためには微積分学や線形代数、組合せ数学といった初等的な数学の知識が必要になります。
しかしながら、巡回セールスマン問題などの有名な問題であれば、既に様々なツールが用意されているので、数学的な知識がなくても簡単なプログラミングができれば誰にでも解くことができる世の中になっています。そのため、この分野に興味がある場合には、まずはこれらのプログラミングツールの使い方を習得することをお勧めします。こういったツールの使い方を習得するだけで、ある程度の範囲の問題はコンピュータを使って簡単に解くことができるようになります。
もちろん、このようなツールで解くことができるのは有名な問題だけであり、より専門的な問題に直面した場合は自分の力で解法を考案する必要があります。この場合には先ほどあげた数学の知識が必要になります。そのため、まずはツールなどを使って基本的な問題を解けるようになり、そのうえでさらに専門的な知識を習得したいのであれば、必要に応じて数学の勉強をしていくといいでしょう。
数学的な知識を習得するには膨大な時間が必要であり、基本的に一朝一夕では不可能です。そのため、多くの人にとっては大学時代がゆっくり数学を勉強できる最後のチャンスになると思います。もし、数学を世の中に役立てることに少しでも興味があるのであれば、ぜひこの時間を有効活用してください。
データサイエンスとプログラミングを中心としたゼミを運営しています
データサイエンスは私の専門とする確率分布の理論の応用先の一つなのですが、これも真面目に勉強しようとすると様々な数学知識が必要となります。
しかしながら、現在の世の中ではデータサイエンスをおこなうための様々なプログラミングツールが用意されているため、これらのプログラミングツールを利用したデータ分析法の習得と第一の目標に挙げています。
プログラミングツールを使用したデータ分析法を習得した後は、スポーツや経済、SNSなどの学生の興味のある分野のデータ分析や数理的なデータサイエンス技術の習得、プログラミングを用いたゲーム作りなど、データサイエンスとプログラミングというテーマから外れない範囲で卒論のテーマを設定していきます。
関連リンク