CLOSE

エバーグリーンからのお知らせ

2013.12.11

平成25年度第10回講義:「 クリエイティブな北海道をアジアに広げる取組み」(2013/12/11)

講義概要

 

・講 師:吉村 匠 氏/昭和59年卒
・題 目:「クリエイティブな北海道をアジアに広げる取組み」

・現職等:

  一般社団法人北海道食産業総合振興機構(フード特区機構)出向 販路拡大支援部部長

  NPO法人札幌ビズカフェ理事 副代表

・内 容:

日本人のルーツである縄文人、そして北海道の先住民アイヌが長い年月をかけて培った動植物神・自然神や、文化神など、自然や動物とともに生活し感謝し、畏れ、生きるスピリットが、北海道には今も伝わっています。自然や他者との共生、国内各地から集まった先人たちが築いた「シェアとリミックス」の文化、それこそがクール・ジャパンの礎であり、北海道から次代と世界に発信するスピリットだと考えます。しかし、世界がネットワークでつながる今は、そこに在る色だけでなく、世界中の人々や文化が持つ色が混ざり合い、新しい絵が次々と紡がれる時代です。真っ白な雪に覆われる「北海道」をキャンバスに、アジアのさまざまな人々と一緒に北海道の魅力を再編集し、新しい色で新しい絵が描かれることを目指す、「CREATIVE HOKKAIDO」の取組みについて紹介します。そして次代の北海道を牽引していく役割を期待されている商大生のみなさんにおかれましては、このようなアジアな時代に、これからどんな人生を送っていきたいか、そのために今、僕はわたしは何をしているか、また何をすべきだろうか、ということに一緒に思いを馳せたいと考えます。

  • 講師紹介

昭和36年札幌市生まれ。昭和59年本学商学部経済学科卒業、株式会社北海道新聞社入社。平成8年株式会社道新メディック、平成14年株式会社トライ・ビー・サッポロという関連会社2社への出向を経て、平成24年から一般社団法人北海道食産業総合振興機構(フード特区機構)に出向、販路拡大支援部部長に。NPO法人札幌ビズカフェ理事副代表。札幌市在住。

 

これからは経営をデザインする発想で。

 

演劇仲間と架空の「ダブラダーモ族」

 

「僕は再び太りつつある。」ーー。北海道新聞社に籍を置き、現在は「フード特区機構」に出向中の吉村匠さんが自己紹介スライドに出したこの一文に反応した人には、吉村さんの出身地がどこかおわかりでしょう。村上春樹が『羊をめぐる冒険』の執筆にあたりインスパイアを受けた場所、とされる「士別市」という答えがわかるまでに使われたスライドは15枚。テンポの良さとクイズ形式で学生たちの注意をそらさず、飾らない物言いに時折笑いが起きる導入となりました。

商大時代のサークルは「演劇戦線」だった吉村さん。

 

 

「皆さんからの質問に“大学でしたことは会社で役立つ?”というのがありましたが、答えは必ず役立ちます。断言してもいい」。北海道新聞社の新人営業だった頃、札幌の狸小路商店街を盛り上げるイベントを担当したときのことです。広告代理店と出した企画は仮装みこし大会。応募の反応が鈍いこともあり、自分たちのチームを作って架空の「ダブラダーモ族」に扮装し、うっかり入賞してしまったのも「演劇戦線」のノリや人脈があればこそ。自身の結婚披露宴のときもフォーマルに着飾った招待者の中に女装や仮装姿の演劇仲間が入り乱れ、周囲の顰蹙をかったことも。こうした型破りなキャラクターを持ち味に営業や新規事業に携わり、現在はフード特区機構に出向という新聞社の中でも異色のキャリアを歩んでいます。

 

食のバリューチェーンをつくる

 

では、「フード特区」とは一体何でしょう?北海道の重要な資源である「食」の分野では現在、地産地消や第6次産業など様々な立場の関係者が手を組んだ運動が進んでいます。おおまかに説明すると「フード特区」とは、それらの運動を国の制度上の支援を受けながら積極的に推し進めていく特定の区域、と言ったところ。2011年12月「北海道フード・コンプレックス国際戦略総合特区(フード特区)」に認定された北海道は、その運営組織として北海道、札幌市、江別市、函館市、帯広市、北海道経済連合会の産官連携による一般社団法人北海道食産業総合振興機構(フード特区機構)を設立。吉村さんはその中で海外に対する販路拡大の役目を担っています。「生産から加工、流通、販売までの一連の流れ全体の価値を上げていく〈食のバリューチェーン〉を形成する。作る人も売る人も一緒に食のあり方を楽しんでいきましょう、といった試みはアジアの中では北海道が先進地。とても大きな可能性を持っています」

