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エバーグリーンからのお知らせ

2016.12.21

平成28年度第10回 : 「同族経営は問題なのか 〜企業というものを考える〜」

概要

 

○講師:櫻庭 秀和 氏 (昭和52年卒/ミツワ電機株式会社取締役)

 

○題目:「同族経営は問題なのか 〜企業というものを考える〜」

 

○内容:「昭和シェル石油と出光興産との経営統合に対する創業家の反対」、あるいは「大塚家具の父親と娘の確執」や「大王製紙のカジノ問題」など、近年同族経営をめぐる問題が話題となった。また一方で、「同族経営だからできる」といった切り口から同族経営擁護論を特集する雑誌もある。

 

私は、財閥系銀行に勤務した26年間に多くの企業の方々と接することができた。そして電設資材の総合商社ミツワ電機(同族経営)に勤務して14年。現在役員として経営に関与している。 こうした経験から、同族経営のあらましに加えて、「日本の企業構成の把握とその特色」や、「同族と非同族、上場と非上場」といった事柄を説明したい。また、「企業の存在意義や企業の所有(会社は誰のものなのか)」、「今抱えている問題」といった観点からも企業について考えてみたい。

 

銀座の銀行に3人の同窓支店長がいた時代

 

まず自己紹介がてら私の仕事のあゆみについてお話します。生まれは秋田で、1977年3月に商大を卒業すると、三井銀行(複数の合併を経て現・三井住友銀行)に入りました。ゼミの仲間もだいたい金融の世界に行きました。最初に配属されたのは日本橋(東京)の掘留支店です。西の船場、東の掘留と呼ばれるような糸偏のまち(繊維街)で、窓口、外国為替、融資の仕事をしました。当時は繊維不況で、倒産多発地帯支店といわれるほどの支店でした。最初のこの支店でその後のベースになるいろいろな経験をしましたが、ある上司に、「1㍍のものを計るには30㌢のものさしを重ねてもダメだ。自分が1㍍以上にならなければ正しく計れないんだぞ」と言われました。いまでも忘れない含蓄のある教えです。
掘留のあとは本店で、商社などの大企業が顧客でした。外国為替管理法といった厳しい法律の網の目をかいくぐっていかに自由な貿易ビジネスを広げていくか。そんなことと日夜真剣に取り組んでいる商社マンたちとの出会いでした。そのあとは、兜町のとなりにある日本橋東支店。ここは証券会社との取引を一手に担う支店で、4人で全ての証券会社を担当しました。それまでとはまた全くちがう世界でした。それから本店にもどり、国鉄の分割民営化に対応するチームに入り、今度は公金の世界を経験します。民営化後は、そのままJR東日本の担当になりました。
 

1990年に三井銀行が太陽神戸銀行と合併して(太陽神戸三井銀行、のちのさくら銀行)、三井銀行から100人が神戸本部(太陽神戸銀行の本店)に移ったのですが、私もそのうちのひとりでした。合併後は、さまざまな局面で企業文化のちがいを認識させられました。それから東大阪支店の次長になりましたが、ここは日本一中小企業の多いまちで、なにせ河内音頭の河内ですから、厳しい(うるさい)オーナー経営者の皆さんからたくさんのことを学びました。
少し省略しますが、2000年代に入ってさくら銀行は住友銀行と合併します。共に財閥系ですが、のれんの文化がかなりちがう三井と住友の合併は大きなニュースになりました。当時私は銀座支店長でしたが、UFJ銀行、みずほ銀行の銀座支店長は、ともに小樽商大の先輩でした。
同窓として、なかなか壮観なことでした。
そのあと現在のミツワ電機(株)に移りました。49歳のときです。キャリアからいって、ほとんどの銀行員はこのころから外に出て、もう銀行には戻りません。私は銀行の関連会社ではなく、全くちがう業種の企業に行きたいと考えていました。新しい世界で自分の価値を新たに作り出していきたいと思ったからです。現在勤めているミツワ電機は、電設資材の総合商社です。
 
