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エバーグリーンからのお知らせ

2015.01.21

平成26年度第11回講義:「Collective Intelligence (集合知)による新しい天気予報」

講義概要

○講 師:西 祐一郎 氏(平成2年卒)
○現職等:(株)ウェザーニューズ iCorner グループリーダー
○題 目:「Collective Intelligence (集合知)による新しい天気予報」

○内 容:
2008年8月5日、東京都豊島区で下水道工事をしていた作業員が、突発的な降水による増水によって流され、亡くなられるという痛ましい事故がありました。
近年では、ゲリラ雷雨などとして流行語にまでなる都市型水害ですが、現代科学をもってしても、メソスケール以下での気象予測は難しいとされ、対策が遅れているのが現状です。

ウェザーニューズでは、この問題に対してどのように対応策をとったのか。

ビッグデータ等とよばれる、情報科学の応用として気象予測の精度を向上させる取り組み、また異常気象というキーワードが日常的に使われるようになった現在において、被害を減らすために考えなければならないことについて説明していきたいと思います。

  • 講師紹介

小樽市出身。平成2年商業学科卒業後、ソフト開発会社である株式会社シーエスケーに入社。平成4年に株式会社ウェザーニューズ社へ転職。平成13年に、同社の常務取締役を務める。平成18年からはグループリーダーとなり、現在に至る。

 

プログラム開発に夢中だった学生時代

 

私は小樽生まれで、大学まではずっと小樽にいました。大学時代の半分は、学内の「計算機センター」というところでプログラムを書いて過ごし、夏休み中に作ったプログラムを先生に見せたら、「もう単位をやるから、授業に出なくていい」と言われたくらい、プログラミングに夢中な学生でした。文科系大学出身ということも気にせず、シーエスケーというソフト会社に入ったのですが、入社後に景気が悪くなり、同期がどんどんと辞めていきました。そんな先行き不安な時に、すでにシーエスケーからウェザーニューズ社に転職していた先輩から誘われ、社長と会ったことがきっかけで、私もウェザーニューズ社に入社することになりました。

 

ウェザーニューズ社の成り立ち

 

ウェザーニューズ社は1986年創業です。来年で30年になり、東証一部上場、社員は700名ほどの企業に成長しました。現在、売り上げの半分は「B to B」(Business to Business)という法人向けサービスで、もう半分は「B to S」(Business to Supporter)という個人向けサービスです。元々、創業者の石橋博良は、商社マンとして材木の輸入を行っていました。ある時、彼が手配した船が爆弾低気圧にあって沈んでしまい、多くの船員が亡くなってしまうという事故が起こったのです。その際、「もうこんなことがあってはならない。船乗りの命を守りたい」という使命感を持った彼は、気象会社のウェザーニューズ社を作りました。

 

気象データを活用している例

 

船に限らず、気象のリスクは私たちの身の回りの、いろいろな業種や局面で影響を及ぼしています。それに対し、我々はそれぞれのマーケットごとに気象のリスクを細分化して定義し、適用しています。船を例にとると、安全面以外にも燃料を節約するために海流に乗っていくほうがいいなどの提案ができます。高速道路の除雪作業をするのにも、一番いいタイミングで何回除雪するのが効率がいいのか、融雪剤はどのくらい撒いたらいいかなど、気象データを元にお客様にご提案します。また、コンビニエンスストアなどは、気温が高ければ清涼飲料水を増やす、気温が低ければ肉まんを増やす、など3日後の天気で発注量を決めますが、その際にわが社の気象データを活用していただいています。

 

B to Bにおける10の基本的価値とは

 

わが社は、これらを10の「基本的な価値」として定義しています。まずは、船が転覆しない、建物が崩壊しないといった「Safety(安全性)」。その安全が確保された上で、船が目的地に早く着くために、できる限り最短距離で行くにはどうしたらいいかという「Performance Management(パフォーマンス管理)」や、必ずしも早く行くことだけではなく、早く行き過ぎて待つことのないようにという「Scheduling(段取り)」も大事です。「Comfort(快適)」は、飛行機に乗った際のドリンクサービス時に、航路上で揺れるタイミングを予測しておき、その時間をずらすというようなことです。他にもありますが、このような基本的価値を定義して、法人向けにサービスをしています。それぞれの仕事に対して気象のリスクがあるので、このBtoBは「問題解決型」と言えます。

 

B to Sは感動共有型

 

一方、個人であれば、いちいち行動の際にリスクとコストを考えたりしません。たとえば、私たちは傘を持たずに出かける時に、雨で濡れた服のクリーニング代や傘を買った時のコストを最初から計算して行動しません。ですから、BtoSと呼んでいる個人に向けたサービスは、単に問題を解決するというだけではなく、「感動共有型」と呼んでいます。リスク回避に加え、そこに喜びや楽しみを一緒に見出せるような情報共有の仕方をしましょう、ということです。

最近は環境問題についての関心も高くなっています。地球規模では干ばつや洪水があり、また東日本大震災でも津波による大被害がありました。そこで、ウェザーニューズでは「地震津波の会」というスマートフォン向けアプリを作りました。我が社以外にも、同じような情報提供アプリはありますが、東日本大震災の時には各社のサーバーがパンクし、必要な情報が伝達できなかったということがありました。これは、前段で述べた船乗りに情報が届かなかったのと同じ状況で、由々しき問題です。この「地震津波の会」は有料で会員登録してもらい、その料金すべてをサーバーの投資に回しています。地震と津波の情報を確実に伝えることができるよう最大限の努力をし、定期的に届いているかどうかのチェックもしています。