 

経済成長を後押しする起業家度

 

続けて「仕事と並行して取り組んでいる活動」として挙げたNPO法人札幌ビズカフェでは「Let’s start up!!」を合言葉に起業やベンチャーを応援。起業家度を高めることが国や地域の経済成長に直結すると言い、あるグラフを解説します。「各国の国内総生産の成長率を縦軸、起業家度を横軸にした場合、2000年時点で日本はGDPも起業家度も一番低いところにいます。2000年といえばバブル崩壊後の就職氷河期で、入れる企業がないのに日本の大学生は起業しない。一方、お隣の韓国もこの時期日本以上に厳しい経済低迷に苦しみますが、起業家度は日本の10倍以上。その後数年で韓国経済は劇的に反転します」。次の表は各国の面積と人口、GDPを比較したもの。2000年と2010年のデータが並んでいます。「日本の面積はノルウェーやフィンランドとほぼ同じ。ただし人口は日本が二桁多いため必然的にGDPは上回っています。この表に北海道という項目を加えると、2000年は北海道の面積の100分の1にも満たないシンガポールやほぼ同等のアイルランドに対し北海道のGDPが勝っていますが、2010年になるとこれが大逆転。つまり、国ではなくエリア単位で考えると、北海道は急激に引き離されている。この落差は“外に開かれたエリア”と“閉じたエリア”の差。この先も“閉じたままの北海道”でいいのか、皆さんが将来を考えるときにぜひこのことを思い出してほしいと思います」

 

 

SHARE & RIMIX at Hakkaido

 

さて、いよいよ話は本日のテーマ〈クリエイティブな北海道をアジアに広げる「CREATIVE HOKKAIDO」〉へ。北海道の魅力を広く内外へ発信するにあたり、吉村さんは〈What’s Cool Hokkaido? 北海道の何が「良さ」か〉を自問します。その答えの一つ目は「風と水の循環構造」。中国大陸から来る乾いた偏西風が北海道の山脈にぶつかって雨や雪になる。その雨雪が山や川の伏流水を通じて浜に流れる。空・森・浜をめぐる風と水の好循環は北海道固有の大きな地の利だと指摘します。「この豊かな自然環境の中、先住していた縄文人やアイヌの人々はつねに自然を畏れ、自然と共生する精神を育んできた。この共生の精神性も北海道ならではの魅力だと思います」。そしてもう一つの「What’s Cool Hokkaido?」は、JR北海道の根室本線終点に象徴される「終着駅」、最果てにあることだと吉村さんは続けます。「日本は世界の風と文化の終着駅であり、北海道はその日本の中の終着駅。明治の入植期には東北6県を中心に全国から移住団が集い、農業指導に来たクラーク博士のようにアメリカの知や技術も国内で先駆けて導入した。自然や他者との共生、そして各地から集まってきた先人たちが築いた〈シェアとリミックス〉の文化は北海道独自のクリエイティブに反映されています」。その例としてYOSAKOIソーラン祭りやスープカレー、ハウス系クラブ「プレシャスホール」、ボーカロイドソフト「初音ミク」など北海道生まれの名だたるコンテンツを次々と紹介し、新しい「Cool Hokkaido」像を学生たちに披露しました。

 

 

企業の知名度よりも「あなただから」

 

2011年の上海、2012年の香港、2013年の台北、ホーチミンと北海道のクリエイティブや食、IT産業をパッケージにした吉村さんたち「CREATIVE HOKKAIDO」のイベントは、アジア各地で大盛況。なかでも2013年のホーチミンでは現地のベンチャー企業グループとのいい出会いがあり、共同事業を展開する流れへと進んでいます。「アジアでのビジネスは企業同士のつきあいというより、人物本位。ある場所でも『これまで日本企業の申し出は幾つもあったけれど、あなたがたは“家族にしてください”という心を開いたスタンスだったから私たちも受け入れるんですよ』と言われました」。学生へのメッセージは「クリエイティブとは広告や服をデザインすることだけではありません。これからは企業や組織、人との関係性をどうデザインしていくか、がより重要になってくる。皆さんが今勉強している経営や経済も、そうしたクリエイティブな視点をクロスさせながら考えていく発想を身につけてほしいと願っています」

アーカイブ

月別

資料
請求