ここから本題に入りましょう。日本にいくつくらい会社があるかご存知でしょうか。最新の中小企業白書によれば、約382万社です。うち大企業が1万1千社で、そのうち上場企業が3,531社。そして380万9千社が中小企業。会社数でいえば、日本の会社の99.7%は中小企業です。
さて、では大企業、中小企業の定義は? 大きく捉えれば、中小企業以外が大企業です。
では中小企業の定義は? いくつかの尺度がありますが、卸売業では資本金が1億円以下、従業員100人以下が中小企業。小売業やサービス業では資本金5千万円、従業員50人以下が中小企業と分類されます。また会社法での定義もあります。これによると資本金5億円以上であったり、負債が200億円以上ある会社が大企業です。
ミツワ電機はどちらにも当てはまるので、大企業に分類されます。大企業の中も、証券取引所で株式を公開している上場会社と、公開していない非上場会社があります。株式を公開している会社とは、会社法で「定款に株式の譲渡制限がない会社」です。上場会社のメリットとデメリットを整理してみましょう。メリットとしては、多くの投資家から返済義務のない資金を調達できること。そして社会的な信用も高くなります。
そしてデメリット。これにはまず、財務状況を公開する必要があり、経営を株主に監視されることがあげられます。さらに、四半期ごとに業績を公開する必要があることから、目先の業績を追わざるを得なくなり長期的な視点に立った経営がしづらくなります。
 
また上場会社には、財務状況の公開はもちろん、IR(Investor Relations)も必要です。投資家向け広報ですね。投資家に自社の経営方針や経営・財務の状況、業績の動向などを説明して、自社の価値を良く理解してもらい、投資を呼びかけるのです。投資家には個人も機関投資家もありますから、投資してもらいたいターゲット毎にIRを行っている企業もあります。ミツワ電機は上場していませんが、4年前から銀行向けIRを実施しています。銀行に自社の考えや状況をつねに理解してほしいと願っているからです。
同じように非上場会社のメリットとデメリットを考えてみましょう。メリットは、株主が限られていて長期的な視野で経営ができること。そして財務状況などの公開義務はありません。さらには、買収されるリスクもありません。
一方でデメリットとしては、社会的信用や知名度が上場会社に比べると低くなるでしょう。そして株式市場から調達できないので、資金調達は実質銀行借入に限られてしまいます。資金調達には、投資家からの増資による資金調達と、銀行からの借入による資金調達、または社債の発行という方法があります。現状では、銀行借入の方が資金調達コストは安くなります。ただし、銀行借入を円滑に低コストで行うためには、銀行が実施している債務者格付(信用格付)が良好であることが欠かせません。
 
銀行の債務者格付(信用格付)について説明しましょう。これには「定量項目」と「定性項目」があります。定量項目とは、B/S(貸借対照表)やP/L(損益計算書)など決算の数字。「定性項目」とは、経営者の資質や会社の体制、内部統制の状況、財務内容の開示状況といった事柄です。各銀行には独自の格付けがあり、その目安をウェブサイトで公開しています。とても探しづらいところに置いているようですが(笑)。例えばSMBC(三井住友銀行)の場合は、「正常先」がJ1〜J6の6段階。MUFG(三菱東京UFJ)では1〜9の9段階という具合です。スライドにあるように、SMBCのJ1は「債務履行の確実性は極めて高い水準にある」というもの。
同じ正常先ですがこれがJ5になると「債務履行の確実性は当面問題ないが、先行き十分とは言えず、景気動向、業界環境が変化した場合、その影響を受ける可能性がある」とネガティブな要素が出てきて、J6になると、「債務履行は現在問題ないが、業況、財務内容に不安な要素があり、将来債務履行に問題が発生する懸念がある」となります。J7は要注意先で、「貸出条件、履行状況に問題、業況低調ないしは不安定、財務内容に問題等、今後の管理に注意を要する」。これが破綻懸念先のJ8では、「現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状況にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる」となります。企業では例えばトヨタ自動車やJR東日本などは最上位に位置づけられているのではないかと思われます。

 

 

