2014.10.22
平成26年度第3回講義:「販売の最前線!! (顧客の心をつかむ)」
講義概要
・講 師: 下斗米 寬泰 氏 / 昭和45年卒
・現職等:札幌通運(株)代表取締役社長(元損保ジャパン)
・題 目:「販売の最前線!! (顧客の心をつかむ)」
・内 容:
販売の最前線では顧客の心をつかむためいろいろな工夫がなされている。
どの業界でもトップセールスといわれる人は,オリジナルな販売の工夫をしている。
だから売れるのです。
◎各業界のトップセールスのお客様開拓作戦
◎トップセールスの格言に学ぶ
◎仕事人の掟
等のテーマで実際に成功した事例を具体的に紹介し,今後ビジネスマンとして,販売の一線に足を踏み入れる学生の皆様の参考となれば幸いです。
- 講師紹介
昭和45年本学を卒業後,大成火災海上保険株式会社入社。平成16年に株式会社損害保険ジャパン理事札幌支店長。平成22年より株式会社ロジネットジャパン取締役,翌年同社専務取締役ならびに札通商事株式会社代表取締役社長(現任)に就任。平成25年より札幌通運株式会社代表取締役社長(現任),平成26年より株式会社ロジネットジャパン代表取締役副社長(現任)。
大成火災海上から、損保ジャパンへ
私は、小樽商大を卒業して大成火災海上保険という東証一部上場の中堅保険会社に入社し、ずっと損害保険の仕事をしていました。セールスの勉強を一生懸命にして、結果的に役員にもなることができました。
1996年から2001年にかけて「金融ビッグバン」という大規模な金融制度改革があり、大成火災、安田火災海上保険、日産火災海上保険の3社で合併する計画となり、私はその合併の担当でした。ところが、2001年9月11日にアメリカの同時多発テロが起こり、航空機再保険契約を結んでいた大成火災は、700億円もの支払いを余儀なくされて債務超過となってしまい、予定していた合併はできず2001年11月に経営破たんしました。その後、更生計画を出して2002年12月に損保ジャパンに吸収合併されます。
そんなことが起きるまで自分の人生は順調だと思っていましたが、会社が倒産すると生活は一変します。大成火災は一部上場企業でしたから、銀行からは当たり前のように「教育資金は無担保で貸します」と言われていたのに、破たんした会社の社員には一銭も貸してくれませんでした。いつも会社が利用していたガソリンスタンドのスタッフからも、「今日からはカードではなく現金で支払ってください」と言われました。
その時に私は「会社は絶対につぶしてはいけない」と心に刻みました。従業員1600人、家族を含めると5000人の人生が狂ってしまうわけです。僕は、もう一度頑張ろうという思いで、ずっと帰っていなかった故郷札幌の合併後の支店の支店長になりました。ただ、部下となる課長や社員たちからすると、「なんで破たんしたところから上司がくるんだ!?」ということになります。本当に大変でしたが、とにかく結果を出すために4年間奮闘しました。
その後、子会社の副社長のポストの打診もありましたが、破たんの思い出がある東京には戻りたくなく、そんな時に損保ジャパンの大きな代理店である札幌通運から声をかけてもらい、部長として入社しました。8年目に社長に就任し、現在に至ります。
販売の第一線で、大事なこと
まずはトップセールスの格言から「アヒルよりニワトリの卵」という話をします。
生命保険業界には、MDRT(Million Dollar Round Table)会という世界中で生命保険のトップセールスをしている「1億円以上収入がある人」の会があります。この会には学校があり、ここで最初に「なぜ、アヒルの卵ではなく、ニワトリの卵の方が商品として普及したのか」ということを教えられます。なぜかわかりますか? じつは、アヒルは卵を産む時に声を出さないのに対して、ニワトリは産む時に必ず鳴くんです。だから、鳴く方のニワトリが注目され最初に商品化されたんです。
どういうことかと言うと、これからセールスの勉強をしていろんな知識を得たとしても、一番大事なのは自己アピールなのだということです。「自分はニワトリになる」という気持ちがなければどれほど知識を持っていても、この業界では生きていけないよ、という話をはじめにするのです。
私の名刺の裏側には自分の似顔絵を描いています。挨拶する時に、必ず裏側から見せることで印象づけられるからです。また、学生時代から手品が趣味で、今もお客様とのコミュニケーションで使っています。みなさんもぜひ、卒業して社会に出るまでに、自分の得意なものを磨いておいてください。その業界の知識は、先輩たちにかなうわけありませんから、カラオケでも、雑学が詳しいでもなんでもいいので、得意なものを作って自己アピールすることが大切です。
たくさんの人と会った人には、かなわない
