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エバーグリーンからのお知らせ

2017.12.20

平成29年度第10回講義:「これからの学び方~自尊感情やMIとアクティブラーニングとの関係」

概要

 

○講師:白石友柄氏(平成10年社会情報学科卒/NPO教育支援協会北海道専務理事)

 

○ 題目:「これからの学び方~自尊感情やMIとアクティブラーニングとの関係」

 

○ 内容:新卒で入ったのは学習塾の世界だった。人気講師となってひとつの達成感とともに結婚退職、出産。生活に落ち着きが出たころ、まったくちがう世界に再就職しようとした。でもかなわなかった。そんなときに声を掛けてくれた人たちは、官でも民でもないポジションで地域に根ざし、子どもの教育事業を展開する組織だった。私の経験をもとに、学びへの考え方のヒントになるような講義をしたい。

 

地域に根ざして、学びについて学びたい。気がつけば、地域と子どもに関わる人生

 

私は1994(平成6)年に小樽商科大学に入りました。現在は帯広で、教育支援協会北海道という、教育の事業を行うNPOの専務理事をしています。地域の子どもや両親を支援する学びのコンサルタントのような活動で、具体的には、「地域子ども教室」や「放課後イングリッシュ」、「放課後サイエンス」など、小学生向けの教室を運営しています。
まわりのスタッフは私のことを、「遊びと学びの達人」なんて言ってくれています。というのも、私は「学び」と「遊び」にはあまり区別がないと思っているのです。例えば私はボードゲームが大好きなのですが(「モノポリー」や「カタン」などが有名ですね)、親子でボードゲームを楽しむイベントをすると、そこでいろんな学びが生まれます。ゲームの構造を理解して自分でオリジナルのボードゲームを作ってしまう小学生もいます。
 
私が拠って立つ場所であり方法でもあるNPOという組織について説明しましょう。日本のNPO元年といわれるのが、1995年1月。阪神淡路大震災での、災害支援の市民ボランティアの活動でした。ボランティアの多くは、どうしてもやがて帰らざるをえません。だから継続的な支援活動を行う組織が必要だと考えられ、NPOが法制化されていきました。被災地でのNPOの重要な役割は、人手や物資、お金など必要なものを把握して、各地から寄せられてくるそれらを調整しながら受け渡していく中間支援にあります。
キーワードは、「中間支援」。私たちも、教育の現場の中間支援組織となることを理念として掲げています。ますます高齢化して人口が減りつづけるいまの時代に、厳しい財政事情を抱える行政機関と公務員だけで地域の公共的な営みを動かすのには、無理があります。そこに暮らす人たちみんなが、他人事ではない当事者意識をもって地域を将来の世代に引き渡していかなければなりません。そのために2012(平成22)年、民主党の政権下で「新しい公共」という考え方が打ち出されました。私たちの活動もその文脈の上にあります。Non Profit Organization(非営利組織)という名が語るように、NPOの活動は営利を目的としていません。でも私たちは、単に商売を度外視した料金の安い塾や教育事業を運営しているのとはちがいます。また、行政の下請けでもありません。いっしょに活動している自治体の方々は私たちを、町づくりを担う仲間として考えてくれていると思います。
 
私たちはオリジナルの教育事業を通して、社会が抱えるいろいろな問題を地域の人々といっしょに解決していくというミッションを掲げています。そのためには、課題に取り組む方法がとても重要です。私たちは、「What(何を)ではなく、How(どのように)」にこだわっています。私は2006年、31歳のときに小学校英語指導者資格認定協議会の資格を取りました。小学生のための英語の先生として、放課後に子どもたちに英語を教えるほか、小学校の先生を研修したり、町の土曜学習事業をサポートしたりしています。
また、あとで説明しますが、「だがしや楽校(がっこう)」という事業にも取り組んでいます。私の財産は、お金やモノではなく、まわりのいろんな人です。「白石さんからのお願いは断わらないと決めていました」、とか、「専門分野のアドバイザーとしてプロジェクトに関わってほしい」、と言ってくださる皆さんです。例えば今年(2017年)の夏、地球や惑星を立体的に映し出すダジック・アースというすごい仕掛けを使った特別講座を音更で開いたのですが、これには開発者である京都大学の齊藤昭則先生や、商大の同窓生でいまはJAXA(宇宙航空研究開発機構)に出向している小野清孝君たちの全面的な協力をいただくことができました。
 