同族経営と非同族経営

 

企業を大企業と中小企業、上場企業と非上場企業と分けて見てきました。ここからは「同族経営」と「非同族経営」という分類から見てみましょう。同族経営とは、特定の親族などが支配・経営する組織を指します。近年はよくファミリー企業ともいわれます。
支配とは、創業家の一族が相当数の株式を所有したり、あるいは経営において実質的に主導権を握っていることです。さらにテクニカルに言えば、所有する株式の数と株主総会の決議事項の関係が重要になります。役員の選任や解任などの決議を普通決議といいますが、この決議には、議決権の過半数を有する株主が出席して、その議決権の過半数を持っていることが必要です。さらに会社の合併や解散などの重要な決議を特別決議と言います。特別決議では、議決権の過半数を有する株主が出席して、その議決権の3分の2を持っていることが必要です。3分の2は約66.6%ですから、逆に言えば、34%の株式を持っていると特別決議を否決できるわけです。大企業の合併などをめぐって、こうしたぎりぎりの局面がドラマや経済ニュースになることがしばしばありますね。

 
同族経営のメリットにはどのようなものがあるでしょう。まず、株式買収のリスクが少ないことでしょう。そして長期的な視点で経営を進めることができます。さらに、後継者の育成を計画的に進められる。創業者の理念や思い、哲学の言葉をしっかりと残し続けることができるのです。この世界では、ヘタな息子より娘が良い、などとも言われます。優秀な婿を取る方が、会社の存続を確実にするからです。例えばスズキ自動車の鈴木修会長は「婿」だそうです。2015年に大手家具販売会社の大塚家具で御家騒動がありメディアを賑わせましたが、ここでも創業家の理念や哲学が問題にされました。さて同族経営のデメリットはなんでしょう。後継が長男に限定されると、経営能力のない者が経営者となるリスクが高まります。そして会社や資産の私物化、公私混同を招くことがあります。またトップのまわりに「イエスマン」が多くなって、問題が起きても表面化しないことにつながります。
典型的な例が、大王製紙事件です。上場企業の創業家経営者が、マカオやシンガポールなどのカジノで途轍もない浪費を繰り返し、返済不能となりました。そこで子会社から、正規の手続きを経ずに多額の資金を引き出しました。総額105億円にのぼります。会社に大損害を与えたこの経営者のふるまいは刑事事件に発展して懲役4年の実刑判決が出ました。社内の特別調査委員会は「本人及びその実父(元社長)には絶対服従するという企業風土が根付き、問題発生の基盤となった」と指摘しています。これが外部の調査委員会であったなら、社員が強制されてやむなく命令に従った、ともっと踏み込んだ言葉づかいになったかもしれません。
 
銀行の支店長は2年で異動になります。ですから馬が合わない支店長が来ても、2年がまんすればなんとかなります。ところが同族経営の企業では、トップは何十年もかわりません。上に合わせなければ企業人として生きていけません。こういう会社では往々にして、自分の仕事を囲い込みます。保身のために、自分がいなければ仕事が進まない、という状況を営々と築いていくのです。
ミツワ電機もまた、メリットとデメリットを併せ持った同族経営企業です。他社と同じようにひとりで仕事を囲い込むような状況もありました。今は社内の考え方も大分変わり、そのようなことはありません。またあるとき、住宅部門が新たに取引を始めようと考えている会社があり、意見を求められました。バランスシートを見ると、資産になぜか船舶がありました。トップが趣味のクルーザーを会社の金で買っている可能性が高いと考え、私は取引を止めさせました。はたしてこうした公私混同がまかり通る会社は、その半年後に倒産しました。こういう会社と付き合うと、こちらの信用と評価も落ちてしまいます。さらには、同じようなあやしい企業がたくさん近づいてくるものです。

 

会社は誰のものか

 

銀行はどんな企業に融資するのか。こんな五原則があります。

  1. 公共性・・・健全な社会の発展に役立つもの
  2. 安全性・・・確実に回収できるもの
  3. 収益性・・・リスクに見合った適正利潤を確保すること
  4. 成長性・・・企業の健全な成長に資する融資であること
  5. 流動性・・・反復・継続して行われ資金が流動的に回転すること

