2021.05.20
コロナ禍における小樽商科大学のオンライン授業と成績
はじめに
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行拡大にともない、大学の教育活動も多大な影響を受けています。2020年度は多くの大学で感染拡大を防止する観点から対面での授業をとりやめ、何らかのかたちで授業をオンライン化せざるを得ませんでした。小樽商科大学においても前期はすべての科目を対象に、後期は一部の科目を除いた大部分で授業をオンラインで実施することになりました。今回のオンライン授業は感染症の流行にともなう緊急避難的なもので、十分な準備を行う時間や体制が整わない中で、教員や学生、事務局が試行錯誤を行いながら授業を行いました。
2020年度を振り返ると、当初は多少の混乱も生じましたが全体としては大きな問題がなく授業を実施することができました。しかし、十分な準備期間がないままに授業方法を大きく変更せざるを得なかったため、教育効果や質については十分に検証しておく必要があります。小樽商科大学では学生アンケートや教員アンケート、成績、LMS(Learning Management System)の利用状況をはじめ様々な観点から検証を進めていますが、ここでは教学IR室が2020年度の成績分布について分析した取り組み事例を紹介します。
2020年度の成績分布
学生が授業で学習した成果は、成績に端的に表れます。オンライン授業への変更にともなって内容等が若干変更された科目もありますが、基本的にはこれまでと同じ内容で授業が実施されています。そこでここでは2020年度と平常授業が行われていた直近の過去2年度分の商学部のGPAの分布を学年ごとに比較しました。
図1は、各学年の年度ごとのGPAの分布をヒストグラムで示したものです。また図2は、同じデータを「箱ひげ図」でも示しています。箱ひげ図はその名の通り「箱」から「ひげ」が伸びた形でデータの分布を表現しています。箱の右端はデータの中で順位が上から25%にあたる人、箱の左端は順位が75%にあたる人のGPAを示しています。また箱の中にある線は、順位がちょうど真ん中になる人のGPAの値、つまり中央値を示しています。箱から伸びた左右の線は、それぞれの先端が最大値と最小値を示しています。ただし、箱の端から箱の左右の長さの1.5倍以上離れたデータについては除外され、外れ値として別に点で示されています。二つの図は同じデータから作成されていますが、捉えることができる分布の特徴が異なりますので、合わせて見ることでより詳細にデータ分布を把握することができます。
1年生 | 2年生 | 3年生 | |||||||
年度 | 平均 | 中央値 | 標準偏差 | 平均 | 中央値 | 標準偏差 | 平均 | 中央値 | 標準偏差 |
2018年度 | 2.61 | 2.70 | 0.64 | 2.15 | 2.23 | 0.83 | 2.14 | 2.15 | 0.77 |
2019年度 | 2.62 | 2.73 | 0.63 | 2.15 | 2.22 | 0.81 | 2.13 | 2.21 | 0.87 |
2020年度 | 2.87 | 3.04 | 0.66 | 2.54 | 2.70 | 0.78 | 2.41 | 2.49 | 0.77 |
図1および図2から、2020年度はいずれの学年においてもデータの分布の位置が全体的に右側にシフトしており、GPAが普段よりも高くなっていることが読み取れます。授業方法以外に大きな変更は行われていないことから、このような変化はオンライン授業による影響だと考えられます。しかし、数値上は普段よりも成績が向上したからといって、直ちに教育効果や到達水準が向上したとか、授業の質が高まったと結論付けることはもちろんできません。オンライン授業によって例年通りに定期試験が実施できないため成績評価の方法を変更せざるをえなかったり、学生とのコミュニケーションの方法が普段とは異なることなどから、成績評価を行う教員側の基準にも「揺らぎ」が生じた可能性もあります。本来であれば、授業方法が変更されても成績評価の基準は一定であるべきですが、今回のオンライン授業は十分に準備する期間がないままに実施されており、この点も検証しておかなければなりません。