どんな業界に行っても必要なのが「情報」です。情報には2つあって、1つは「ニュース」です。新聞や雑誌のニュースは知識としては大事ですが、仕事の上で本当に大事なのは新聞などに載る前の「生の情報」です。この「生情報」は、その人がどれだけ多くの人と会うかで決まります。そのような意味で「たくさんの人に会った人には絶対にかなわない」というのが、長年仕事をしてきた中で得た私の結論です。つぎは「トップセールスのための3つのワーク」です。私が若いころ大事だったのは、とにかく「フットワーク」でした。どれだけ、足繁くお客さんのところに通えるかで、売れた時代だったんです。それから、ワープロやパソコンが入ってきて必要になったのが「ヘッドワーク」、企画力です。そして、今一番大事なのは「ネットワーク」、ずばり「人脈」です。先ほども言いましたが、最後はネットワークを持っている人にはかないません。これから社会人になるという人は、とにかく人脈を作ることが重要です。
新規開拓した、過去の成功例
続いて、プロの新規開拓作戦について過去の成功例に学んでみましょう。「トータル販売作戦」とは、単独でモノを売るのではなくトータルで提案するということです。たとえば「TOTOの浴槽販売作戦」です。トイレ設備でトップシェアとなり、つぎに浴槽を売りたいと考えたTOTOは、浴槽単体ではなくトータルで「浴室」を提案しました。お風呂でゆっくりとリラックスするという新しい時代のライフスタイルを含めた価値を提案をするなかで、浴槽を売ったんです。また、「3PL」(Third Party Logistics)とは、私の業界の用語ですが、メーカーが倉庫へ、その倉庫からまた別の倉庫へ、そして倉庫からお客さんのところに別々の運送業者が運ぶのではなく、包括して物流業務を受託するという仕組みです。個々に契約していた時より安くなるメリットもあります。現在、倉庫や運送の業種では、この3PLの時代ですので、このような業界に進む方は覚えていてください。
営業の掟、仕事人の掟
お客さまからクレームがあった時に「理屈ぬきで頭を下げる覚悟があるか」、これは営業マンだけでなくすべてのビジネスマンにとって守るべき掟のひとつです。札幌通運でも事故が起きてお客さまの商品に傷がつき謝りに行くことがありますが、お客さんの前で言い訳をしてしまう人がいる。これは絶対にダメです。実際は自社に非が無いこともありますが、それでもまずは頭を下げて謝らなければなりません。お客さんはカッカしています。とにかく「申し訳ありません」と謝って、その場を収めることが大事です。そうしているうちに、相手もだんだん冷静になって収まってきます。カッカしているときに理屈なんか言っても、ダメなんです。
社会人になる皆さんに期待すること
なによりもみなさんに伝えたいメッセージは「企業活性化の一翼を担え」です。企業にとっては、どれだけ経営意識の高い社員がいるかというのが大事です。ミッション(使命感)、パッション(情熱)、アクション(行動)の3つを持っている社員は、経営者が最も求める人材だし、当然そのような人は社会人として成功します。高度成長時代に流行った「業績魂」という言葉が最近また注目されています。これは「自分の進化・貢献を、業績という目に見えるエビデンスで証明しよう」という意味です。実は当たり前のことなのですが、ビジネスにおいては「業績がすべての判断の基準」なのであり,業績こそが企業にとって唯一の動力なのです。そして、業績魂に徹することは決して人間らしさを捨てることではありません。自分の存在価値を認めてもらうのが、ビジネスマンの一番の生きがいです。そのためには、やはり利益をあげることです。
仕事ができる人とは
例えば「上司の評価を気にする人」は仕事ができるかできないか、みなさんはどう思いますか。組織のなかで自分を評価するのは上司であり、上司に評価されることが社内で評価されることの第一歩だということを忘れてはなりません。
自己実現の手段としても、出世しないとできないことがたくさんあります。私が支店長だった時、ビッグバンの流れのなかで、ある新しい制度を提案したんですが、役員会では「ちょっと早い」という理由で否決されました。その時に「俺は役員になりたい」と心から思いました。役員であれば、決められるんです。そうやって自分のやりたいことをできれば、ビジネスマンにとって生きがいを生みます。
また、減点主義の人と加点主義の人、どちらが仕事ができるか。日本は今まで減点主義でした。だから、減点・失敗を恐れてチャレンジをしない。でも、これからは企業全体が加点主義です。いつも新入社員に言うことですが、なぜあなた達を採用したか? 即戦力というなら、どこか別の物流業界から引き抜いたほうが早いんです。でも、新しい人のセンスや感性が欲しい、だからどんどんチャレンジしなさいと言っています。
最後に、「器量以上の仕事は出来ない」というのが、長い間、僕の座右の銘になっています。100の仕事をやるには、100の人間力がないとできません。では、どうやって100の器量を持つか、これは先ほどから何度も言っていますが、どれだけ多くの人に会って、そこから学ぶかです。知識は大事ですが、机の上で勉強するだけでは器量はもてません。どうか、器量や度量を大きくして、小樽商大のみなさんが社会で活躍することを心から期待しています。