これらはつまり、企業は何のために存在するのか、という問いに根ざすものなのです。銀行の新人時代、私はこれを繰り返し教わりました。企業の存在価値は、まず雇用者に給与を払い、納税を行うことにあります。企業は社会の公器として、存続しつづけなければなりません。株主への配当はそのあとに位置づけられます。損益計算書の順番ではそうなっているのです。
私が敬意をいだく経営者のひとりに、ラーメンチェーンのハイデイ日高の神田正会長がいます。会長はこんなことをおっしゃっている。「お客さん、従業員と順番に喜ばせていけば、最後は株主も儲かる」。「法人(会社)が健康でなければ従業員は幸せにはならないが、法人の利益のために従業員を犠牲にするというのは絶対ダメ。両者は共存共栄でなければならない」。「長い目で見たら、ちゃんとバランスが取れるようになっている。だから正しいことを貫いて経営していきたい」。一方でこんな数字があります。日本の企業全382万社のうち黒字の会社は33.6%(H28中小企業白書)。つまりそれ以外、日本の会社の66.4%が国庫に法人税を納めていない。これが実態です。あらためて、「企業は誰のものか」と考えたくなります。

 
現在主流なのは、「企業は株主のもの」という考え方です。 経営者は株主から高い配当や株価の上昇を求められています。そのための代表的な指標が、ROE(Return On Equity・自己資本利益率)。株主による資金である自己資本に対してどれだけのリターン(当期純利益)が生み出されているかを示します。しかしROEには、企業の安全性の指標である自己資本比率と相反する面があり、私はROEばかりを重視する見方には違和感を持っています。非上場企業であるミツワ電機は、「自己資本比率」を重視しています。ROEを上げろという株主からの圧力は、借り入れを増やしてでも利益を上げろということになり、そうすると自己資本比率が下がり、経営の持続的な安定性は下がります。いまの経済の主流はこちらですが、しかし企業は社会の公器であるという考え方からすると、株主の志向であるROE重視の考えばかりにすなおにうなずくことはできません。
 
「企業は社員のもの」という考え方もあります。『海賊と呼ばれた男』という小説と映画のモデルになった出光興産創業者の出光佐三はこう言っています。「資本金はできる限り小さくする。それにより配当を少なくして、利益を給与として社員に還元する」また、家庭用品を製造販売するアイリスオーヤマ(株)は企業理念を次のように掲げています。(一部抜粋)

  1. 会社の目的は永遠に存続すること。いかなる時代環境においても利益の出せる仕組みを確立すること。
  2. 健全な成長を続けることにより社会貢献し、利益の還元と循環を図る。
  3. 働く社員にとって良い会社を目指し、会社が良くなると社員が良くなり、社員が良くなると会社が良くなる仕組みづくり。

そして大山健太郎社長はこう言っています。「上場企業では株主の多くは、儲からなくなれば株を売る。ファンドにいたっては『不採算事業を売れ』と要求してくる。『では働いている従業員はどうなるのだ』、などという問題に彼らの関心はない。アメリカの資本主義は資本家のための価値観であり、社員は将棋の歩にもならないような存在。社員をそんな風にしか扱わない会社が、持続的な成長を続けていけるとは到底思えない」投資ファンドなどは不採算事業への対策としてまずリストラを要求しますが、社員をそんなふうにしか扱わない会社が、より良い社会作りのための力になれるでしょうか。経済ニュースなどでは見えてこない企業のあり方のこうした本質を、皆さんにも考えてほしいと思います。

 

 

直面する後継者不在問題

 

