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エバーグリーンからのお知らせ

2015.11.25

平成27年度第7回講義:「外食産業における安全安心の保証への取り組み」

講義概要

 

○講師:中村弘治氏(昭和52年 商学部商業学科卒業)

 

○現職等:株式会社イオンイーハート 代表取締役社長

 

○題目:「外食産業における安全安心の保証への取り組み」

 

○内容:外食産業は学生アルバイトの依存度が高く、皆さんにも身近な産業でしょう。しかし就職採用市場では「苦戦組」に分類されています。この業界は労働集約型産業であり、社員の能力次第で業績が左右され参入障壁も低いため、立身伝となる起業家を輩出する産業でもあります。

 

外食産業における重要な考え方に「 QSCA」(Quality,Service,Cleanliness,Atmosphere)があり、この向上こそがお客さまの満足の最大化と差別化につながります。外食産業の大前提である「安全安心を保証する」ための取組みを通してこの仕事のやりがいや人間臭さを理解してもらい、外食産業への興味や関心を高めてほしいと思います。

 

講師紹介

 

1954年兵庫県西宮市生まれ。1973年兵庫県立西宮高等学校卒業。1977年小樽商科大学商学部商業学科卒業。同年ジャスコ株式会社(現イオン株式会社)入社。野々市店(石川県)、東京本社配属ののち、全ジャスコ労働組合(現イオンワーカーズユニオン)専従関東ブロック議長。1990年株式会社グルメドール(現イオンイーハート)管理部次長、2003年同社取締役就任(経理財務部長)、2011年同社代表取締役社長就任。

 

外食産業のアウトライン

 

外食産業とは、当社のようなレストランや、ホテルなどの宿泊施設で提供する営業給食、そして学校・病院などでの集団給食や、喫茶店・居酒屋のように飲料中心に提供する料飲部門をすべて合わせたものです。全体の市場規模は、2014年で24兆4千億円ほど。これは1997年の29兆円をピークに年々減少していて、2011年に底を打ったものの、2014年ではピークから2割ほど下がった数字になっています。

外食に対して、家庭で素材から調理する食事を「内食」と呼びます。この市場規模は2013年で38兆1千億円。さらに、弁当や惣菜、テイクアウトの調理商品が「中食」です。こちらの規模は6兆5千億円。このふたつは、高齢化がますます進んでいることや単身世帯の増加、さらに可処分所得の低下傾向が続いていることを背景に、大きな減少もなく堅調に推移しています。

 

ではほかの産業との比較ではどうでしょう。2014年の数字では、自動車の62兆円、建設51.3兆円、医療40.1兆円、不動産37兆円などには及びませんが、物流、電力、銀行、電気通信などを上回る規模となっています。企業別で見ると、第1位が日本マクドナルドの4千4百億円、第2位のゼンショーホールディングスが4千億円(日経MJ新聞「日本の飲食業調査」2014年)。当社は103位の164億円。トップとは桁違いですが、当社ならではの特色のある事業を展開しています。

 

(株)イオンイーハートとは

 

(株)イオンイーハートは、イオン100%の子会社として1964年7月に創業しました。グループ内の飲食企業との2度の合併と店舗リストラを経て、現在、44都府県のイオン系SC(ショッピングセンター)を中心に304店舗を展開しています。残念ながら現在は北海道での展開はありません。正社員は230名で、パートタイマー・アルバイトを入れると4千5百名ほどの規模になります。50年を超える歴史の中では、最大で550店舗と50を越す屋号を展開した時期もありました。現在はSCや駅ビルのインショップ型の飲食店やフードコートに、和食を中心に屋号を統合して、「四六時中」「海の穂まれ」「麦の香」といった屋号で営業しています。

 

 

外食産業の基本、「QSCA」

 

外食産業には、Quality(品質)、Service(サービス)、Cleanliness(クリンリネス)、Atmosphere(雰囲気)という4つの価値観があり、頭文字をとって「QSCA」と呼んでいます。

 

クオリティでは、なんといってもおいしく質の高い料理を提供することが求められます。また、いつどんな時に食べに行っても同じ味であることも重要です。

 

次にサービス。お客さまの満足度を左右する重要な要素として、従業員の態度や適切なオペレーション、臨機応変な対応といったサービスがあげられます。実現のためには、しっかりした従業員教育と、従業員の意欲が重要です。