でも私の仕事人生がここまで来るには、大きな波(落差)がいろいろありました。そもそも実は、商大は第2志望の大学でした。商大に合格した直後は入学を迷った時期もあったのですが、旅行に出て吹っ切れて、商大生活を楽しもう! と思いました。学業では、山本充先生のゼミで勉強しました。勉強以外では、入学したときやりたいことがいろいろあったので、ひとつの部活に入るのではなく、やりたいことをめいっぱい全部やっちゃおうと思いました。そのために必要なお金を稼ぐために、まずアルバイト(ジーンズショップの販売員など)。そして札幌のアイスホッケーチームのマネージャーになりました。英会話スクールにも通って、大好きなロックバンド、オアシスのいるロンドンに短期留学しましたし、国内のひとり旅も楽しみました。バイトが忙しくて部活ができなかった、という人もいますが、私は、部活はしなかったけれどやりたいことをそれなりにやった、とプラスに考えています。自分の行動のコントローラーはあくまで自分が持っていました。ひとつの同質なコミュニティにいれば、小さな差が気になって自尊の感情って持ちづらいと思います。でもいろんな世代が入り交じっていたバイト先やアイスホッケーチームでの経験は、私は私で良いんだ、と思わせてくれました。この話はあとで繰り返します。
学業では、今思えば、物事の概念を探求したり、俯瞰的にものを見ることが苦手でした。理論よりも実践専門という感じ。でも世の中では、実践と理論立ての両方があって、このふたつがさまざまに繰り返されることが大事なのですね。卒業してから現在まで、そのことを強く感じています。
卒論では、土地の価格と環境財の相関について、多変量解析を使って探求しましたが、そこで使った相関とか因子とかの考え方が今とても役立っています。また、ナレッジマネジメントやゲーム理論といった講義には付いていくのがやっとでしたが、卒業後数年して世の中でそのことが話題になり、先生たちはずいぶん先進的なことを教えてくださっていたのだな、と思いました。第一志望ではなかったところからはじまった私の商大生活ですが、すぐに毎日が楽しくなってテンションがあがり、バイト先やアイスホッケーチームが居心地の良い場所になりました。
 
就職氷河期での就活も、自分の長所短所がわかっていたので賢く動いて内定をバンバンもらい(笑)、練成会グループという学習塾に入りました。赴任地は帯広。職種も職場の水も合って、会長賞を2回もらったり、就活生向けのパンフレットや会社のTVCMに登場しました。6年ほど働いて、「やり切った感」とともに、結婚・妊娠を期に退職。
ところがそれから数年間、私は暗黒の時代に入ってしまいます。専業主婦として子育て生活が落ち着いてきたころ、また働こうと思いました。今度は、まったく新たな分野の事務職がいいな、と思いました。でも面接に行くと、まず経験のなさを指摘され、お子さんが病気のときはどうしますか? などと聞かれます。札幌の実家から離れていますから預ける先もなく、休むほかありません。当然、就職はかなわず。ああ自分は何もできない。自分には何にもないなあ、と落ち込みました。
この間、とりあえず小学校英語指導者資格認定協議会の資格を取りました。
 
ほどなくして、いまいるNPO教育支援協会北海道を手伝ってくれないか、と声がかかりました。うれしかったです。そのとき私は決めました。私のことを認めて求めてくれる人や組織があれば、そのリクエストにしっかり応えていこう、と。それまでつきあいのなかった人が私を求めてくれるのは、私がやってきたことを認めてくれているからです。私はそれまでのキャリアを自分で棚卸ししながら、それを生かそうと思いました。
2年目で本部事務局長になり、3年目で統括事務局長、4年目から専務理事を兼任するようになりました。どん底だった私のテンションとまわりからの評価は、V字回復です(笑)。最初に関わってから11年目。いまは授業の現場は離れて、事務局長の仕事も次の方に引き継ぎました。近年は、ほんとうに私だけができる仕事に全力で取り組もうと心がけています。

 

 

その学びをアウトプットする覚悟はあるか?