私が現在取締役を務めるミツワ電機(株)のことを話しましょう。ミツワ電機はB to Bの企業なので、扱う商品が皆さんの目にふれることはあまりありません。ビルの壁の中や天井裏に張り巡らされるような電設資材の専門商社です。創業は、小樽商大よりも1年早い1910年(明治43年)。現在創業106年目になります。売上高は、2016年3月期で1,068億円。従業員数937名(グループ従業員数 1,225名)です。創業者は新潟県長岡出身の堀井章夫。事業のほかに学校を創立した、なかなかの人物だったようです。
松下幸之助と出会って親交を深め、草創期の松下電器が東京での地盤を固めるのに大いに力を発揮しました。2代目は長男の秀雄で、彼は会社から学校に通い、慶応大学に通っていた時代に総務部長を務めていました。自宅=会社で、まさに家業ですね。3代目は2代目の長女の夫で、この代ではじめて銀行に人材を要請して、三井銀行の先輩が入りました。個人商店から会社組織への脱皮を志向したのです。3代目は新規事業にも取り組みましたが、本業から離れた分野でもあり、うまくいきませんでした。4代目は、取引の深い松下電工出身の人物で、新商材やメガソーラーにも取り組みました。5代目となる現在の社長は初の生え抜き社員からの就任です。名誉会長は2代目社長夫人で、94歳ですがたいへん元気で、いまも取締役会でするどい質問をされます。

 
三井住友銀行からの入社は私の前にひとりいて、いまは私の下にも三井住友銀行からの社員がひとりいます。企業が銀行から人材を受け入れるのには、まず銀行とのパイプを安定して持ちたいという意向があります。そして銀行由来の公正で客観的なモノの見方が、経営に寄与します。ミツワ電機(株)は電設資材商社の業界2位で、自社生産をしない商社専業としては業界1位です。業界ではメーカーの系列企業が多いのですが、当社はパナソニックを軸に全メーカー製品を扱う独立系。
経営理念では、「紳商たる自覚の下に流通経済を担当し社会に対して新しい価値を創造することこそ、当社の責任であり使命である」とうたっています。紳商とは、社会的倫理に則った品位のある商い、という意味で、大正製薬なども企業理念の中で使っている言葉です。組織は顧客のグループで別れていて、問屋を相手にするルート、電気や通信設備専門の建築会社(サブコンと呼ばれます)のルート、そして電気工事店のルートがあり、そのほか太陽光発電設備などではB to Cの分野もあります。こうした販売体制に加えて、私がいる管理部門があります。
 
私は2009年に経理部長になりました。経理の責任者として私はまず、役員たちにも財務諸表の知識を深めてもらうよう、意識改革を進めました。大企業の幹部には、決算を監査法人などにちゃんと説明できる力が必要だからです。その翌年には50億円をかけた新しい物流センターが竣工しました。大きな投資でしたが、その価値は十分にあったと思います。サラリーマン社長ではしづらい判断だったかもしれません。
2011年3月に東日本大震災があり、当社の商品の需要も高まりました。売上の増加に伴い多額の増加運転資金の発生が見込まれたため、メガ3行に総額70億円の融資を要請しましたが、その時の素早い対応には感謝しています。
また財務体質の改善を進めた結果、2010年と2016年のデータを比較すると、自己資本比率は20.5%が31.3%に上がり、負債の比率は下がりました。粗利益率も10.9%から13.3%に伸びています。
一方で2014年3月には、東京国税局より所得隠しと指摘される事件がありました。サブコンルートでは古い商習慣として、単価がはっきりしないままの受注がありますが、当局は、当社がメーカーに水増し発注をして、支払った代金の一部を環流させて接待費に充てていると指摘したのです。経費の過大計上と所得の仮装隠蔽である、と。このような行為が起こる企業風土や土壌、体制を実質的に放置してきたのは、経営の重大な責任です。現場の社員を守る仕組みが必要だと痛感して、リスクを把握しコントロールするために審査部を作りました。現場の判断だけではなく、ここを通さなければ契約ができないようにしたのです。また外注への注文書の発行ルールを改め、仕入先から「一式」という形式で上がってくる請求書の受取は禁じました。
社員のモラル教育や研修体制も整えました。サブコン相手と問屋相手では、同じ商品を指すにしても言葉が違ったりします。これらの共有も進めました。情報や状況を担当ひとりが囲い込むことを無くしていきました。これらはすべて全く新しいことだったのではじめは軋轢もありましたが、いまでは有効に機能しています。
 
