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エバーグリーンからのお知らせ

2013.11.13

平成25年度第6回講義:「人を、想う力。街を、想う力。―共通価値の創造」(2013/11/13)

講義概要

・講 師:合場 直人 氏/昭和52年卒
・題 目:「人を、想う力。街を、想う力。―共通価値の創造」
・現 職:三菱地所株式会社入社 代表取締役 専務執行役員

・内 容:

小樽での4年間の学生生活と社会人になり仕事を通じて学んだこと、そして今の想いについてお話します。首都東京の経済の中心地である丸の内の再構築に長年携わった立場から、都心が目指すものは何か、街づくりが「CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)」そのものであることを共有したいと思います。後半は商大の次の100年に向けて、商大生への期待や役割について受講生とともに考えていきます。

  • 講師紹介

昭和29年東京都生まれ。昭和52年本学商学部卒業後、三菱地所株式会社入社。宮城県仙台市の泉パークタウンを皮切りに地域・ニュータウン開発を手がけ、平成9年から東京・丸の内再構築業をけん引。街づくりを通じて「Creating Shared Value」(共通価値の創造)を実践する。平成25年同社代表取締役・専務執行役員に就任。東京都在住。

 

何のために?自分の想いを注ぎ込む。

 

偶然の幸運に気づき力を尽くす

 

三菱地所株式会社代表取締役の合場直人さんが講義のテーマとした「人を、想う力。街を、想う力。」は同社のブランドスローガン。「街づくり」という非常にスケールの大きな世界を「共通価値の創造」という視座から学生たちにひもとく回となった。東京の高校を卒業後、母親の出身地である北海道への憧れと親元を離れて自立したい気持ちから小樽商大に進学した合場さん。「智明寮(現・輝光寮)生活」「ラグビー部」「応援団」という“商大生の中でもかなり濃密な人間関係”で青春時代を過ごし、そこからたくさんの学びを得たことは後ほど紹介する。三菱地所入社のきっかけはラグビー部OBからの勧誘だったが、実は本人は当時教職志望。講義後の控え室では「先ほど言いそびれたこと」として「セレンディピティ」という言葉を挙げ、「意味は“偶然の幸福をつかみとる力”。皆さんの日常生活でもいろんな幸運に出会っていると思いますが、その幸運に気づくかどうかが大事。僕は企業に就職することが第一志望ではなかったけれど、あのとき先輩が誘ってくれたことは人生最大の幸運の一つです」。幸運に感謝し、自らの力を尽くすことの大切さを伝えたかったと振り返る。

 

新しい知を生み出す大丸有地区

 

仕事でつねに大事にしていることは「何のために?」。周囲にも自分にも課してきた自問自答だと合場さんは言う。三菱地所の代表的な仕事の一つであり、16年間にわたり関わってきた東京・丸の内の再構築においても、その問いかけに対して「世界で一番美しい都心にする」という明確な答えが用意されていた。「では“美しい”の定義は何かと言うと、ゴミが落ちていない、街並みが美しいなどの物理的な側面もありますが、一番大事なのはこの都心からどれだけ“新しい知”が生み出されていくか。知の生まれやすさでまちの価値が決まるのではないかなと考えています」。大手町・丸の内・有楽町の「大丸有地区」は区域面積約120ha、就業人口約23万人、東証1部企業75社。日本を代表するビジネスセンターとして知られている。ワーカーの役割も情報処理から新しい知識創造へ。日本を代表する企業や金融・法律会計・コンサルなどグローバルビジネスの最前線に立つ業種の人々がフェイス・トゥ・フェイスで刺激を受け、すみやかに意志決定できる機能性がそのまま、まちの価値になると解説し、新しい街づくりの形を示した。

 

リベラルアーツで育む自分の想い

 