教員向けアンケート
そこで本学ではこの点を検証するために、非常勤の教員も含めて2020年度に授業を担当したすべての教員を対象にオンライン授業と成績評価に関するアンケート調査を実施しました。調査は2021年4月に実施し、対象となる193名の教員のうち69.4%にあたる134名から回答が得られました。主な調査項目は、成績評価基準の変化や実際につけた成績、学生の到達度や学習状況に対する印象などです。
成績評価の基準
まず自身の成績評価の基準が例年と比べて何らかの変化があったかどうかをたずねた設問を集計すると(図3)、「例年と変わらない」という回答が約半数を占めるものの、いつもよりも「甘くなった」と回答する教員も比較的多いことがわかります。また、実際につけた成績も例年よりも高い傾向があることがうかがえます(図4)。このことから、成績分布の上昇の一因として教員の成績評価基準の揺らぎがあることが示唆されます。
成績評価基準に何らかの変化があったと回答した教員に、変化の要因として考えられることをたずねたところ、「試験やレポートなどの評価方法の変化」や「授業方法の変化」に多くの言及がありました(図5)。十分な準備ができないままに授業方法が変更され、それに伴って成績評価の方法も変えざるを得なかったことで、教員自身も試行錯誤しながら成績評価を行わなければならず、結果的に基準が揺らいでしまったことがうかがえます。この点は今回のオンライン授業での成績評価における課題としてとらえる必要があるでしょう。
学生の到達度や学習の取り組み状況
では、2020年度の成績分布の上昇は教員側の成績評価基準の変化だけが原因なのでしょうか。そこで次に、実際につけた成績評価とは別に、学生の到達度や出来具合、学習の取り組み状況に対する全体的な印象をたずねました。
学生の到達度および学習への取り組み状況のいずれにおいても、教員からみた印象としては、例年よりも到達度が高く熱心に学習に取り組んでいたという回答がみられます(図6、図7)。あくまでも教員による印象ではありますが、2020年度は学生も例年よりも熱心に取り組み、その結果として到達水準も高まったという側面もありそうです。先ほどの成績評価基準の変化についてたずねた項目で、評価の基準が「変わらない」「厳しくなった」と回答する教員と「甘くなった」と回答する教員に分けてみると、評価の基準を変えていない教員においても例年よりも学生の到達度が高かったと回答する割合が「甘くなった」と回答した教員と同程度となっています(図8)。成績評価の基準が変わっていない教員からみても、2020年度の学生は例年よりも熱心に学習に取り組み到達度が高かったという印象を持ったということは、評価基準の変化だけが成績上昇の要因ではなく、学生がしっかりと学習に取り組んだ結果であることも示唆されます。
まとめ
世界的な感染症の流行拡大によって、2020年度は十分な準備もできないままに授業が急遽オンラインで行われることになり、学生、教員、事務局ともに試行錯誤のなかで何とか授業を実施してきました。授業方法の大幅な変更は教育の効果や質にも様々な影響が懸念されており、小樽商科大学ではいろいろな側面から検証を進めています。ここでは成績分布が数値として例年よりも上昇していること、そのひとつの要因として教員の成績評価基準の揺らぎがあること、他方で評価基準の変化以外にもオンライン授業で学生も例年より熱心に学習に取り組み到達度が高かった可能性などを、成績データと教員向けのアンケート調査の結果から示しました。
これらの分析結果から、緊急避難的に実施されたオンライン授業でしたが、例年と比較してもそん色のない成果をあげることができたことが見えてきました。2021年度においても本学の授業は引き続きオンラインが中心となっていますが、ここでの検証結果を踏まえてさらに分析や検証を進めるとともに、教育の改善に向けた取り組みを進めていきます。
お問い合わせ先
グローカル戦略推進センター 教学IR室
TEL:0134-27-5221 / FAX:0134-27-5213
e-mail:iroffice@office.otaru-uc.ac.jp
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