さて、日本の多くの企業はいま、後継者をめぐる問題を抱えています。帝国データバンクが2016年に後継者の実態について分析可能な約29万社を調べたところ、後継者が不在である企業が66%を超えました(19万1千社以上)。この数字は、2011年、14年の調査よりもさらに上昇しています。50代60代の社長の後継者がまだ決まっていないのには理解できるところもありますが、70代80代が社長を務める会社でも4割前後が後継者不在となっています。売り上げ規模の小さな会社ではこれがさらに顕著で、売り上げ1億円未満の会社では実に78%、10億円未満でも68%、100億円未満でも57%が後継者がいません。この数字は、スライドでご覧のように、地域や業種でそれほど大きな違いはありません。全国の多くの業界に共通した問題なのです。
いま日本では、年間に12万5千くらいの法人が新規に立ち上がっています(NPOなど含む)。他方で8,700社くらいが倒産しています。これらの数字に対して後継者不在企業が19万1千社以上ですから、ずいぶん大きな数字です。当社は特に問屋ルートで、たくさんの中小企業と取引をしています。
そういう企業は、まさに後継者不在問題と直面しています。お取引先が後継者不在で立ち行かなくなっては、われわれの商圏が縮小してしまいますし、なにより業界大手としての電設資材の供給責任が果たせなくなってしまいます。問屋企業が廃業しては、その川下にある電気工事会社に商品が届かなくなってしまいます。
そこで私たちは組織的な対応を取ることにしました。電材卸店の事業継承のサポートをするために、ミツワパートナーズという合同会社を立ち上げたのです。代表には当社の社長の滝澤が就きました。企業の存続や継承に関わることは、規模は違えどやはり社長同士で話し合わなければならないからです。この会社は必要に応じて取引先の問屋に出資し、社員の雇用を確保しながら経営指導を行い、事業の継続をサポートします。
 
ここまで、「企業とは何か」をめぐっていろいろなお話をしてきました。どんな大会社も、はじまりはファミリー企業であったと言えるかもしれません。「企業は誰のものか」という問いに、ひとつの答えはないでしょう。企業は株主のものと考える欧米流の答えもあり、社員を家族のように考えるかつての日本的経営の良さもあります。皆さんには、企業のあり方をめぐってこのようにさまざまな考え方があることを意識しながら、企業というものをいろんな角度から考えてみてほしいと思います。

 

 

<櫻庭さんとの質疑応答>

 

Q(担当教員) 銀行員として顧客企業を見ていた時代と、その企業の中枢にいる現在では、ビジネスや経済を見る視座が変わったと思いますが、いかがでしょうか?

 

A 銀行員時代は、時代につれて銀行と企業の関わりは浅くなってきていると感じていました。しかし企業側から見ると、銀行の存在はやはり大きい。また経理部長を務めると、この部分は銀行にはまずわからないだろうな、という数字の領域があることを実感します(笑)。さらには、企業は銀行と、もっと遠慮なく付き合った方が良いと感じました。言うべきことは言い、銀行が求める情報は適切に提供するようなコミュニケーションを日ごろから積み重ねていくことの重要性です。そのことが融資の格付けランクの上昇にもつながります。

 

Q(学生) 大学時代にもっとこうしたことをしておけば良かった、ということがありますか?

 

A 商大時代は私は剣道部で、四段まで昇段しました。智明寮で良い仲間にも恵まれました。その部分では後悔はないのですが、社会人になって実感したのは、学生時代にはなんと自由な時間があったことだろう、ということ。ゼミの伊藤森右衛門学長はよく、いくつになっても古典の文献を毎日10Pでも読め、とおっしゃっていましたが、いざ社会人になってみると、それがどれだけ難しいことなのかを思い知らされました。銀行員になってから、あのたっぷりあった時間でもっと本を読み、もっと勉強をすれば良かった、と心から思いました。皆さんにそこをわかってほしいと思います。

 

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