 

私がどんな考えに基づいて毎日仕事をしているのかを話します。子どもたちの放課後の活動で一番大切にしたいのは、ひとりひとりの「自尊感情」です。学力や不登校の問題の要因には、子どもが自尊感情を持てなくなっている現状があります。子どもが自分の未来に期待できるかどうかは、自分を自分でポジティブに把握できていることが鍵を握っているのです。
 
自尊感情は、ふたつに分けて考えられます。ひとつは、端的に自分は自分だ、と考えられる「基本的自尊感情」。もうひとつは、まわりから客観的に評価されることで芽生える「社会的自尊感情」。このふたつがバランス良く保たれていると、もしうまくいかない人間関係があっても、この人とはちょっと合わないんだな、と軽く受け流すことができる。
私はソフトクリームに目がないのですが、このふたつはコーンとクリームに例えることができます。カップのコーンが基本的自尊感情で、ソフトクリームが社会的自尊感情。カップより大きなクリームはすぐ崩れてしまいますし、逆もいびつなソフトクリームになってしまいますね。
自尊感情はどのように育むことができるでしょう。子どもは誉めたり励まされることで社会的自尊感情が高まります。ではもうひとつの基本的自尊感情は? 子どもは親から無償の愛を受けます。そして仲間との交遊やスキンシップからいろいろな共感を得ます。大人なら、いろんな価値観とふれあうことで自分は自分なんだと思えてきます。
キーワードは、「価値観の交流」。商大時代私はアイスホッケーチームのマネージャーを務めましたが、チームには中高生から40代までいろんなメンバーがいました。私と同じような人は誰もいません。その中で私は自分の役割を自然に果たしていけたと思います。私は私、私らしくがんばろう、と。
 
近年教育現場では、「アクティブラーニング」という考え方が盛んに唱えられています。辞書的に説明すれば、生徒は先生からの教えをただ受け身で吸収するのではなく、もっと主体的、体験的、対話的に学ぶこと。例えば親子で動物園に行ったとします。子どもはいろんな刺激を受けて自然に動物のマネをしたり、動物の歌を歌ったり、大人になったら飼育員になりたい、などと考えるでしょう。明日図書館で動物の図鑑を調べてみよう、と思うかもしれません。動物園に行って、帰ったあとにもいろんな続きが生まれます。
ウイリアム・グラッサーというアメリカの精神科医が唱えた「学びのピラミッド」という考え方があります(図を投影)。グラッサー博士はあることについて、本を読むだけでは10%くらいしか分からないけれど、これを実際に体験すると理解がぐんと進み、それを人に教えることまですれば、95%くらいまで理解が深まると言います。料理のレシピをただ読むのと、実際に調理しながら人に教えるとの違いですね。
そして注目したいのは、たとえ人に教えるほど理解が深まったとしても、100%完全に理解したとは言えないこと。どんな学びも、これで良しという100%の到達点はないのです。そもそも私たちはなぜ学ぶのでしょう。私はトーマス・ハクスレーというイギリスの生物学者が言った言葉が好きです。それは、「人生の大きな目的は『知識』ではなく『行動』である」、というもの。「学びのピラミッド」でも最高レベルは人に教えるという行動、つまりアウトプットですが、学んだことは自分の頭の中に蓄えておくだけではなく、そのことで何かを作ったり発表するなど、とにかくアウトプットすることが大切なのです。
人は、何かをアウトプットするために学ぶのです。子どものアクティブラーニングのためにも、大人は先走ってはいけません。子どもが自分なりの発見や仮説を自分でアウトプットしながら進んで行くプロセスに、いっしょに寄りそう姿勢が重要です。
さらにそのアウトプットは、一方的な自己表現や自己満足ではなく、これで誰かを幸せにするんだとか、社会の役に立つぞという気持ちがあってはじめて価値を持つと思います。
 
「MI理論」の話をします。MIとは、Multiple Intelligences(さまざまな知能)のことで、アメリカのハワード・ガードナー博士によって提唱された知能の概念です。現在は日本でも特別支援教育で用いられています。この理論では、人間の知能はひとつの物差しで測ることはできないという前提に立ちます。人には大きく分けて8つの知性分類があり、人はみなそれぞれの発達の度合いが異なるのだ、と考えられています。8つとは、「対人的知能」「論理的、数学的知能」「博物学的知能」「視覚空間的知能」「内省的知能」「言語・語学的知能」「身体・運動感覚知能」「音楽的知能」です。人とのコミュニケーションが少し苦手だけれど論理的な思考は得意だ、とか、スポーツや音楽は大好きだけれど動植物への興味(博物学的知能)は湧かない、というふうに、その人が持っている知的能力を多元的に捉えようというわけです。皆さんもこの理論から自分の個性を探究してみると良いと思います。
 