 

そして3つめに、店内の清潔度をあらわすクリンリネス。どんなに料理がおいしくても店内環境によって満足度は大きく変わります。また、初めての飲食店を選ぶ基準は見た目や雰囲気などから感じられる「清潔感」であることが多く、クリンリネスが徹底されていなければ新規のお客さまの獲得も難しくなってしまいます。

 

そして4つめは、アトモスフェア。店の雰囲気です。お客さまはただ料理をお召し上がりに来られているのではなく、その空間と時間の総体を楽しみに来られているのです。そのための演出や環境づくりが重要です。

 

QC(品質管理)におけるクオリティとは、商品の質だけではなく、仕事の質という大きな概念を意味します。QSCAのそれぞれに、仕事の質を高める工夫や役割分担、反省が求められます。

 

すべては安全安心のために

 

外食産業は、製造から販売までが一体となった事業です。

 

近年、期限切れの食肉が使われた事件をはじめ、原材料や産地、メニュー名に誤りがあった事件など、安全安心を揺るがす事件がニュースになったことも記憶にあることでしょう。

 

食材の調達から調理して提供するまでの流れは、「産地」→「加工工場」→「ベンダー倉庫」→「店舗」となります。すべての工程においてもっとも基盤に据えられるのが、「安全」と「安心」です。「安全安心」と「安心安全」—。ふたつはどうちがうでしょうか。

 

食品の安全とは、リスクを科学的、客観的に分析・評価して得られるものです。一方安心とは、心の問題です。企業がいくら努力をしても、お客さまが不安を感じてしまえば安心を与えることはできません。当社では、「安全だから安心していただきたい」という思いを込めて「安全安心」という言葉を使っています。

 

つねに均一均質なおいしさとサービスを提供すること。これも重要なポイントです。そのためには、店舗に納品される一次加工品の割合を高めます。よく外部の方から、外食産業は冷凍品をレンジでチンして出しているだけでしょう、などと言われることもあります。しかし冷凍食品の味や品質は非常に高く、一から料理することと比べると、調理時間や均一均質という点ではとても優れています。一方で刺身類や天ぷらなどは、店舗でつくることで価値を高めます。調理の工程では、訓練を重ねて技能を高めていく努力をつづける必要があります。

 

安全安心を保障する取り組み

 

安全安心をつねに実現させるための取り組みの要点を説明しましょう。

 

まず、半製品や製品を作っていただいている工場の安全性は、当社の生命線です。安全な製品づくりのために、HACCP(ハセップ)という手法があります。これは原料の入荷から製造・出荷までのすべての工程において、あらかじめ危害を予測し、その危害を防止するための重要管理点を特定した上で、ポイントを継続的に監視・記録するシステム。異常が認められたらすぐに対策を取り解決を図ります。

 

またISO22000という国際規格があり、これは、食品を安全に保つための体制づくりに関する規格です。半製品や製品づくりのチェックは、「産地」や「工場」のほかに、「栄養成分」や、メニューブックなどの「販促ツール」といった分野にまで及びます。

チェックは、利害関係のない部署の複数の眼で行います。店舗の現場では、キッチンでのカリブレーションチェックという、「人の五感」での確認も行います。さらに、盛り付けを終えた料理をホールに渡す際に、料理がメニューどおりの盛り付けになっているかの目視チェック(ディシャップ)をします。

 

各店舗には日々の清掃と殺菌および洗浄をもれなく行うために、「お約束ノート」を活用しており、事細かに定められた清掃と衛生項目のチェックを行って保管します。ノートには、月間の販売計画やメニュー計画などが事前に記入され、合わせて、日々の客数や労働時間、お客さまからのお申し出内容を記録します。この集積が、翌週や翌年度の営業計画に活用されるのです。

 

ショッピングセンターからのチェック

 

SCは年2回店舗の衛生検査を実施しますが、その事前チェックとして、自社で「外食店舗安全衛生検査事前チェックリスト」をつくり、140項目のチェックを行います。意外かもしれませんが、皆さんが家庭で使われている亀の子タワシ、金属タワシ、セロハンテープなどの厨房内への持込は、異物混入のリスクがあることから、禁止されています。