講義の後半、話題は「商大生への期待」になり、ここで合場さんは古代ギリシア・ローマに源流を置く「リベラルアーツ」、日本では「自由七科」と訳される一般教養の重要性を主張。「これをしっかり勉強していれば自分なりの歴史観・哲学観・人生観ができる。そのためにも照れないで“青臭い議論”をしてほしい」。さらにリベラルアーツを育む生活習慣として「本を読むこと」「毎日でなくとも『日経新聞』を読むこと」「人との出会いを作ること」を勧め、人間形成の素養を身に付けるよう呼びかけた。他方、就活については「自分探しをしても自分は見つからない」と、きっぱり明言。「自分に合った仕事は探してもないんです。私自身もそうでしたが、“自分の想い”を大切にし、目の前のことを思いきりやることで自分も仕事も見えてくるようになります」。新入社員に「30年後の社会はどうなっているか」という夏休みの宿題を出した。完成度の高いレポートが上がってきたが、合場さんは「何かが違う」ことを看破した。「皆、実によく調べている。調べているけれどもこの中で自分たちの想いはどこにあるのか、それが見えてこなかった。ネットで検索した情報を鵜呑みにするだけでは何も知らないのと同じこと」。自らの頭で考え、たどりついた想いがあれば、周囲に依存する「〜してくれない」の「くれない族」にもならない。自分に何ができるかを考える「できるか族」になろう、というメッセージで学生たちに目覚めの種を植え付けた。デカルト曰く、「我思う。故に我あり。」合場さんからの力強いメッセージだ。

 

文系初の「街づくり学科」創設を提唱

 

街づくりのエキスパートである合場さんは、小樽の街をどう見ているのだろうか。「驚く方もいるかもしれませんが、小樽は平成12年に定められた過疎地域自立促進特別措置法により地方債の70%を国に補填してもらっている、いわば過疎地域として公示されています。こんな事でいいのでしょうか?平成23年に迎えた小樽商大創立100周年は小樽のまちが商大を育ててくれた100年だったのです。次の100年はぜひ、商大が小樽のまちに“恩返し”する100年に」と投げかけ、その足がかりとして全国初の文系「街づくり学科」創設を提唱した。これまでの街づくりはインフラを重視した理系の「都市工学」に基づくものだったが、人口減少等の社会的課題を考えるとこれからは「都市経営」による街づくりへ。経営の視点から街づくりを考えられる文系の専門家が求められると予想する。「大学が主導して小樽の街を再生できれば、“都市経営の小樽商大”“街の再生なら商大が日本一”という大学のブランド力にもなります。小樽の街は小さいながらも歴史や観光などの資源が豊富。皆さんの力で小樽を再生できれば、将来は全国の自治体・企業から商大生がひっぱりだこになるはず」。次代を見据えた商大像で講演を締めくくった。

 

 

寮での手荒い洗礼、勝利への目的意識

 

講義後、熱心な学生たちとの歓談タイムでは学生時代のこんなエピソードが明かされた。「寮生活ですごく勉強になったことがあったんです。寮の運営を決める寮生大会で寮務委員だった僕が“今日は重要な案件なので複数の案を用意した。皆で徹底的に議論して決めたい”と言ったとたん、先輩たちの逆鱗に触れまして(笑)。おまえは自分の考えがないのか!とめちゃくちゃ怒られた。でも今、自分が部下に同じことを言われたらやっぱり僕も叱ります。情報を並べるだけでは仕事をしたことにならない。そこに価値をつけて提案しないと。あのときに身をもって学びました」。ラグビー部では在籍した4年間に二度全道優勝を経験。前述の「セレンディピティ」と「やるべきことをやった」努力で勝ち取った。《試合の場面で出てこない練習はやらない》《練習時間を短くして集中する》といった明確な目的意識や、同じ目標に向かい自分を犠牲にしても仲間を生かす精神も、そこで得た合場さんの宝物だ。「人として大事なことはすべてラグビー、寮、応援団時代に培ったものばかり」。次の商大100年は街への恩返し、と語るすべての原点が、青くて熱い4年間に詰まっている。

 

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