最後に、いま私が取り組んでいる「だがしや楽校」のことにふれます。これは、子どもたちが仕事体験によって子ども通貨を稼いで、それで好きなお菓子を買って楽しもうというイベント。子どもたちが仕事やお金(子ども通貨)の仕組みを通して社会とのつながりに気づいたり、働くことの意味や成果を仲間とシェアする気持ちを育んでもらうという狙いがあります。大人たちは自分の得意を生かしながら子どもたちのために学びの環境を協力し合ってつくっていきますが、彼らもまた、その過程でさまざまな気づきと学びを体験します。(2017年)10月末に広尾町で行ったときのチラシを皆さんに差し上げます。
 
さて私の講義はここまでです。結論を出したり、総括するつもりはありません。まとめちゃったらそこで終わっちゃいますから。皆さんは私の話を、動物園に行った子どもが受ける刺激のひとつのように思ってくれれば良いと思います。学びって、決して完結しないものですからね。私たちはいつも、そんな、ある意味ですっきりしない中で生きています。自分の足で歩きながら、自分なりの光を見つけて進んでいきましょう!

 

<白石友柄さんへの質問>担当教員より
 
Q テンションがどん底になってしまった時代から脱することができたのは、自分を必要とする人がいたから、というお話が印象的でした。子育て時代のそのあたりのことをもう少し教えていただけますか?
 
A 自分の価値って、自分で悶々としている(基本的自尊感情)だけでは生まれません。まわりの人が評価してくれてはじめて現れてくるのですね(社会的自尊感情)。それと、子どもといっしょに外出すると、年配の皆さんがなにかと良くしてくれました。実家から遠いところで子育てしていた新米の母親としては、それがうれしい「発見」でした。子どもは、両親ばかりではなく、地域社会の中で育てられるんだな、と実感したのです。息子が小学生になって、帯広から釧路へひとりでJRで行かせたことがありました。帰ってくると彼は、知らない人からお菓子をたくさんもらったよ、と喜んでいました。物怖じしない私の性格を受け継いでくれて良かったのですが(笑)、地域を作っているのは行政や企業以前に、ふつうの人が地域で営んでいるふつうの暮らしなんだな、とあらためて思います。
 
Q 現在の日本の児童教育は公教育をベースに、営利を求める学習塾や、白石さんたちが動かす非営利の分野も交わっています。昔に比べれば地域のつながりが希薄化している中で、白石さんのNPOの役割はどのようなものとお考えですか?
 
A 私は、地域社会が放課後の小学生を受けとめていくのがいいな、と思います。そのためには教育や福祉の政策の前に、地域の斜めの関係が大切です。斜めの関係とは、親や先生との縦の関係や、友だち同士の横の関係でもない、地域の大人と子どもの関わりです。子どもは、同調圧力の強い公教育の閉鎖的な空間からときには離れて、少しでも多くのいろんな大人にふれた方が良いでしょう。私たちのNPOはその文脈で機能して、英語教育などで小学校の先生との協働にも取り組んでいます。こうした動きは、札幌などの都市圏よりも、自由度が広い町村での方がスムーズに運ぶようです。
 
<白石友柄さんへの質問>学生より
 
Q 白石さんのように外交的でいろんな人とのびのびとコミュニケーションできる人にあこがれます。そういう資質のない私がどうしたらそうなれるでしょう?
 
A 人の個性は簡単には変えられません。だから無理して自分を変えようとせず、あなたは外交的でコミュニケーションが得意な人とつきあえば良いのです。自分を補ってくれる人を大事にしましょう。コミュニケーションが得意な人は、あなたのような人と付き合うことも好きでしょうし、その人にとっても、あなたとのつきあいが有益なものとなるはずです。
 
Q オススメのボードゲームは何ですか?
 
A 私が好きなのは、「スコットランドヤード」というゲームです。ロンドンを舞台に、逃げまわる怪盗をスコットランドヤードの刑事たちが追い詰めるゲームです。老若男女問わずに遊べますし、ボードゲームにはプレイヤーの性格がよく現れるものですが、これはその典型ですよ(笑)。

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