 

SCからのチェックは点数によってA・B・C・Dの厳しい評価となります。また、SCがテナントをチェックするために、プロの調査会社に依頼して年2回「ミステリーショッパーズ」という覆面調査を行います。これは完全に飛び込みで実施されるため、外部の調査員の客観的評価が下されます。覆面調査では、お客さまが入店しようかどうか迷われているところから、会計をしてお帰りになるまでの従業員の接客対応について、仔細なチェックが行われます。数字の評価以外にコメント欄があり、例えばメニューを見ているときにスタッフがちゃんと自分の方を見てくれていたとか、こちらの希望を踏まえないで店のオススメを強制されたなど、ハッと気づかされることも多く、毎月の会議での改善のポイントとなっています。

 

お客さまからのお申し出

 

当社ではクレームをはじめとしてお客さまからいただくご意見を「お申し出」と呼びます。お申し出は、改善のための絶好の機会です。お申し出をいただいたお客さまに真摯にご対応することでまたのご利用をいただくことが、私たちの喜びであり仕事の醍醐味だと思います。

 

当社が自信をもって使用していた福島県会津産コシヒカリは、2011年の東日本大震災の原発事故により、大きな風評被害を受けました。私たちはお客さまへご提供する米の放射線量を全袋測定し、安全をしっかりと確認した上でご提供を続けました。しかしお客さまからは、ご心配からのお問い合わせや、お叱りをいただくこともありました。

 

そこで私たちは、産地である会津の行政・生産者の方々とともに会津産コシヒカリの安全とおいしさを訴え続けたいと考えました。そのためには、単なる知識で安全性を訴えるだけでは不十分です。毎年、取扱い店舗の店長・社員は、実際に田植え・草取り・稲刈りの農業研修に参加して、お客さまにご提供するごはんが安全であることを、自らの体験を通して自信を持ってお伝えし、販売できるようにしています。

 

安全な料理を提供することはもちろんですが、その料理を作り、お客さまのお席に笑顔で配膳する従業員のサービス、おもてなしがあってこそお客さまは安心してお食事を楽しんでくださいます。「また来るね!」とおっしゃっていただける常連さまとの人間らしいおつきあいが、私たちのかけがえのない財産となります。

 

<質問>担当教員より

 

Q 人口減がつづく高齢社会の日本において、国民全体の胃袋が小さくなっているという言い方もされます。外食産業全般の将来像はどのように描けるでしょうか?

 

A 人口減の逆風は不可避の問題です。しかし専業主婦の比率が減り続け女性もふつうに働く時代になっていますから、大きくとらえれば外食の機会は、増えこそすれ減ることはないでしょう。内食、中食、外食の構成比の変化は、外食に追い風を当てることにつながっていくと思います。

 

<質問>学生より

 

Q 中食産業への対抗策は?

 

A その場で作ることのシズル感たっぷりのおいしさや、心をこめたおもてなしなど、中食では味わえないことを提供する。これに尽きます。テイクアウトが前提の中食には、ある程度の時間保存させるための処理も必要ですが、私たちにはそれは不要です。

 

Q アルバイトやパート従業員が人材難と聞いています。人を集めること、育てることで重視していることは?

 

A アルバイトの人材難がつのる中京地区や、大型SC開店に伴い大量募集が行われる場合では、一定期間、時給を1500円で募集して人員をなんとか確保したこともありました。しかし時給のアップには限界があります。アルバイトやパートの皆さんには、飲食・サービス業に興味を持って取り組みたいと思う人もいれば、条件面でたまたま気に入ったから働く人まで、さまざまな方がいます。均一に会社の理念や理想を押しつけることはしません。一人一人の個性や長所をできるだけ伸ばすことが、その人と会社両方のメリットになると考えています。

 

Q 社長業のやりがい、心がけていることは?

 

A 外食チェーンには、一代で大きなグループを作り上げた立志伝中の人物が数多くいらっしゃいます。しかし私のこれまでのキャリアは、財務経理畑や組合専従といった管理部門が中心でした。その意味でいわゆる「外食のプロフェッショナル」ではありません。ですからできることとできないことにはっきりと線引きをして、各分野のスペシャリストにのびのび仕事をできる環境を整えることが大切だと考えています。

 

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