 

緊急時に、本当に使えるシステムにするには

 

シリアスなことだけではなく、「流星見えるかなマップ」という楽しいサービスも行っています。流星群が見えるというタイミングで全国7か所くらいに中継班が飛びます。私も先日、帯広に流星を中継しに行きました。さらに、天気会社なのにも関わらず「ソラウタ」という歌を作っています。四季に梅雨の時期をプラスした5つの季節の曲を作ってアルバムにしたり、ライブも開催したりしています。すでに、熱狂的なファンの方もいて嬉しい限りです。

(新聞記事を見せながら)これは、2008年に豊島区で起きたゲリラ雷雨で、下水道工事をしていた方が亡くなってしまったという記事です。こういうシリアスな話はとても大事なのですが、深刻な話だけしていても、肝心の「その時」に機能しないんです。たとえば、私は震災の時に使える「災害用伝言ダイヤル」の使い方がわかりません。なぜなら、災害の時しか見ないし、普段使えるものではないので練習ができないからです。これはとても重要なポイントですが、緊急時しか機能しないものは、「緊急時も」使えないんです。ウェザーニューズ社では、普段から使えるものを作りたくて、歌を作ったり流星を追っかけたりしています。

 

 

5.6万人の「ゲリラ雷雨防衛隊」

 

ゲリラ雷雨というのは、1キロ~10キロ四方に突然湧き上がる雲が10分程で急速に成長して起こるもので、現在の技術では予測が難しいと言われています。ただ、今の技術ではこれで限界だからとあきらめるのではなく、コンピューターで予測ができないのなら、「人」で予測しようと考えました。たくさんの人たちの目で空を監視してもらうということです。

まず、この時間のこの辺りがゲリラ雷雨が起こりそうと予測したら、そのエリアの「ゲリラ雷雨防衛隊」である一般の方々に連絡し、監視モードに入ってもらいます。防衛隊が「あの雲が怪しい」と思ったらどんどん写真を送ってもらい、予報技術者がその情報を逐一見て、いよいよと思ったら警報的な意味合いの「ゲリラ雷雨メール」を送ります。このメールは、ゲリラ雷雨防衛隊以外にも、ウェザーニューズの会員登録をしている全員に送っています。

昨年は、全国で約5.6万人の防衛隊員に登録してもらい、ゲリラ雷雨発生の56分前には通知ができました。気象庁がつけた観測機アメダスは全国に1300か所あり、そのうち500か所は雨しか観測していません。わが社も独自の観測機として3000か所設置していますが、それをはるかに上回る5万人以上の方が参加してくれているんです。

 

グローバルアプリ「Sunny Comb」とは

 

さらに、我々の新たなチャレンジとして、グローバルアプリ「Sunny Comb」を昨年リリースしました。中国、韓国、アメリカ、ヨーロッパのユーザーが多く、アップされた空などの写真に対してコメントしながら、交流できるようになっています。

たとえばニューヨークに住んでいる我が社の取締役が青空の写真をアップした際に、中国の方から「素晴らしい青空で憧れます!」というコメントがつきました。中国は大気汚染があるので、青空に対するコメントを書く方がすごく多いんです。わが社の人間が「この青空をみんなで共有しましょう!」と書いたら、さらにそのコメントに対し「私も、自分の周りの環境改善から取り組みたいと思います」と中国の方が書き込みました。よくPM2.5などの記事があると、中国が悪いという論調になりがちですが、そういう見方だけではないということを伝えたい。空は全部つながっているのだから、こういうアプリを使って世界平和もできるんじゃないかと、私は勝手に思っています。

アメリカの作家マーク・トゥエインが「みんな誰でも天気のことは話題にするが、誰もその天気について何かしようとはしないね」ということを言いました。ウェザーニューズでは、「いや、我々は今、こういう取り組みを通じて何かできるかもしれない」と思いながら業務を行い、サービスを提供しているんです。

 

 

<質疑抜粋>

 

担当教員から

 

Q.競合他社の中で、ウェザーニューズ社の強みがあればお聞かせください。

 

A.最大の強みだと思うのは、やはり多くのサポーターを抱えているということです。

 

「ウェザーニュースタッチ」というアプリがありますが、累計で2000万ダウンロードされています。気象分野のアプリでは、世界でもトップクラスのダウンロード数です。この数は累計ではあるものの、これほどのサポーターたちが参加してくれて、そのコミュニティを持っているというところが最大の強みだと思います。

 

1年生男子

 

Q.サービスを行う上でのコンセプトなどはありますか?

 

A.「自助・共助・公助」というのがあります。自治体が行う防災対策は公助であり、必要なものではありますが、最終的に一人一人のところまで行き渡らないことがあります。一方、自助は自分自身を助けるために正しい知識や情報を手に入れていこうという発想です。共助はそれを家族や仲間と共に広げる、ということです。我々は防災より、「減災」という視点に立ち、少しでも災害を減らすために何ができるかと考えています。

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